仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第424話 心霊スポット
投稿:院長

70代のUさんは、ある外傷が原因でベットで寝たきりの方です。


もともと奥さんと一緒に暮らしていましたが、奥さんが他界してから一人暮らしをされています。


「寝たきりなのに一人暮らしができるの?」と疑問に思ったりする方がいるかもしれませんが、手厚い介護サービスが入り、生活に必要なものはほぼすべて手の届くところに置いてあるので、いろんな人の支援を得ながら、一人暮らしができるのです。


Uさんは、一人暮らしでも寂しくないそうです。それにはある理由があります。


Uさんは、風流心のある方で、自分で撮影したという紅葉に囲まれる薬師堂の写真や、今は廃業となった駄菓子屋の石橋屋で咲き誇るしだれ桜の見事な写真が飾ってあり、仙台の四季の季節の変化を家の中で楽しむことができます。


そして、ベッドのすぐ横には仏壇があり、そこには、お亡くなりになった奥さんの遺影が飾ってありますが、その微笑む視線はいつもUさんを優しく見守っています。


7月のある日、Uさんを訪問した時、Uさんから色紙を渡されました。そこには、こんな詩が書かれていました。


「梅雨の雲間に光る風 あなたの笑顔が熱い夏の夢を呼ぶ」


あなたの笑顔とは、もしかして・・・。


Uさんは眠りが浅く、いつも夢ばかりを見るそうです。しかし、熟睡したいと思ったことがなく、絶対に睡眠薬を希望しないのです。


その理由は、夢の中で奥さんといつでも再会できるからです。


そう、この詩は奥さんへのラブレターだったのです!


Uさんが起きている時には、奥さんの笑顔がUさんを優しく見守り、寝ている時には、夢の中で奥さんがUさんに優しく語り掛けてくるので、Uさんは寂しくないのです。


色紙には、“あなたの笑顔が夢を呼ぶ”とありますが、実は、夢があなたの笑顔を呼んでいたのですね〜。


ということで、Uさんの自宅は、このたび私が勝手に「心温まる心霊スポット」に認定いたしました!


残念ながら、私には全く霊感がありませんが・・・。


えっ、心霊スポットを是非案内してほしい?


残念ながら、Uさんの平和な生活を守るためご案内できません。あしからず。


2026年8月31日(月)

 第423話 サラブレッド
投稿:院長

今月、70代のAさんをお看取りしました。


Aさんは癌で手術をうけましたが、その後、再発し、抗癌剤の治療の効果が乏しく、訪問診療による緩和治療が開始されました。


Aさんの自室は6畳ほどの大きさで机、椅子、ベッド、本棚などが所狭しと置かれており、Aさんは、のんびりと本を読んだり、好きな音楽を聴いたり、パソコンを操作したり、ベッドに横になったり、自分だけの空間で自分だけの時間をこよなく愛される方でした。


病状が悪化し、食事が喉を通らなくなっても、自力でトイレに歩くことが困難になってもけして入院を望まず、最期まで自宅で過ごしたいという決意は揺らぎませんでした。


その傍らには、いつも息子さんがいました。


奥さん曰く、息子さんは「お父さん子」で、幼少の頃からAさんの愛情を一身に受けて育ってきたのです。


息子さんは、目の前で弱っていく父を目の当たりにして、「入院しなくてよいのか?」という葛藤を抱えながらも、父の最後の願いを叶えたいと、勤務調整をしながら献身的に介護されていました。


Aさんは筋金入りの競馬ファンで、息子さんは5月にAさんを連れて新潟競馬場に出かけたそうです。Aさんは新潟競馬場で出走する競走馬を一目見ておきたいというAさんたっての願いを叶えるために、最後の親子旅行が実現したのです。


