仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第367話 会いたい人
投稿:院長

Mさんは80代の女性です。


脳梗塞のため寝たきりになり、普段はすっかり無口になってしまったMさんですが、もともと明るくユーモアがあり、人とおしゃべりすることが大好きだったそうです。


そして、今もその一面が随所に溢れています。


お正月に、子供の頃からかわいがっていたお孫さんが帰省した時は、よほど嬉しかったのか、娘さんがびっくりするくらい陽気におしゃべりしたそうです。


Mさんはお酒も大好きで、特にワインが欠かせません。そしてチョコレートも大好物。


ある日の診察でご自宅を訪問すると、Mさんの額や頬が赤くなっていました。

娘さん曰く、「お酒を飲むとこのあたりが赤くなってしまうんです」


そして、よく見ると唇の周りにはチョコレートが付いているありませんか!


Mさんは、診察前にチョコレートを肴に一杯やっていたんですね〜。


愛されキャラのMさんは、娘さんに額のあたりを撫でてもらうことが多く、どうやらこれも額が赤くなっている原因のようです。


深夜、Mさんが娘さんを呼ぶことがあるそうですが、ある日、要件が済んでから娘さんに向かって「次、お待ちしてま〜す」と一言。

これを聞いた娘さんは、どんなに些細な要件であってもMさんのことを怒ったりできないそうです。


さらに、Mさんは、寝言で亡くなったご主人の名前をしきりに呼ぶそうですが、ある日、娘さんが「お父さんに会いたいの?」とMさんに聞くと、Mさんは「まだ!」とだけ一言。


お正月が明けて、再び無口なMさんに戻ってしまいましたが、きっと、大好きなお孫さんと再会するまで、省エネモードになっているのかもしれません。


ということで、Mさんが天国のご主人と会う日はまだまだ先になりそうです。


天国のご主人は、にっこり微笑みながら「お待ちしてま〜す」とつぶやいているかもしれませんね。


2025年1月23日(木)

 第366話 犬がくる
投稿:院長

明けましておめでとうございます。


少し遅れましたが、今年初めてのブログになります。


昨年末に足を骨折し、ここ数か月の間、整形外科に通院しながらシーネ固定を受けていた患者Kさんがいます。


骨折当初、足の痛みが続き、以来「果たして骨折は治るのだろうか?」と、ずっと不安に悩まされることになりました。


たびたび診療所や訪問看護ステーションに電話でコントロールできない悩みや不安を訴え、職員は傾聴を続けました。


それでも、次第に痛みがなくなり、固定をしたまま車椅子に移動できるようになり、少しずつ明るい兆しが見え始めました。


そして、12月の整形外科の診察で、「骨折部は順調に治ってきています。あと数週間で固定が外れそうです」と伝えられてからようやく笑顔が増えてきました。


ある日の訪問診療で、私はKさんにここまでよく頑張ったことをねぎらい、あと少しだから頑張りましょうと激励すると「足が治ったら、犬を飼うことにしたんです!それを楽しみにして頑張ります!」ととびきりの笑顔で応えてくれました。


話が変わりますが、2020年の大河ドラマは「麒麟(キリン)がくる」とのタイトルで戦国武将・明智光秀に焦点が当てられました。麒麟とは王が仁のある政治を行う時に必ず現れるという架空の動物のことで、番組公式サイトには「応仁の乱後の荒廃した世を立て直し、民を飢えや戦乱の苦しみから解放してくれるのは、誰なのか…そして、麒麟はいつ、来るのか?」と記されました。


戦乱の世が一刻も早く終焉し、太平の世の始まりとともに現れる麒麟を誰もが待ち望んでいたんですね。


Kさんにとっては、幸せを運んでくる動物は麒麟ではなく、「犬がくる」と言えそうです。今年は、Kさんにとって良い年になるに違いありません。


それにしても、今年は巳(へび)年なのですが、Kさんが「蛇を飼うことにしたんです!」と言わなくて良かった・・・(笑)。


皆さんにとっても良い年でありますように。


今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 


2025年1月13日(月)

