仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第357話 俳句の達人
投稿:院長

達人シリーズの第5回目もSさんです(笑・今までとは別人物です)。

Sさんは、90歳の女性で、身体の不調に悩まされながら、明るく前向きに一生懸命に過ごしていらっしゃいます。

Sさんの趣味は俳句です。

人生には自分の思い通りにいかないことがありますが、Sさんは俳句を詠むことで、自分の心と向き合い、自分の心をリセットし、穏やかな心を保ってきたのでしょう。

Sさんは、自分の句をご家族にパソコンで編集してもらい、句集にしてまとめています。

ある日、この句集を初めて拝見しました。

Sさんが、日々の心の情景を素直な気持ちになって詠んだ俳句は、見る人の心もほっこりとさせ温めてくれるのです。

今日は、この中から、私が気に入った一句を紹介したいと思います。

お亡くなりになったご主人が認知症になった時に詠んだ句です。

「恐妻を 天使に変えた 認知症」

Sさんの俳句は、自分にとって好ましくない出来事があっても、ポジティブな気持ちにさせてくれるユーモアがちりばめられています。

「葛藤を 笑顔に変える 俳句集(排苦集)」


2024年10月5日(土)

 第356話 手芸の達人4
投稿:院長

手芸の達人4回目は、70代の女性Sさんです。

病気のため身体に不自由がありますが、あるものを工作する名人です。

それは、手提げバック。

それもただの手提げバックではありません。

バックの生地には、なんと色鮮やかな大漁旗が使われており、これを見ているだけで楽しくなってきます。

Sさん自身は、体調に波があるので、常に自分の身体や精神状態に耳を傾けて、調子が悪いときには作業を中断し、休み休み製作しています。

Sさんは、ご家族の介助で外出することが大好きで、今年は気仙沼に日帰り旅行し、海鮮料理を楽しまれたそうです。

Sさんが、大漁旗が使われた手提げバックを持って気仙沼に「凱旋」している様子を想像するだけでワクワクしてしまいます。

そして、なんと製作した手提げバックをネット販売しています!

街で大漁旗の手提げバックを持って歩いている人を見かけたら、それはきっとSさんの作品に違いありません。

話は変わりますが、今月、第333話で紹介した宇宙戦艦ヤマト(戦艦大和との合体バージョン)のプラモデルが11か月の歳月を経てようやく完成し、先日、職員にお披露目しました。

この宇宙戦艦ヤマト、実は旗竿に日の丸とともに大漁旗が掲げられています。

Sさんの影響をモロに受けた私が、見る人が元気になるようにとの願いを込めて大漁旗を掲げることにしたのです(後日、このブログでも紹介しようと思っています)。

Sさんの手提げバックは、エネルギーと元気を運んでくれる不思議な力を持つバックなのです。


2024年9月27日(金)

 第355話 手芸の達人3
投稿:院長

今回の手芸の達人もSさん(353話、354話とは別な方)です(笑)。

Sさんは97歳の女性で、今はお嫁さんと暮らしています。

普段はベッドで休まれているのですが、体調が良い時には、茶の間の作業台で手芸作業が始まります。

一体何を作られているのでしょうか?

それは子供の手のひらサイズの笠地蔵です。

様々な色合いや模様の生地を組み合わせて作った笠地蔵は、とても上品で優美です。ゆっくりですが、裁縫道具を使いながら集中力を保ちながら一つ一つ丁寧に作業を進めていく様子はまさに職人。

自宅には完成したいくつもの笠地蔵が保管してありますが、身に着けている笠と袈裟は何一つ同じものはありません。それどころか、どれも柔和で穏やかな表情を浮かべているものの、よく見ると意思を持つ生命体のように少しずつ表情が違っているのです。

普段は物静かで多くは語らないSさんですが、Sさんの穏やかな心や豊かな創造力を笠地蔵が物語っているかのようです。

仏教では、お釈迦様が亡くなった後、地上の生命のあるすべてのものを救済するためにこの世に下るとされる弥勒菩薩(みろくぼさつ)が現れるまで、567000万年の時がかかるとされています。

お釈迦様がなくなったのは、今から約2500年前の西暦紀元前486年とされているので気の遠くなるような時間です。

実はお地蔵様とは、この弥勒菩薩が現れるまで、大きな慈悲の心で苦悩する人々を救ってくれる存在と信じられてきました。

先日の診療で、Sさんの作った笠地蔵をお裾分けしてもらって診療所や自宅に飾っています。

小さいけれど、その大きくて温かな慈悲の心で職員や家族を包み込んで救ってくださる存在として大切にしたいと思います。

私たちがSさんを見守っているのではなく、実は笠地蔵を通してSさんが私たちを見守ってくれているのかもしれませんね。


2024年9月17日(火)