奥さんには大反対されたそうですが、これをきっかけに親子の絆がさらに深まったのでした。


今考えると、Aさんが入院したくないという強い気持ちは、「片時も息子から離れたくない」ということが大きな理由だったように思います。


競走馬は血統がとても大切で、走力、走る距離の適性、道の状態(芝やダート)の適性などは、父馬や母馬の血統から大きな影響を受けるそうです。


そう言えば、息子さんは、顔立ちも、穏やかな性格も、柔らかな口調も、Aさんそっくりで、父の長所をすべて受け継いでいるように思われました。


Aさんが旅立たれても、Aさんの血筋は、親子の大切な思い出とともに、息子さんの体の中で受け継がれて、これからも生き続けます。


息子さんには、父の死を乗り越え、A家のサラブレッドとして、自分の信じる道を歩んでほしいと思います!


2026年8月20日(木)

 第422話 通りすがりの善意
投稿:院長

Sさんは、長年、大学で教鞭をとり社会に貢献されてきた方ですが、身体の衰えが進み、訪問診療を受けることになりました。


Sさんは、今も一人暮らしをされていますが、自分一人ではできないことが増えてきました。しかし、老人ホームに入ることは望まれておらず、これからも住み慣れた自宅で、自分のペースで過ごしたいと考えています。


それには、介護や医療の支援が欠かせません。


大学の元教官だけあって、言葉の端々に知性を感じさせ、さぞかし近寄りがたい雰囲気があるのでは?と予想してしまいますが、自宅を訪問する支援者への感謝の言葉を忘れず、とても気さくな方なのです。


ある日、自宅を訪問するとSさんから、「コンビニで代金を支払わなくてはいけないのだけれど、足が悪く外出できないので払ってきてもらえないでしょうか?」と言いながら、1枚の払込書と1万円を手渡されました。


支払期限が翌日なので、私たちが協力しないと支払期限を過ぎてしまいそうです。


この場面で、今、テレビで放送されているNHKの朝ドラ「風薫る」で、主人公の看護師・一ノ瀬りんが、病室で患者さんから手紙を出してほしいと言われて、「休み時間なら時間が取れるから」と快く引き受けていたのを思い出しました。


りんの後輩看護師ヒデはそれを見て、「それは看護師の仕事なのですか?」「それは一ノ瀬先生の善意で手紙を出すのですか?」とりんの行動に疑問を呈します。


また、りんの看護師としての恩師バーンズ先生の「看護は仕事です。奉仕ではありません」という言葉も頭をよぎります。


それは、仕事とは専門知識や技術をもったプロが、「遵法性」「公正性」「主体性」「誠実性」「良識性」という5つの視点から成る職業倫理を守りながらサービスを行うことであって、当時は曖昧だった“仕事”と“善意で行う奉仕”としっかり区別することで、プロ意識を持った看護師を養成し、仕事による正当な対価を得るという職業としての看護を社会に確立させるという当時の背景があるのです。


また、奉仕と仕事を混同した瞬間から「なんでも自己犠牲で引き受けなければいけない」とか「良いことをしているのだから職業倫理から外れていても許されるだろう」という歪みが生まれやすいのです。


「看護とは一体何なのか?」という深い問いが、このNHKの朝ドラの根底にあるのですね。


堅苦しい話はここまでにして、それではSさんから頼まれたコンビニの支払いはどうしたのでしょうか?


私は、@私がSさんを診療している間、診療アシスタントが近くのコンビニで支払いを行っても診療の質や業務全体の進捗に全く影響がないこと、A誰にも心身の犠牲を強いたりしないこと、Bこの行為によってSさんとの間に金銭の支払いはおろか職業倫理に何ら反しないこと、などから、Sさんの願いを聞き入れることにして、Sさんに代わって近くのコンビニで支払いを行い、お釣りと領収書をSさんにお渡ししました。


訪問診療は、病院の中とは違って診療の合間にコンビニに立ち寄ってトイレ休憩したり、途中で軽食を買って話題のスイーツの話で盛り上がったり、車中から四季の織り成す風景や人の営みの一部を見て楽しんだり、私たちがリフレッシュできるちょっぴり贅沢な時間も用意されています。


その中で、通りすがりで困っている人と遭遇した時、職業倫理を意識し規律を保ちながら、ちょっとした善意で皆がハッピーでいられるポジティブな時間があってもよいのではないでしょうか?