 第365話 やり残したこと
投稿:院長

早いもので今年もあとわずかになりました。


在宅患者さんの中には、病状が不安定で年越しすることが目標になっている方も少なくありません。


そんな中、残念ながら12月中に亡くなる方もいて、Mさんもそのうちの一人です。


Mさんは、定期的に入退院を繰り返しながら治療を受けてきましたが、病状が徐々に進行し、ここ数が月間はまともに食事ができない状態でした。


それでもMさんは、私たちの前では、弱音や愚痴を口走ることなくいつも明るくユーモアを忘れませんでした。


12月のある日、いよいよ看取りが迫ってきた中でのやり取りです。

私「ここまでよく頑張りましたね」

Mさん「悔いはありません」

私「何かやり残したことはありませんか?」

Mさん「スマホが古くなったので、新しいスマホに買い替えたいですね」


私は、Mさんの予想外の答えに一瞬驚いてMさんのスマホに目を移すと、今では見かけなくなった古い機種のままでした。


そして翌日、奥さんと一緒に近所のスマホショップに出かけて新しいスマホを買ってきたそうです。


その翌日、再び訪問すると、Mさんは意識が遠のく中、「新しいスマホの使い方が分からなくてね」と微笑みを浮かべながら話をされました。そしてそれが私との最後の会話になりました。


振り返ってみると、Mさんは生きることへの意欲を失っていなかったのですね。


Mさんの気持ちを理解して、一緒にスマホショップに出かけた奥さんの思いやりや優しさにも大変感銘を受けました。


今頃、天国のMさんは新しいスマートフォンと格闘しているに違いありません。

そして、新しいスマホを使いこなせるようになったら、奥さんの心にMさんらしいユーモアの溢れる言葉をラインするのでしょう。


私たちは、Mさんが示してくれた人としてあるべき姿をけして忘れることはないでしょう。Mさん、ありがとうございました!


いや〜、人って本当にいいものですね〜、今年もさよなら、さよなら、さよなら・・・。


来年もどうぞよろしくお願いいたします。


2024年12月31日(火)

 第364話 年末の大掃除
投稿:院長

今年もあとわずかとなり、年内に終わらせなければならないことが少なくありません。年末の大掃除もそのうちの一つかもしれません。


昔は家の中にかまどや囲炉裏があり、家の中が煤(すす)だらけにならないように煤払いしたのが大掃除のルーツとされています。


そして、掃除が必要なのは家の中だけではありません。


在宅患者さんは、ご家族から援助されながら身体各所をケアしていますが、当人だけでは手が回らない部位がいくつかあります。


変形した足の爪や耳の穴の中です。


12月のある日、Sさんのご自宅を訪問した際、ご家族からSさんの耳の掃除を依頼され、これも「年末の大掃除」ということで引き受けることにしました。


同行する看護師にペンライトを使って耳の穴を照らしてもらいながら、Sさんの耳の穴の中を覗いてみると、案の定、びっしり耳垢で埋め尽くされていました(笑)。

慎重に手前にある小兵の耳垢から除去を進め、最後に今まで見たことがない超大型の「耳垢の総大将」を引っ張り出した時には、それを見た一同から歓喜の声があがるほどでした。


ご家族「訪問看護師さんにも見てもらいたいので、大事に保管しておきます!」


耳垢を除去した後は、難聴気味だったSさんの聴力が回復しているのがはっきりとわかりました。


診療所に戻った後、記念としてタブレットで撮影した「耳垢の総大将」をスタッフに見せて感動を共有しました。


耳垢を除去することは、単に除去する以上の様々な効果をもたらすことがよくわかり、来年も耳垢除去の鍛錬を重ねてスキルアップを目指していきたいと感じました。


最後に、今年もたくさんの喜び、安心、感動を教えてくださったSさんとご家族に感謝したいと思います。ありがとうございました!


そして、高額なアンチエイジングに必死に取り組んでいる方々に、年齢を重ねても自分らしさを失わず自然体で過ごしているSさんの耳の垢を煎じて飲ませたい!

 


2024年12月26日(木)

 第363話 年末びっくり大作戦
投稿:院長

Tさんは70歳代の女性です。


神経難病のため二人暮らしをしているご主人の献身的な介護を受けています。


今年、重症の感染症で入院したことをきっかけに体力が低下し、もともと小柄だった身体はさらに体重が減り、とうとう30kgを切ってしまいました。


そんな折、Tさんを担当するケアマネジャーさんの紹介で、訪問診療を受けることになりました。


初めてお会いしたTさんは、痩せて元気がなかったのですが、ご主人は明るくとても気さくな方で、Tさんが元気を取り戻すように、いろいろな食材を工夫しながら調理して懸命にTさんの食生活を支えていました。


