仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第413話 開院5周年!
投稿:院長

51日で開院5年目を迎えました。


地域の皆様のおかげで、よちよち歩きだったあゆみも、チコちゃんと同じ5歳になりました。チコちゃんは永遠の5歳ですが、あゆみはまだまだ成長していきます!


55日は私の誕生日で、今年は偶然、同じ日に誕生日を迎えた患者さんを診察することになり、一緒にお祝いしてもらいました。


職員からは、なんと私が作成したプラモデルの写真が写った包装紙で包まれているオーダーメイドのチョコレートの箱詰めを頂きました。感謝感激。


そして、開院5周年のこの機会に、今後の5年間に診療所としてどうあるべきか以下のように目標を設定しました。


1.現状維持ではなく変化に柔軟に対応できる組織運営を行う

国の政策が病院から在宅医療にシフトしていくという流れの中で、これから在宅診療所がますます増えてくることが予想されます。選ばれる診療所であり続けるために、何が必要なのか、当院の長所はなんなのか、各人がよく考え、改善しなければいけないことを一つ一つの点検して、必要な部分は見直していくバイタリティが求められます。また、診療報酬改定や時代の変化に対して、診療の質を落とさないようにしながら、診療所で何ができるのか、柔軟に変化に対応していけるような組織運営を行っていきます。


2.予測が可能な事に対して事前準備を怠らない

「起きてから慌てて対応する」ではなく、「起きないように前もって準備する」、「起きることを前提として準備しておく」ことが求められます。例えば、過去の病歴でなんらかの体調トラブルを起こしやすい人に対しては、トラブルが起きて慌てて対応するのではなく、「トラブルを繰り返さないために予め準備しておく」、「トラブルが起きても予め迅速に対応できるように準備しておく」ことを心がけるようにします。


3AIや新しいツールを積極的に使ってみる

効率的な業務を行っていく上で、積極的にAIを活用していく姿勢が求められており、職員一人一人のAIリテラシーを高めていきます。しかし、AIの判断や結果を鵜呑みにせず、点検を怠らず最終的な責任はヒトにあるということ、AIには決してマネできないヒトにしかできない業務は何なのかを意識して運用していきます。


4.自分の職種の強みを発揮する

それぞれの職種として、「自分だからできる役割」、「自分たちにしかできない役割」を意識することが大切です。例えば、看護師であれば、患者変化への気づき、医師への適切な報告、家族対応、多職種連携などを通して、診療アシスタントであれば、往診車の安全な運用、事前準備、情報整理、スケジュール調整、連絡や共有のサポートなどを通して、単純に業務をこなすだけでなく、最終的には患者さんの利益につながり、チーム全体を助ける動き意識しながら業務していきます。


5.悲観的に判断するのではなく楽観的に工夫してみる

「できない」ではなく「どうしたらできるか」を考えていきます。そのために、悲観的に立ち止まって思考を停止するのではなく、工夫して前進していくための方法を模索していく姿勢を示していきます。トライ&エラーを繰り返しながらも、さらに良い別な方法はあるのか、周囲と相談しながら前進を続け、最終的には関わった皆がハッピーになるような結果を出していけるように努力を惜しみません。


6. 周囲を喜ばせるもう一歩先のサービス精神を持ち続ける

診療所の業務は個人プレーでは成り立ちません。「もう一歩先の気配り」を意識して、サービス精神溢れる業務を心がけていきます。例えば、次に使う人が困らない準備をしておく、依頼される前に共有しておく、関わっている人が安心できる一言を添える、さりげなくサポートするなど、「自分が担当すること、頼まれたことを行う」だけではなく、常に思いやりの気持ちを持って、「相手を助け、相手を喜ばせることを自主的に行う」ことを意識して業務にあたっていきます。


最後に、大相撲の力士が、大関や横綱昇進の伝達式で述べる口上風に締めくくりたいと思います。


「これからも初一念を忘れずに精進、努力し、ボーっと仕事してんじゃねーよ!とチコちゃんに叱られないように、心を込めて訪問診療に邁進したいと思います」


これからも、どうぞよろしくお願い致します。


2026年5月11日(月)

 第412話 笑顔の報酬
投稿:院長

訪問診療では、病気の終末期と診断され、在宅緩和治療を目的に診療が始まり、最終的には自宅でお看取りする方がいる一方で、それまで元気だった方と急にお別れすることがあります。