バーンズ先生、どうぞ寛大な気持ちでスルーしてください!


2026年8月8日(土)

 第421話 好ケーキ
投稿:院長

毎年のように記録的な暑さが続いています。


訪問診療を受ける患者さんの中でも、夏場に脱水症、熱中症で入院する方が少なくありません。


特に、適切な飲水行動が難しい認知症の患者さん、利尿剤を服用している患者さん、糖尿病で血糖値が上がりやすい患者さん、濃い尿を作ることができない腎臓病の患者さんはリスクが高いので注意が必要です。


80代のSさんは、ちょうど1年ほど前に、高血糖と脱水症で入院されました。


入院した時は、無事に退院できるか心配していたのですが、入院中に適切な点滴治療とインスリン治療を受けることができ、2週間後にはめでたく退院となりました!


それ以来、娘さんの適切な食事や血糖管理を受けて、一度も体調不良なく過ごされています。


もちろん、この暑い夏も、この調子で元気に過ごしていきましょう!


ところで、7月はSさんの誕生月でもあり、今年の誕生日は、娘さんとケーキを食べてお祝いしたそうです。


その証拠に、娘さんが測定する誕生日周辺の血糖値は、ちょっぴり高めに出ていましたが、「誕生日週間」が過ぎれば、適切なインスリン治療により、いつもの血糖値に戻ってしまうので全く問題はありません。


Sさん、今年は誕生日のお祝いに加えて、退院記念1周年(けして入院日と間違えないように!)のお祝いが待っているかもしれませんね。


ということで、好ケーキの影響で、今年のSさんの「退院記念週間」の血糖値は、ゆるやかな上昇となる予定です。


どうか、日本の労働者の賃金も上がりますように・・・。


2026年7月30日(木)

 第420話 ワールドカップ観戦記その2
投稿:院長

日本代表が敗退してから、サッカー・ワールドカップの試合結果は、各テレビ局が放送するハイライトで確認していましたが、スペインとアルゼンチンの決勝戦はテレビ観戦することにしました。


決勝戦は、日本時間で7月20日午前4時から試合が始まったのですが、4時半頃に何とか目を覚ましたので、前半の途中から観戦を始めました。


1階のリビングに降りてくると、日本とブラジルの試合と同様、次男がすでに観戦していました。次男は、メッシのファンで、アルゼンチンを応援していたのですが、突出した選手に頼るのではなく、個人の技術とチーム全体の組織をバランスよく融合させて戦うスペインのスタイルが気に入っていたので、私はスペインを応援することにしました。


ということで、ソファーで男が二人並んで、「線香の花火ほどの火花」を散らすことになりました。


試合は、スペインの組織力がアルゼンチンを圧倒し、シュートはおろか、メッシにもほとんどボールが回らないという一方的な試合になりました。さらに、アルゼンチン選手が2枚目のイエローカードで退場となってしまい、アルゼンチンにはもはや、PK戦に持ち込んで勝つ以外に方法はないように思われました。


しかし、スペインは、攻めても攻めても、なかなかゴールが決まりません。


同じ展開に少し飽きてしまった私は、テレビ観戦を休止しトイレ休憩に入ることにしました。


ところが、トイレ休憩中にテレビから聞こえる歓声が大きくなったので、慌てて戻ってみるとスペインが劇的なゴールを決めてしまっており、この試合で一番のハイライト場面を逃すことになってしまいました(泣)。


結局、スペインがアルゼンチンの最後の攻撃を防ぎ、そのまま試合が終了し、スペインが優勝を飾りました。


アルゼンチンが敗れて、次男は少し残念そうでしたが、今日は、本当にスペインが優勝に値する素晴らしいプレーをしたので、PK戦でアルゼンチンが勝ったとしたら、釈然としないものが残り、後味の悪いものになってしまっていたでしょう。