その後、訪問するたびにTさんは元気を取り戻し、12月の最初の診察では頬がふっくらし、話しかけると穏やかで柔らかくて優しそうな微笑みを返して下さいました。


私は、「ご主人はTさんのこの表情に惚れてしまったんだろうな〜」と確信しました。


ご主人は、体重が増えてきたこと、介助すれば家の中を歩けるようになってきたこと、久しぶりに自然に便が出せたことなど、最近のTさんの様子をいつもの明るい表情で嬉しそうに話してくださいました。


そして「東京の娘が年末に帰ってきたら、元気になってびっくりすると思います!」


ご主人は娘さんの帰省がとても待ち遠しそうです。


Tさんとご主人の「年末びっくり大作戦」がどうか大成功となりますように!


2024年12月14日(土)

 第362話 ピアノの達人
投稿:院長

Tさんは、90歳代の女性です。

年齢や病気を重ねて次第に身体が不自由になる中で、Tさんの生きがいの一つがピアノを弾くことです。

Tさんのご両親とも音楽の先生という音楽一家で育ったTさんは、子供の頃からピアノに慣れ親しんでいたそうです。

ある日、診療チームがTさんのご自宅に訪問した時、Tさんは、私のリクエストに応えてピアノを演奏して下さいました。

昔に比べると思うように指を動かせなくなっていますが、それでも鍵盤に魂を込めているかのように、指を精一杯動かし一つ一つの音色を奏でていく様子はとても感動的です。

それでいて、Tさんの温もりが私たちを包み込み、幸せな時が部屋の中を流れているかのようでした。

そして、演奏の最後にお辞儀をする時の懐かしい「ジャーン、ジャーン、ジャーン」の音でその日の音楽会は終了となりました。

翌年の春、診療所にお菓子の詰め合わせが届きました。

いくつもの袋の中には、一人分の3種類のお菓子が丁寧に収められており、袋には「ありがとう」の文字が添えられていました。

それは、節目の誕生日を迎えたTさんが、周りの方々に感謝の気持ちを込めて贈ったものでした。

そして、大きなケーキを前に、ご家族の皆さんと一緒に微笑みを浮かべるTさんが写真に収められていました。

これからもTさんの人生が、平和、感謝、幸福の優しい音色で奏でられますように。

♪♪もしもピアノが弾けたなら、思いのすべてを歌にして、きみに伝えることだろう♪♪


2024年11月30日(土)

 第361話 干し柿の達人
投稿:院長

Oさんは、70歳代の女性。

一人暮らしをしていましたが、病気の進行で歩くことが不自由になってきました。

娘さんの自宅に転居するか、施設に入所するか、迷った末に選んだのは、訪問サービスを充実させて自宅で一人暮らしを続けることでした。

自宅という空間は、誰にも気兼ねすることなく、自由に過ごすことができます。

Oさんは優しくて気配りの人。

今まで、他の人に対し遠慮してばかりで、それでいて自分のことに対して無頓着なOさんが、これからは自分のための生きようと下した結論でした。

その後、Oさんの自宅に訪問すると、搬入されたばかり介護用ベットに気持ちよさそうにゆったりと横たわるOさんの表情はとても穏やかです。

Oさんは何か吹っ切れたように、自分だけの空間、自分だけの時間を満喫しているようです。

ある日の診察で、Oさんは私に話しかけてきました。

「先生は干し柿が好きだったでしょ。今朝、干し柿を作ったの」

ベランダを見てみると、夕日に照らされて映える丸々とした干し柿が吊るされていました。

そういえば、昨年、Oさんの干し柿を感激しながら食べたことを思い出しました。

不自由な身体を動かして、きっとつらい思いをして作ったであろうに、他人に対して配慮してばかりのOさんらしさはそのままです。

Oさんが全身全霊のエネルギーと心を込めて作った干し柿。

Oさんのまるやかで味わいのある干し柿を食べた私は、きっと「干し野」になってしまうに違いありません。


2024年11月22日(金)

 第360話 整理整頓の達人
投稿:院長

Hさんは85歳の男性です。

神経疾患の進行のため、歩行が不自由で通院が困難となり、訪問診療を受けることになりました。

Hさんは、ヘルパーや近くに住む娘さんの見守りを受けながら、なんと今でも独居生活を送っています。

Hさんの自宅に訪問するとまず気付くことは、室内が整理整頓されとても清潔なことです!