 第354話 手芸の達人2
投稿:院長

今回は、96歳の女性Sさん(第353話と別な方です)を紹介します。

Sさんは、長年、仙台市外で生活されていましたが、高齢のため仙台市内の娘さんと同居されるようになりました。

高齢者は生活環境の変化に適応できない方が少なくないのですが、娘さんの献身的な援助で、今の環境にすっかり馴染んでいます。

と言いますか、Sさんは、生活空間を自分の生活スタイルに合わせて変えてしまったのです。

Sさんの日課は、紙を題材にした手芸です。

自宅にはSさん専用の作業台と椅子が置いてあり、その周りには、数々の折り紙、貼り絵、天井飾りなど、色鮮やかな作品がいっぱいに飾られています。その雰囲気はまさに手芸工房。

この場所で、生き生きと作品作りに励むSさんの姿が想像できるようです

また、玄関に通じる別の壁には、新聞のチラシを切り抜いて作った貼り絵が飾られています。

色とりどりのチラシを、テーマに合わせて組み合わせて貼り絵にしたカラフルな作品をみていると、まさに美術館。

さらに、たくさんの貼り絵に囲まれたスペースには、とってもかわいいひ孫さんの写真が飾られています。

癒し系女子Sさんは、かわいいひ孫さんに癒されていたのですね〜。

Sさんの自宅は、Sさんやご家族の織り成すオーラによって、今や安らぎの空間に作り変えられてしまったのでした。


2024年8月30日(金)

 第353話 手芸の達人1
投稿:院長

在宅診療を受ける患者さんの中には、手先が器用な方が少なくなく、様々な手芸品を見ることができます。

今回から、そんな手芸の達人を紹介しようと思います。

94歳の女性Sさんもその一人で、昔はとても裁縫が得意で、今もたわしの手編みに余念がありません。

そして、そのカラフルで調和のとれたデザインは見る人の目を引いてしまうほどの出来栄えです。しかし、認知症のあるSさんは、自作してもそれをすぐに忘れてしまいます。

私「Sさんが作るたわしの色合いはまさに芸術品ですね」

Sさん「えっ、これを私が?私がこんな綺麗なものを作れるわけがないじゃないね」

もしかして、これって自画自賛?(笑)

ある日、ズボンの裾が緩んできたので、娘さんがSさんの目の前にそっと裁縫の道具を置いて、Sさんがどんな反応をするのか見守っていたそうです。

しばらくして、ズボンと針を持ったSさんはそっと作業を始めました。

Sさんにとって何十年ぶりに行う裁縫でしたが、その技術は今もしっかりと体に染みついており、あっという間に完成させてしまいました。

自宅を訪問した時、私はきれいに裾上げされたズボンをみて、私は再びSさんを称賛することになりました。

それを聞いたSさん曰く、「こんなのは、店に出すものではないからね〜」

これを聞いた私は、Sさんが自分で裾上げしたことを忘れていなくて安堵しました。それどころか、Sさんの裁縫に対するプライドは今も健在でした。

Sさんの裁縫は、幸せだった過去と穏やかな今を縫い合わせて結びつけるものだったんですね〜。

ところで、私が称賛しても絶対に喜ばないSさんをどうしたら喜ばすことができるのか?

今度は私の「技術」が試されそうです。


2024年8月19日(月)

 第352話 オリンピック観戦と自分史
投稿:院長

パリオリンピックが閉幕しました。

今回も数々の名場面が生まれ、記憶に残るオリンピックになったのではないでしょうか?

その一方で、選手村の生活環境の問題 セーヌ川の水質汚染の問題、審判の判定の問題、選手や審判に対する誹謗中傷など数々の問題も指摘されました。

特に、結果に直結するような微妙な判定を下すときは、より慎重に判断してほしいと感じました。

最近は、主観を排除し、より客観的かつ中立的な判定ができるように、採点方式やルールそのものを変更したり、AIやビデオ判定が導入されるようになりましたが、それでもそれを活用するかどうか、その結果をどう判断するかは、審判員に委ねられています。

オリンピックは選手ファーストの大会でなければいけません。

スポーツ競技の頂点(サッカーや野球などの一部を除く)の大会で、あらゆる犠牲を払ってきた選手が最高のパフォーマンスを発揮できるように、判定する側も事前にあらゆる事態を想定し、一度下した判定であっても「審判の権威」を振りかざすのではなく、その場で訂正するような柔軟な対応をしてほしいです(たとえ、それで日本選手に不利な判定に覆ったとしても)。