スポーツでは「勝負に勝って試合に負ける」ことがしばしば起こり、これもスポーツの醍醐味と言えるのですが、ワールドカップは、それにふさわしい戦いをしたチームが優勝を勝ち取るべきと思ったので、たとえ私がアルゼンチンを応援したとしても、スペインが優勝してよかったと納得していたでしょう。


次男には、この試合の結果を受けて「何かを成し遂げる時には、たまたま結果を出てしまったということではなく、それにふさわしい努力をして、皆が納得できるプロセスを踏むことが大切だ」と父親として面目躍如したような顔つきで話をしたら、受験を控える次男は、その意図を察したのか苦笑いしていました。


ところで、今回の大会では、日本は優勝を掲げていましたが、この決勝の大舞台を見る限り、日本がこの場所に立てるというイメージがまだ湧きませんでした。


それは、日本に直接関わった国や間接的に関わった国の結果を見れば明らかです。


グループステージで日本と引き分けたオランダとスウェーデンは、ともに決勝トーナメント1回戦で敗退。決勝トーナメント1回戦で日本に勝ったブラジルは次戦でノルウェーに敗退、ブラジルに勝ったノルウェーは次戦の準々決勝でイングランドに敗退、ノルウェーに勝ったイングランドは次戦の準決勝でアルゼンチンに敗退、イングランドに勝ったアルゼンチンは決勝でスペインに敗れてしまったのです。


これを、植物プランクトンを始まりとして、人間を頂点とする海の食物連鎖を示す生態ピラミッド(つまり弱肉強食の世界)で示すと、スペインは「人間」で、日本はまだ「気仙沼港で水揚げされる脂がのったサンマ」くらいなのかな〜(?)と感じたのです。


ということで、日本代表には、4年後のワールドカップで、人間とは言わず、「豊洲市場の初競りに出される高級マグロ」くらいに成長してほしいと感じた決勝戦でした。


ガンバレ日本! ガンバレ次男!


2026年7月21日(火)

 第419話 ワールドカップ観戦記
投稿:院長

6月から4年に1回開催される、サッカーワールドカップ北中米大会が始まりました。


丁度、私が研修医だった1993年にJリーグが開幕し、その頃から日本のサッカー熱が高まりはじめ、私も海外からやってきたスター選手(スター選手ではないのですが、当時鹿島アントラーズのアルシンドはよく覚えています!)の活躍にくぎ付けになった記憶があります。


1993年にカタールのドーハで開催されたワールドカップアジア最終予選も、当時の病院の親しい仲間とテレビ観戦したのですが、最後の最後にイラクに同点ゴールをきめられて、本大会への出場を逃した「ドーハの悲劇」は今もよく記憶しています。


それ以来、環境が変わっても日本代表の手に汗握る戦いに、テレビの前で一喜一憂してきました。そして、過去の日本代表の戦いと当時の私の仕事や生活環境とが重なり、今でも懐かしく思い起こすことができます。


しかし、若い時は、試合時間が深夜になっても、テレビにかじりついて観戦していたのですが、年を取るにしたがって、翌日の仕事に影響がないよう、おとなしく寝ることにして翌朝、試合結果を確認することが多くなってきました。


今回、チュニジア戦は日本時間の休日の日中に開催され、テレビで日本のゴールラッシュを目の当たりにして晴れ晴れとした気持ちになっていたのですが、決勝トーナメント1回戦のブラジル戦は深夜2時からキックオフとなり、いつのもように観戦をあきらめていました。


ところが、試合当日は真夜中の午前3時に目が覚めてしまい、試合経過をネットで確認すると、なんと日本が1点リードして前半を終了しているではありませんか!