独居暮らしの男性の場合、室内に物が溢れて混乱していることが多いのですが(私の独身時代?)、Hさんは、体が不自由になった今でも他の人の支援を受けながら掃除を欠かしません。それは床だけでなく、机の上、ベッドの周辺、台所、玄関、衣類ラックに至るまで、ありとあらゆる場所に及んでいます。

Hさんは、もともと寿司職人で、今でも台所で包丁を器用に扱って調理したり、食器洗いを欠かしません。Hさんに手のひらを見せてもらうと、意識が指の先にまで行き届いているためか、まるで若い女性のようなきれいな肌をしています。

寿司職人として、常にお客さんに安全な料理を提供し続けてきた気持ちが手にも表れているのです。人におもてなしをするプロフェッショナルとしての心を持ち続けているのですね。

Hさんは、寿司職人を引退されていますが、今も自分の心を丁寧に握り続け、心の形を整えています。

Hさんが、手に汗を握ることのない穏やかな生活がどこまでも続くように支えていきたいと思います。



2024年11月11日(月)

 第359話 料理の達人
投稿:院長

Hさんは70歳台の男性。

数年前からの体調不良で、仙台市内の総合病院で治療を受けましたが、残念ながら効果が乏しく、在宅緩和ケアを受けるため当院に紹介されました。

当初は食欲がない状態でしたが、いくつかの治療薬が奏功し、徐々に苦痛が軽減し体調が安定してきました。

もともと手が器用なHさん。体調が安定してくると、以前のように自宅で得意の手料理を振るい始めました。

ある日、Hさん宅を訪問した時、夕食のために調理したというリゾット、餃子を見せていただきました。

私「おお〜!すごい」

素人の男性が作ったとは思えない見事な出来栄えに驚嘆することになりました。

Hさんと食事を共にする奥さんは、「とてもおいしいですよ。私は楽をさせてもらっています」とホクホク顔。

私(心の中のつぶやき)「こりゃ〜俺のカミさんよりも上手だわ・・・」

奥さんのこんな幸せそうな顔を見ると、Hさんのモチベーションが益々高まってくるのでしょうね。

Hさんの目標は、来春、友人とのゴルフすることです。

どうやら、今年のゴルフコンペで体調不良になり、最後までプレーできなかったのが心残りだったようです。

シニア世代のゴルファーの目標は、自分の年齢以下のスコアで18ホールを回ること(エイジシュートと言います)。Hさんはベストスコアは76の腕前。

来春のゴルフでは、料理と同様に「マスターズ(達人)」の仲間入りをしてほしいと願わずにはいられません。 


2024年10月31日(木)

 第358話 レクレーションんの達人
投稿:院長

Hさんは、脳卒中の後遺症で介護が必要になり、当院の訪問診療を受けている80代の女性です。

Hさんがどんな方なのか一言で表現すると、とにかく「明るい」です。

2年以上前から診察していますが、いつも笑いが絶えることなく、微笑んでいる姿しか想像できません。

その笑いの源は、デイサービス。

Hさんが通所しているデイサービスはレクレーションが豊富で、Hさんはそこでの生活をこよなく楽しんでいるのです。

Hさんの自宅の部屋には、デイサービスで撮影されたHさんの姿を写真で見ることができます。

どれもこれもHさんの笑顔で溢れており、見る人の心も温めてくれます。

誕生日祝いで贈られた色紙、豪華な首飾りに身を包んでカラオケで熱唱する姿・・・。

その中で私の一番のお気に入りは、数年前の冬に撮影されたという凧揚げの写真です。

風にも負けず、寒さにも負けずに車椅子に乗って懸命に糸を引くHさんの表情がとても楽しそうです。

8月に開催された夏祭りでは、なんとスイカ割りを楽しまれたそうです。

そして9月に開催された敬老会では、美空ひばりさんの「みだれ髪」を熱唱されました。

敬老会を振り返ったHさんの感想は・・・「敬老会は楽しかったです!」でした。

髪のみだれに 手をやれば〜♪

紅い大凧 風に舞う〜♪

楽し嬉しや 憩いの岬〜♪

切っても切れない 絆の糸が〜♪

胸にからんで 笑顔を絞る〜♪

 天国のご主人も、美空ひばりさんも、きっと微笑んでいることでしょう。


2024年10月21日(月)

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