3月にお亡くなりになった90代のSさんもその一人で、年が明けるまではとても元気に過ごされていました。


Sさんは、私のおやじギャグをいつもニコニコと笑って下さる数少ない?明るく優しい方でした。


ある日の診療で、Sさんから「ドライアイなので目薬が欲しい」と言われました。


高齢者だと通常は「目が乾くので」と表現される方が多いのですが、「ドライアイ」と表現された方はSさんが初めてだったので、それ以来、私が逆質問をして、Sさんと合言葉をするようになりました。


私「Sさんに目薬を出したいのですが、Sさんの眼の症状はなんですか?」

Sさん「ドライアイです」


Sさんは、頭がとてもしっかりしていましたが、自分で足の爪切りをすることが困難になっていたので、診察ではSさん専任の「爪師」として爪切りをすることが日課になっていました。


私が小学生の頃、毎月、バリカンで祖父の散髪をしてお小遣いとして700円をもらっていたのですが、Sさんからの報酬は、私の冗談にいつも「あっははは!」と声を立てて笑って下さるとびきりの笑顔でした。


Sさんの笑いは「今日もSさんに笑ってもらって嬉しかったな!」とこちらが元気をもらえるような不思議な力がありました。


今年の1月の下旬、黄疸が出現したと連絡があり往診した時、枕元には大好きな饅頭が置いてあり、「病気があっても饅頭を忘れずにいるなんてさすがSさんです!」と話した時も、病院で診断を受けて最後の日々を自宅で過ごすために退院した時も、いつものように「あっははは!」と声を立てて笑ってくださいました。


亡くなる1週間前は、意識が遠のき、さすがに声を出して笑うことは叶いませんでしたが、Sさんと出会ったことに感謝しながら、精一杯、脚をマッサージさせてもらいました。


診療所のSさんのカルテのトップページには、今でもSさんの微笑む姿を写真で見ることができます。


今、Sさんに声をかけるとしたら、こんな言葉を口にするでしょう。


Sさん、目はドライですが、心は優しさで満ち溢れていますよ!」


Sさんなら、天国で「あっははは!」と笑ってくれるに違いありません。


2026年4月30日(木)

 第411話 尻活中
投稿:院長

Iさんは60代の女性です。


進行がんのため、食事が満足にできなくなり、いといろと苦痛を感じながら過ごされているはずなのですが、普段の診察では、そんな様子はみじんも感じさせないような、明るくてユーモア溢れる方です。


ある日、その理由を尋ねてみました。


私「Iさんは、いつも明るくていいですね!」

Iさん「はい、明るくやっています。息子も癌をやっているから、その時になんでこんなことになってしまったのかと落ち込んだけど、その時に比べれば楽勝です」

Iさん「息子は治療を受けて完治して今はすっかり元気で、おかげで孫にも出会うことができました!」


Iさんは、息子さんが病気になった時に、母として相当な苦悩を感じて過ごされたようですが、今回は自分のことなので、「母として苦悩するよりはよっぽどましだ」と考えているようです。


わが子が病気になった時、できれば自分が代わってあげたいと感じる方も少なくないのですが、Iさんこそ真の母親の姿なのですね。


Iさんは腸閉塞になりやすく、内服薬ではなく、主に注射薬や薬剤で症状の緩和を図っていますが、便通や排ガスはとても大切です。


私「最近、お通じはありますか?」

Iさん「はい、うんち君は、坐薬を入れてすこしやわらかいのが出ました。その時はおなら君も一緒に出て楽になりました」

私「今は、口から薬を飲めないので、お尻がフル活動ですね」

Iさん「はい、今は“尻活”中で、私のお尻君はとても働き者です」


Iさんを見ていると、自分の身体の一部も生理現象もすべてわが子のように愛着を感じているようです。


Iさんの愛らしい雰囲気にすっかり魅了させられ、「目尻君が下がりっぱなし」の私でした。


2026年4月21日(火)

 第410話 腕を組んで歩こう
投稿:院長

Mさんは、心臓病を持つ90代の男性です。


もともと県外で奥さんと暮らしていましたが、数年前に仙台に住んでいる娘さんに呼び寄せられ、奥さんと一緒に移住してきました。


仙台では、娘さんの家族以外に知り合いがおらず、仙台の気候や環境に馴染むのか不安を抱えながら過ごしていましたが、そんな時、かかりつけになっていた仙台市内の総合病院から紹介されて、訪問診療が始まりました。