ということで、「ワールドカップでブラジルを撃破する日本代表の雄姿」を見逃すわけにいかなくなり、夜な夜な予定外のテレビ観戦することにしました。


1階のリビングに降りてくると、すでに次男が暗闇の中でテレビ観戦しており、ソファーに男が2人並んで後半の戦いぶりを見守ることになりました。


普段は、大きな声を出して一喜一憂するのですが、深夜帯なので、2人ともかなり控えめにボソボソとしゃべりながらの応援です。


ところが、私が観戦を始めた途端、日本は防戦一方になり、後半は2点を決められて終了間際に逆転負けを喫してしまいました。


ということで、次男にとって私は、「疫病神」だったに違いありません(泣)。


こんなことなら、テレビ観戦ではなく、ベッドの中で「日本代表がブラジルに勝利する夢」を見た方がよかったのではないかと少し後悔しています。


ということで、今回の日本代表の戦いが終わり、とても寂しい気持ちがするのですが、戦いぶりが気になってよく眠れないという日々から解放されて、少しほっとした気持ちになったことも間違いありません。


今回、優勝を掲げた日本代表が、4年後に一体どんな戦いをするのでしょうか?


そして私は一体どんな応援をするのでしょうか?


こんなことを考えるだけでワクワクして眠れなくなるので、控えめに想像していきたいと思います。


どうか、ワールドカップ優勝の夢がいつか正夢になりますように・・・(七夕の月に)。


2026年7月9日(木)

 第418話 別れても好きな人
投稿:院長

Yさんは、お酒をこよなく愛する独身の男性です。


長年の飲酒が蓄積した結果、ついに体を壊し、治癒が難しい状態にまで病気が進行してしまい、通院することも困難になり訪問診療が始まりました。


実はYさんは、2回の離婚歴があります。つまりバツ2


離婚した理由ははっきりわかりませんが、Yさんの生活ぶりをみていると、いずれも、お酒に浮気して結婚生活が長続きしなかったのではないかと思われます。


離婚に至るまで、夫婦の間でいろいろな衝突を繰り返し、もめにもめて修羅場を経験した、なんてよく聞きますが、おそらくYさんの場合も妻に愛想を尽かされて離婚したのだろう〜なと思っていたのです。


ところが、ある日の診療でYさんの自宅を訪れた時、なんと元妻がYさんに付き添っているではありませんか!


私は、「何番目の奥さんですか?」と聞いたりはしなかったのですが(笑)、彼女はYさんの病状などとても心配されている様子でした。


私を驚かせたのはこれだけではありません。


Yさんには、二人の元妻にそれぞれ娘さんがいるのですが、なんと皆で一緒に出掛けて日帰り旅行など楽しまれていたのです。


ある日、Yさんは、その時の写真を見せて下さいました。


満面の笑みを浮かべた二人の元妻や娘さんに囲まれて、はにかみながら写真に写っているYさんの嬉しそうな表情がとても印象的でした。


元妻同士が鉢合わせしてしまったら、さぞかしバツが悪いのではないかと思いますが、Yさんは、それぞれの元家族をも融和してしまう不思議な力があるのです!


昼間から飲酒している男性と聞くと、さぞかし「酒癖が悪く、気性が荒い人」と想像してしまうのですが、Yさんはとても温厚で、自宅を訪問する訪問看護師やヘルパーでさえも、手を差し伸べてあげたくなるような魅力のある人なのです!


ということで、最後に一曲。


「別れた人に会った、別れたマイホームで会った♪」

「別れても〜好きな人♪」

 


2026年6月30日(火)

 第417話 愛情表現
投稿:院長

5月に80代の女性・Oさんを自宅でお看取りした時のことです。


訪問看護師さんがOさんの身体を清めている間、娘さんがずっとOさんの顔を抱きかかえるようにして、顔を密着させて語り掛けている姿がとても印象に残りました。


その翌日、病院から退院した直後の80代の女性Kさんの診察をした時、退院を心待ちにしていたKさんの娘さんが、やはり顔を近づけてKさんの頭を優しく撫でていました。


そして、この2つの出来事を通して、「これが本当に大切にしている人に対する真の愛情表現なのだ!」と大変感銘を受けました。


私たち診療する側にとっては、「患者さん」なのですが、患者さんは大切な家族の一員であり、今まで長年築き上げた一言では言い表せない深い絆が、そこに表れているのだと思います。