266代フランシスコ・ローマ教皇は、説法の中で次にように述べています。

「いかなる時代にも、権威を持つ者は、それがいかなる権威であっても、教会においても、また社会においても、神のためにではなく、自分の利益のために、権利を利用する誘惑に出会いますが、イエスは、本物の権威とは、他者に奉仕するためであって、他者を搾取するためではないと言われています」

私はキリスト教徒ではないのですが、「権威を持つ人ほど、他人の痛みを理解し、他人に奉仕する心が大切にしなさい」というこの教えにはとても共感できます。そしてこれは、宗教やスポーツの世界だけでなく、政治、経済、教育、医療・・・などあらゆる分野に通じる教えです。

しかし、スポーツを愛する者は、どんなに心が熱くなったとしても審判や選手を公の場で誹謗中傷することがあってはいけません。

ちなみに私が若い頃は、日本選手に疑惑の判定が下された時、テレビの前で怒っていたものですが、年月が経つにつれ冷静に観戦できるようになりました。

4年に1度の私のオリンピック観戦は、「自分の角ばったところが徐々に取れて丸くなってきた」ことを確かめられる良い機会なのです。

日本国旗の赤は博愛と活力、白は神聖と純潔を意味するとも言われていますが、赤が丸いのは、人に対して優しく寛大な心を国民に求めているのかもしれませんね。 


2024年8月12日(月)

 第351話 大往生
投稿:院長

人にはいろいろな死があり、在宅診療では、様々な年齢、基礎疾患、性格、社会背景、家族背景を持った方をお看取りすることになります。

その中で、大往生と判断できる方も少なくはありません。

往生とは、安らかな死後に極楽浄土へ生まれ変わるという仏教用語に由来するそうですが、中でも大往生とは、「安らかで天寿を全うしたと納得される死」に限って使用できる言葉です。

したがって、本人と関わりのある人の中で、本人の性格や考え方、生き方を一番良く知っている人物が大往生と判断できるのです。

つまり、大往生の条件とは、人生を振り返った時、やり切ったと言えるような人生であること、長寿であること、安らかな死であること、本人を一番支えてきた人物の中でそう判断できること、ということになります。

今月お看取りした、91歳のHさんもそのうちの一人で、Hさんは、50年以上もの長い間いくつもの病気をご家族と苦楽を共にして一緒に乗り越えてきた方です。約半年間の入院生活を経て、6月にご家族の待つご自宅への退院がようやく実現し、退院した時のHさんの喜びに溢れた表情は感動的でした。

それから1か月余り、我が家でとても濃密で貴重な時を過ごされました。

お看取りした時のHさんのとても安らかな表情と、奥さんの悔いなく全てをやり切った表情を見て、Hさんとご家族に対して、「大往生ですね」と声を掛け敬意を表しました(ただし、今までの経緯や雰囲気を察しないで、他人が勝手に大往生と評価することは失礼にあたるので、注意が必要になります)。

大往生だったと言える人生は、悲しみの中でも、残されたご家族が今後の人生を前向きに生きていく原動力になるに違いありません。

本人を極楽浄土へと導き、残されたご家族を次の人生へと導いてくれる人生の節目の言葉。大往生とはそんな響きを持った言葉です。


2024年7月31日(水)