Mさんは、物静かでとっても真面目な人柄で、毎日の血圧測定、体重測定や飲水制限、塩分制限を欠かさず、診断や治療をしてきた主治医が驚くように病状が安定しています。


そんなMさんを支えるのが、明るくて優しい奥さんと、毎朝、両親の見守りを欠かさない娘さんの存在です。


Mさんの診療では、必ず娘さんのことが話題になるので、私の頭の中には「親孝行の娘さん」としてすっかりとインプットされていたのでした。


そして、先日、娘さんが診療の同席をすることになり、初めてお会いする機会に恵まれました。


娘さん「いつも父がお世話になっています」

私「あっ、親孝行な娘さんですね」


娘さんは、私の想像した通り、ご両親に似てとても優しそうな方でした。


そして、その場でMさんご夫妻が、娘さんの手配でコーラスグループのフォレスタの仙台コンサートに行くことを知らされました。さずが、親孝行!粋な計らいです。


コンサートに行くことが決まってから、この日のために、Mさんは週に数回のリハビリに取り組んできました。


そして、私は「ぜひ夫婦で腕を組んでコンサートに行きましょう」と提案してみました。


奥さんによると、昔からMさんは恥ずかしがり屋で、夫婦で一緒に歩く時は、寄り添うことはおろか、横並びで歩くことさえも好まず、常に前後の距離を置いて歩いていたそうです。


私の提案に奥さんはやる気満々で、早速、その場で腕を組んでもらいました。


Mさんは恥ずかしそうに微笑み、奥さんは満面の笑みです。


私「奥さんは、Mさんの真面目で優しいところに惚れたんですね」

奥さん「そうなんです!」

私「Mさん、これからは、恥ずかしがらずに堂々と腕を組んで、奥さんを喜ばせてあげてくださいね」


ということで、この日は、Mさんに「妻と腕を組んで歩くリハビリ」を処方しました。


コンサート前日の診療では、腕を組んで寄り添って歩く予行演習を行うことになっており、コンサート当日は、いよいよ今までのリハビリの成果を発揮することになります。


きっとフォレスタの美しい歌声が、Mさん夫妻にとって初めての腕組みデートを祝福してくれるに違いありません。


2026年4月13日(月)

 第409話 安否確認
投稿:院長

若い時に比べて、「先生はお元気でしたか?」と逆に患者さんから聞かれる(心配される?)ことが多くなりました。


医師は、患者さんに元気や安心感をもたらす存在である以上、「いいえ、私は体調不良です」と答えることはめったにないかと思います(笑)。


Mさんは、70代の女性です。神経難病で身体は不自由になってきましたが、ヘルパーの支援を受けながら、今も大好きな自宅マンションで一人暮らしをしています。


Mさんは、顔立ちも髪型も見た目は若き日の松田聖子さんのような女性ですが、会えばいつも笑顔を絶やさず、話せば弱音を吐かず、芦田愛菜さんのようなとても明るい性格で、診察している私の方がいつも元気をもらえる存在です。


先日、久しぶりにMさんの診察にうかがった時、Mさんからこんな発言がありました。


「最近、先生にお目にかからなかったので、お元気にしているか心配していました」

「でも、いつもブログを見ているので、元気にしているんだろうなと思ってました!」


Mさ〜ん、私はMさんのおかげで元気にしていますよ!

お仕事で忙しい息子さんに早く会えるといいですね!


ということで、このブログは私の安否確認の場所になっているのです。


「最近、ブログが更新されないのだけれど、院長の体調は大丈夫か?」とならないように、これからも体力と気力が続く限り、書き続けたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 


2026年3月31日(火)

 第408話 つかの間の喜び
投稿:院長
センバツ高校野球で、今日、東北高校が、あのダルビッシュ有以来の22年ぶりの勝利!