話が少し変わりますが、人には、快適だと感じる相手の物理的な距離というものがあり、国や地域によって違います。


例えば、陽気なラテン系の国では、ハグやボディタッチを交えながら親愛を示すように、たとえまだ親しくない人であっても、対人距離を縮めて親しくなろうとする文化があるのに対し、日本は、相手との距離を詰められると不安に感じやすく、一定の距離感を保つことを好み、「親しき仲にも礼儀あり」という文化が重んじられます。


また、人間は以下に示すように、対人距離を4つのゾーンに分けて管理し、心理的な安全性を保っているという理論があります。つまり、

密接距離(045cm: 恋人・親子など、最も親密な関係に許される距離。触れ合い、匂い、体温を感じる

個体距離(45cm1.2m: 友人や親しい知人との距離。手を伸ばせば触れられる

社会距離(1.23.6m: 仕事上の付き合いや初対面の会話。テーブルを挟んだ距離

公衆距離(3.6m〜): 講演者と聴衆のように、個人的関係が成立しない距離


結婚したばかりの頃は「密接距離」だったのに、年月と共に夫婦の間にすきま風が吹くようになり、いつの間にか「公衆距離」(えっ、個人的関係が成立しない!?)に広がってしまっていた、ということにならないようにしたいものです。


ということで、手遅れにならないよう、今からでも距離感を縮める努力はしていきたいですね。


もうすでに手遅れの人は、「アンタ気持ち悪い!」と言われるかもしれませんが・・・。

 


2026年6月18日(木)

 第416話 診療所の移転完了
投稿:院長

529日に、職員の増員に伴い、かねてから予定していた診療所の引っ越しを行いました。この日に合わせて、事前に新診療所に持っていくものと処分する荷物の仕分けや梱包を済ませておきました。


診療所の引っ越しは、患者さんや関係者からの問い合わせや相談、急な体調変化に応じた往診業務、事務作業などに支障が出ないようにすることが大切です。


そこで、職員を、診療に専念するグループ、旧診療所の荷物搬出と清掃を担当するグループ、新診療所へ荷物を搬入して整理するグループに分けて、それぞれの役割を分担することにしました。


さらに、タイムスケジュールに従って、電話やFAXの転送、新診療所の複合機やWi-Fiが、切れ目なくタイミングよく切り替えられるようにしたことで、診療所の通信や診療機能を全く損なうことなく、スムーズに移転を完了することができました。


私は、職員の動きを見回っていたのですが、無駄な動きをしている人は全く見当たらず、全員で調和して作業に取り組む姿を見て、非常に頼もしく感じました。


5年前に診療所をスタートした時は、私を含めて4人体制で始まったのですが、当時、人気のない殺風景な空間に初めて電話回線がつながって感動したこと、ウキウキしながら初めて診療に出かけたこと、など開設当初のことが懐かしく思い起こされました。


そして、ほぼ全ての荷物の搬出が終了し、再び殺風景になった旧診療所の空間で、この場所で起きたいろいろな出来事を感慨深く思い返しながら、長距離ランナーが走り終えた後に、自分が走ってきたコースに対して行うように、一礼をして旧診療所を後にしました。


しばらくは、まだ移転のことを知らずに旧診療所を訪れる方がいるかもしれません。そして、もぬけの殻になった旧診療所を目の当たりにして、あゆみは失踪(夜逃げ)してしまったのか!?とびっくりされるかもしれませんが、あゆみは、これからもゴールなき訪問診療の道を、襷を繋ぎながらひたすら失踪・・・あっ間違った・・・疾走して参ります!