 第350話 家族の温もり
投稿:院長

癌の終末期で病院から紹介された女性Sさんが、自宅で選んだ最後の療養場所は子供部屋でした。

今は成人となり、関東に嫁いでいる娘さんの部屋には、今も勉強机や漫画本が残され、娘さんが高校生までこの部屋で暮らしていた痕跡がたくさん残されていました。

Sさんは病院から退院後、この部屋に布団を敷いて過ごされていました。

仰向けになって天井を眺めながら過ごす時間はSさんにとって至福の時。

「帰ってきてよかったです。ここにいると落ち着いた気分でいられます」

そう、嬉しそうに話してくださいました。

きっと、今も残る娘さんの温もりを感じながら、妻として母として幸せいっぱいの生活をしていた時間を懐かしんでいたに違いありません。

Sさんのご主人は、Sさんのその想いを受け止め、Sさんを帰省した娘さんと一緒に最期の瞬間まで懸命に支え続けました。

話が変わりますが、今、暑さが盛りになり、Tシャツ姿の患者さんを診察することが多くなりました。

それも若者が着るようなTシャツです。

ある日の診察でご家族に尋ねました。

私「このTシャツを着ているととても若々しく見えますね。本人用ですか?」

ご家族「いえ、孫が昔着ていたTシャツです。孫からの“お上がり”なんです。」

きっと患者さんは、お孫さんの成長を温かく見守ってきたのでしょう。

そして、今は立派に成長したお孫さんのTシャツを着て、お孫さんの温もりを感じながら過ごされているに違いありません。

自宅には、今は使わなくなったけれど、家族の温もりが感じられるような心の癒しがたくさん眠っています。

そのTシャツ、将来、自分が歳をとった時、“お上がり”として活躍するかもしれません。

あ〜、また古いものが捨てられなくなってしまった・・・。


2024年7月24日(水)

 第349話 外出の目的とは?
投稿:院長

在宅医療を受ける患者さんの中でも、病院での専門治療が必要で数か月おきに通院している方がいます。

その場合、患者さんの日常の健康問題を当院で担当するなど、病院と役割分担をして診療することになります。

在宅医療を受ける患者さんのほとんどは自宅で過ごす時間が長くなり、病院を受診する時は、患者さんにとって外出することができるまさに貴重な時間です。

93歳の女性Tさんを診察した時のことです。

Tさんは、半年に1回病院に通院していますが、食べることが大好きで、病院を受診した時のことよりも、途中で立ち寄った村上屋(知る人ぞ知る仙台の名店)のずんだ餅の素晴らしい味について目を輝かせながら話してくださいました。

Tさんは歩行が困難なので、付き添ってくれた介護職員がずんだ餅を買ってきてくれる間、車中で首を長くして待っていたそうです。

Tさんは、村上屋に立ち寄ることを事前に計画していたのです!

食べ物の話題は人を明るくしますが、訪問診療でも例外ではなく、Tさんからずんだ餅の話が出た途端、その場の雰囲気が一気に盛り上がったのは言うまでもありません。

私「Tさんは、通院するついでに村上屋に立ち寄ったのではなくて、村上屋に行くついでに通院したんですね」

Tさん「そうかしらね、ふっふっふっ」

このTさんの診察以来、通院している患者さんには、貴重な外出を有意義に過ごしてもらいために、楽しみのついでに通院してみるように患者さんに提案しています。

そんな私ですが、患者さんから楽しい話を聞くついでに診療・・・とならないように注意が必要ですね。


2024年7月11日(木)

 第348話 オリンピックを前にして
投稿:院長

週末は、陸上の日本選手権をテレビ観戦しました。

日本一を決める大会なので、いつも国立競技場で開かれていると勘違いしてしまうのですが、陸上競技の競技人口や人気の底上げを意図しているためか、毎年、地方各地を転戦しており、今年は私が学生時代を過ごした新潟市で開催されました。

7月に開催されるパリオリンピックの最終選考レースに指定されているのですが、一番調子のよい選手を選考するという意図なのかまさにオリンピック開幕直前の選考レース。

オリンピックの日本代表に選ばれるためには、オリンピック参加標準記録を上回ったうえで、この大会で優勝することが一つの条件なのですが、それにしてもこの参加標準記録のレベルが高いこと。参加標準記録が日本記録さえも上回る競技が多々あり、この大会で優勝したのに、オリンピック日本代表の座を勝ち取ることができず、無念な表情を浮かべる選手が続出することとなりました。

オリンピックは、すべてのスポーツ選手にとってあこがれの舞台ですが、今は参加するだけでなく、オリンピックの競技力を高め、活躍することが求められるようになり、出場のハードルはとても高くなっています。

オリンピックでは、とかくメダルを獲得したかどうか注目が集まりやすいのですが、出場するだけですごい快挙なのです!

今の日本を取り巻く状況は厳しいものばかりで、明るい話題が少ないので、こんな時こそスポーツの力が必要です。

在宅医療では、患者さんの歩んできた人生を知ることでさらに患者さんを応援したくなるのですが、オリンピックでは、出場した選手の成績だけでなく、ここまでの道のりを知るとさらにその選手を応援したくなります。

出場する日本選手を応援して元気をもらいましょう!

私が以前、別の医療機関で診察していた90台の女性で、幾度となく襲ってきた病気や事故を乗り越え、東京オリンピックを観るために、なんと白内障の手術を受け、補聴器を新調した患者さんがいました。

あの患者さんは、無事に東京オリンピックを観ることができただろうか?パリオリンピックを楽しみにしているだろうか?と当時を懐かしく思い出しながら、このブログを書いています。
2024年6月30日(日)

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