やったー!と歓喜したのもつかの間、勝利した相手が、私の故郷の代表・帝京長岡高校だった(泣)。

2026年3月23日(月)

 第407話 贈る言葉
投稿:院長

Sさんは90代のとても物静かな男性です。


活発で明朗な奥さんと二人暮らしをされていますが、Sさんの診察でもっぱら話をするのは奥さんで、本人からめったに言葉が出てくることはありません。


Sさんは中学生の頃に、足に大きな外傷をきっかけに骨隨炎を発症し、それ以来、傷の処置が必要になりました。


70年ほど前にお見合いしてから、奥さんにはこの古傷のことを打ち明けないまま結婚したそうなのですが、結婚後、奥さんがこの古傷を毎日毎日、処置することになりました。


診察では、奥さんからは出てくる言葉はSさんへの愚痴ばかりです。


「この人は、傷のことを隠して結婚したのね。傷のことを知っていたら一緒になっていなかったのにね・・・」

「少しは動いてくださいと言っても、ずっと座ってばかりなんだから・・・」

「何言っても黙っているばかりなんだから・・・」


私は「Sさんは90歳を過ぎても、身の回りに事は自分でできているし、傷の処置をしたり、家事をする以外は、奥さんの手を煩わすことがなく、かなり優秀な旦那さんなのですよ」

「物静かな旦那さんだからこそ、話し上手な奥さんと釣り合いがとれて平和なのですよ」

とすかさずSさんを擁護します。


しかし、奥さんの言葉とは裏腹に、クリスマスには、食卓にショートケーキが2個そっと置いてあったことを私は知っています。きっと、2人でささやかにクリスマスを過ごしたのでしょう。


そして、明治ヨーグルトR-1のドリンクタイプが必ず2瓶配達されていることを私は知っています。きっと、お互いの健康を気遣いながら2人で毎日飲んでいるのでしょう。


さらに、市販の総合感冒薬・パブロン錠が入っている瓶が2個、居間のテーブルの上に置いてあることを私は知っています。きっと、仲良く風邪を引いた時?には、風邪薬が足りなくならないように二人分が用意されているのでしょう。


ということで、室内の状況証拠から、2人は生活の全てを分かり合い、とっても仲良く暮らしていることがよくわかるのです。


そして、ある日の診察では、ついに「この人を置いて逝けないので、一緒に長生きしています」と奥さんの口から本音がポロリ。


これは、男子にとって、妻から贈られた最高の言葉に違いありません。


そして、この言葉を聞いたSさんの眼には一筋の涙がポロリ・・・。


ということで、Sさん家の家庭内不和疑惑?は何事もなく消え去ったのでした。


Sさん、これからも世話の焼ける最高の夫であり続けてください!


2026年3月14日(土)

 第406話 神秘の存在
投稿:院長

100歳を超える長寿の高齢者(センテナリアンと呼びます)が増えています。


センテナリアンは、幸福感が高く、自分の人生を肯定的にとらえる人が多く、社交的で誠実性な性格が、長寿を支えているとされています。


昨年100歳を迎えたUさんもそんな一人で、昔は知人が病気になれば看病に駆け付け、身体が不自由になったご主人を背負って浴室まで運んで入浴介助し、自宅には多くのお茶のみ友達が集まって話の花が咲いたそうです。


幸せ感が高く、それが周りの人と友好の輪を広げ、幸せがUさんの周囲に伝わっていく・・・Uさんがそこにいるだけで周りが自然と笑顔になってしまう・・・Uさんはそんな雰囲気を持った人です。


そんなUさんですが、心配ごとの一つに血糖値がありました。


Uさんは40年来の糖尿病があり、歩行が困難となり訪問診療が始まった96歳の頃は、随時血糖値が250r/dlを超え、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が7.6%台で高めに推移しており「私のヘモグロビン・エーワンシーはいくつですか?」とか「血糖値が高いのは運動が足りないからですか?」とか、Uさんからたびたび血糖値に関する質問を受けることがありました。


HbA1cや運動療法に言及した最高齢としてギネスに申請しようかと考えています(笑)。


Uさんの年齢を考慮して、特に食事制限や血糖降下薬などは一切使わなかったのですが、それから不思議なことに、食欲はとてもあるのに年々血糖値が改善し、2025年にはついにHbA1c5.7%となり、Uさんの糖尿病史上、血糖値の最良記録となりました。


ついでに腎機能を示すeGFRがなんと100ml/分を超えており、私が診察した中で、年齢より高いeGFRを記録した初めてのセンテナリアンでもあるのです!