ちなみに、新しい診療所の住所は、仙台市若林区大和町4丁目2333 栄福ビルというとても縁起のよさそうな名前を持つビルの2階になります。


7月から、診療所内に私の作製したプラモデルや患者さんの手芸品などを展示するスペースを設ける予定です!


2026年6月10日(水)

 第415話 朝ドラから学ぶ
投稿:院長

今、NHKで放送されている朝ドラ「風薫る」では、家老の娘・一ノ瀬りん(見上愛さん)と女郎の娘として生まれ孤児として育てられた大家直美(上坂樹里さん)という全く素性も性格も異なる2人が出会い、試行錯誤を繰り返しながら互いに看護師として成長していく姿が描かれています。


大学病院で見習い看護師として研修を始めたりんや直美でしたが、ある日、侯爵夫人の千佳子(仲間由紀恵さん)が乳がんのため大学病院に入院します。


千佳子は、手術を勧める医師のアドバイスにもかかわらず、診察や検査を強い口調で拒み続け、「生きていても仕方がないので退院したい」と言い出します。


このまま退院されてしまったら病院の名誉にかかわってしまうため、困った病院幹部は、見習い看護師のりんを千佳子の専属看護師に任命します。腹黒い病院幹部は、千佳子が治療も受けずに退院してしまったら、見習い看護師の不手際を理由にするつもりだったのです。そうとは知らないりんは千佳子の看護を引き受けることに。


その後、りんの懸命な姿が次第に千佳子に伝わりはじめ、少しずつ千佳子の気持ちを解きほぐしたりんは、なぜ千佳子が手術を拒み続けるのかその理由打ち明けられます。


「胸のない私で、夫の隣にいるのが、悲しくて恥ずかしくて」

「元武家の娘として、手術をしてまで強欲に生きていたくない、潔く死を選びたい」


そして、祝言の日に、夫から「きれいな夕映えですね」と声をかけられたことを今も覚えており、「空がきれいだと言えるような人が主人でよかった」と打ち明けられました。


りんは、そんな千佳子の気持ちを夫・元彦に伝えたところ、病室を訪れた元彦は千佳子に対して「私のために手術を受けてくれないか? 私のために、つらくとも苦しくとも生きてほしい。共に見たいのだ。毎日、毎月、毎年……美しい夕映えの空を」と語りかけ、千佳子の手を握ります。その言葉は、手術を拒んでいた千佳子に生きる希望を与え、ついに手術を決断させることになったのでした。


なんと、心温まるような感動のストーリーですね。


このストーリーの中でりんは、看護師としていくつかの点を学ぶことができたように思います。


それは、

「医療者と患者の考え方に違いがあったとしても、患者の視点に立って考え、忍耐強く受け止めること」

「正しい医療技術があったとしても、患者に寄り添う気持ちが伴わないと満足した結果が得られないことがあること」

「人は、自分のためだけなら行動しないことであっても、信頼している人のためなら行動できることがあること」

「家族や親しい人には心配をかけたくない、情けない姿を見せたくないという理由で言えないことも、時には、全くの赤の他人(特に専門職)には本音や偽りのない気持ちを打ち明けやすいこと」


特に、千佳子が看護師のりんに伝えた、「あなたが赤の他人で良かった」というセリフが印象的でした。


そして、この学びは、現代に生きる私たちにも通じるものです。


ちなみに、「赤の他人」の赤とは、日本語の「赤」には強調する働きがあり、「あきらかな」「まったくの」「完全な」という意味を持っており、この意味で使われている他の言葉として「真っ赤なウソ」や「赤っ恥」などがあります。


さらに、生まれたての小さな子供のことを日本語では「赤ちゃん」と呼びますが、これは、赤に「命が宿る色」「病や災いを遠ざける色」「お祝い事の色」としての意味が込められており、「赤ちゃん」には、新しい命を大切に思う日本独特の気持ちが込められているのです。


これからも、このブログでは、人の素晴らしさや訪問診療の素晴らしさを「赤裸々」にお伝えしていきたいと思います!


2026年5月31日(日)

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