センテナリアンは、病気に対する回復力や抵抗力を高める「保護因子」を遺伝的に多く持っている可能性が指摘されており、きっとUさんもこの遺伝子が活発に働いて長寿を支えているのでしょう。


Uさん、人間の神秘のシンボルとして、これからもますます長生きして新記録を連発してください!


2026年2月28日(土)

 第405話 悠水
投稿:院長

90代の女性Oさんは、自宅で一人暮らしです。


脊柱管狭窄症で足腰が不自由で歩く時は歩行器が欠かせません。


下半身は不自由なのですが、いつも朗らかで気品があり、Oさんの表情には何か優雅な雰囲気が漂っています。


ある日、脱衣所で誤って転んで自力で立ち上がれなくなってしまい、いつも肌身離さず持っている携帯電話を使ってヘルパー事業所に助けを求めたそうです。


ヘルパー事業所から職員が向かうまで1時間ほどかかると言われたOさんは、この時どんな行動に出たのでしょうか?


それは、待っている1時間を無駄なく過ごすため、浴室に貼って移動し、身体が冷えないようにゆっくりと時間を使って、洗髪と身体の洗浄を行ったそうです。


その後、ヘルパー事業所から助けが入った時には、全てが完了し、身体がピカピカの状態になっていました。まさに、Oさんらしい振る舞いです!


この話をOさんから聞いた時、私はOさんに対して、

「ヘルパー事業所が駆けつけるまでに時間がかかる場合は、診療所にも連絡してみてください。一番暇にしている職員(?)が駆けつけますから!」と声掛けしました。


そういえば、私は昔から「カラスの行水」でゆったりと入浴することがほとんどありません。


これからはカラスを卒業し、「Oさんの悠水」してみようかな?


2026年2月24日(火)

 第 404話 牛と火災警報器
投稿:院長

80代の男性Kさんは、脊柱管狭窄症、糖尿病の神経障害、抗がん剤の副作用などで、ここ数年、足の痛みに悩まされていました。


痛みのため、椅子に座ったまま身動きができず、毎日、椅子に座りながら夜を明かしていました。


室内で観葉植物の栽培が楽しみの一つでしたが、大好きな趣味からも遠ざかり、奥さんが観葉植物の手入れを引き継いでいました。


足浴、マッサージ、リハビリなど非薬物的な治療や、処方されている薬剤を調整したり、新たに漢方薬を導入してみたもののさっぱりと効果が上がらず、気持ちが沈み込んでネガティブな発言ばかりが目立っていました。


そこで、痛みにとらわれてしまっている状態を、少しでも改善するために抗うつ剤を少量から開始してみることにしました。


そして、そこから2週間ほど経った頃から痛みが和らぎ、自宅で「痛い」と口走ることがなくなり、表情が明るくなってきました。


それから気持ちも前向きになり、ベッド上で寝返りしたり、自力で座ることができるようになり、奥さんの介護負担も軽くなってきました。


そんなある日の夜、マンションで火災警報器の誤作動で警報音が鳴り響き、驚いた奥さんが、玄関に出て周囲の様子をうかがっていたところ、なんと本人が杖を使いながら奥さんの傍まで歩いてきて「どうしたの?大丈夫か?」と話しかけてきたそうです。


「あなた、歩いているじゃないの!」と奥さんが言ったのかどうかわかりませんが、奥さんは、火災警報器が鳴ったことよりも、Kさんが立って歩いていることを驚いたに違いありません。


後日、このエピソードを奥さんから聞いた時、私はアニメ「アルプスの少女ハイジ」の中で、ハイジの親友で足の不自由なクララが立ち上がった時のことを思い出しました。


クララは小屋の近くの木のそばで、クララのおばあさんに本を読んでいましたが、おばあさんは途中で居眠りしてしまいました。そんな時、クララの元に一頭の牛が近づき、おばあさんはクララの悲鳴で目を覚ましました。牛の恐ろしさのあまり、クララは座ったまま後ずさりし、そのまま木に寄りかかりながら立ち上がったではありませんか!おばあさんはこの時、「クララが立った!」と呟きました。


今では、クララがなぜ立てなかったのか、日光不足による「ビタミンD欠乏症くる病」とか精神疾患の「転換性障害」とか、原因としていろいろと考察・推測されているようですが、Kさんの場合、火災警報器が牛の役割を果たしたのは明らかなようです。


2026年2月11日(水)

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