仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第323話 プラスマイナスゼロ?
投稿:院長

Kさんは、進行性の難病の患者さんで、奥さんと二人暮らしをしています。

先日の診察で事前に約束していたことが2つあり、一つはKさんの足の爪を切ることです。

Kさんの両足の爪はすっかり伸びてカールしているのですが、身体が不自由なのでセルフケアができません。しかし、奥さんにもけして爪を切らせようとはしません。

奥さん「私が爪を切ろうとすると、痛いのですぐに喧嘩になってしまうんです」

私は、Kさんの表情を見ながら、痛みが出ないようにニッパーを使って慎重に爪切りを行いました。

私「これで夫婦喧嘩の種が一つ減ってよかったですね」

そして、2つ目の約束は、写真を見せてもらうことです。

実は、夫婦二人で北海道旅行の計画を立てたのですが、Kさんの体調に不安があり、行くかどうか直前までだいぶ迷っていたのです。

私は、「体調は安定しているのでたくさん思い出を作ってきてほしい」と、二人の背中を後押しました。

そして、旅行から帰宅後、奥さんから「無事に行ってきました!」と連絡があり、今日の診察では旅行の模様を写真で拝見することにしていました。

Kさんは、スマホに保存されたたくさんの写真を見せてくれました。

飛行機内、クラーク博士の銅像、時計台、友人との会食・・・車椅子に乗ったKさんは、どれも表情が生き生きとして楽しそうです。

そして、最後にビール園で大きな口を開けてジンギスカンを食べる奥さんのお茶目な写真をニヤニヤしながら見せてくれました。

奥さん「やめて!その写真は見せないの!」

夫婦喧嘩の種が一つ減って安堵していた私ですが、新たな“火種”にならないことを祈るばかりです。 


2023年9月28日(木)

 第322話 織姫と彦星
投稿:院長

Tさんは、認知症があり、ご主人の献身的な介護を受けている女性です。

ご主人の介護日誌を拝見すると、血圧や体温の他、毎日の食事内容と食事量、尿の回数と時間、排便時間などがこと細かに記され、Tさんの普段の生活ぶりが一目瞭然です。特に食事量の欄には、完食したことを示す「完」の文字がず〜と並んでおり、この連続「完」の記録がいつまで続くのか楽しみにしていました。

ところが、Tさんは肺炎を発症し、かなり特殊な病気をお持ちなので、大事を取って総合病院に入院して治療を受けることになり、残念ながら、この記録が途絶えてしまうことになりました。

そして、先日、病院での治療で症状が改善し、無事に退院することになりました。

自宅に戻ってきたTさんを迎えたご主人のとっても嬉しそうな表情を見て、「織姫と再会した彦星のようですね!」と声をかけずにいられませんでした。

しかし、入院中は十分な食事ができなかったTさんの頚には中心静脈栄養の点滴の管が留置されたままでした。

私達は、ご主人の介護があれば、Tさんはきっと再び食事ができるようになると確信し、退院後は中心静脈栄養を行わずに様子を見ることにしました。

そして、退院直後は3分の一だった食事量が、次第に2分の一になり、ちょうどそのタイミングでTさんが点滴の管を自分で抜いてしまったので、結局、退院してからは一切の点滴を行っていません。

Tさんの表情は、すっかりいつもの様子に戻っており、この調子だと、介護日誌に再び「完」の文字が並ぶことでしょう。

しかし、彦星の織姫に対する愛情は永遠に完結することはありません。

私達は、天の神様の意志に逆らってでも、織姫と彦星が二度と離れ離れにならないよう、二人の絆を支えていくつもりです。

夫婦ってとっても良いものですね〜。 


2023年9月23日(土)

 第321話 ぴーかじーか
投稿:院長

316話「楽園」で紹介したTさんですが、おめでたいことに初のひ孫さんが誕生されました!

先日の診療では、ご家族が、ひ孫さんとTさんの触れ合う様子を話してくださいました。

眠っていることが多くなったTさんですが、ひ孫さんがTさんのベットに並んで横たわると、すぐに目を覚まして、ひ孫さんに手を伸ばしてとても可愛がっているそうです。

その模様を写真で見せてもらったのですが、お孫さんの体にそっと手を伸ばしている姿にとても心が癒やされました。

ということで、この写真も、私にとって心が温まるお気に入りとして私のタブレットに保存させていただきました。

宮城県では、ひーおじいさん、ひーおばあさんのことを「おっぴさん」と言い、略して「ぴーちゃん」と呼ぶ習わしがあります。

宮城県に来た当初は、これを知らずに、ペット(インコ?)の名前と勘違いし、ペットがいないのになんで「ぴーちゃん」という言葉が出てくるのかとても不思議でした。

今日はひ孫さんの視点で綴ってみました。

私はまだ誕生したばかり。

家族のみんなにかわいがってもらっているよ。

なかでも、私を撫でてくれるひーおじいちゃんの手はとっても大きくて、私の小さな手だと握手ができないので、ひーおじいちゃんの指をつかんでいます。

ひーおじいちゃんは、おばあちゃんが生まれた時も、おかあさんが生まれた時も、この大きな手で包んでくれたんだね。そして、この家も庭も家に飾ってある絵も、この大きな手で作ってくれたんだね。

ひーおじいちゃんは、今は口から上手にご飯が食べられなくなってしまったけど、私を見つめる目はとっても優しくて、私が目に入っても全然痛くないんだって。

私はまだ言葉が話せないけど、ひーおじいちゃんのことを「ぴー」と呼ぶか「じーじ」と呼ぶか、どっちにしようかな。ひーおじいちゃん、どっちがいい?

ひーおじいちゃん、とっても大好きです。これからも長生きしてね!


2023年9月16日(土)

 第320話 続・1枚の写真
投稿:院長

当ブログの節目、第300話「1枚の写真」で紹介したNさんの話題の続編です。

Nさんは、この夏の猛暑の中でもとても元気で過ごされています。

そして、お盆期間中は、震災まで過ごした故郷の岩手県沿岸のある町に、娘さんの自家用車に乗って帰省したそうです。

先日の診療では、その時に撮影されたNさんの写真を拝見させていただきました。

そこには、車の助手席に座りながら、カメラに向かって微笑みながら手を振るNさんの姿がありました。

その上品で慈愛に満ちた表情や装いを見て、皇太后・美智子様が、車中から沿道の人達に手を振る姿を重ねることができました。

「まるで皇太后様のようですね!」

そして、これは、私にとって心が温まる一番のお気に入りの写真として私のタブレットにも保存させていただきました。

岩手県を代表する詩人・童話作家の宮沢賢治さんだったら、Nさんをこう表現するでしょう。

震災ニモマケズ

病気ニモマケズ

長旅ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

上品デ

決シテ瞋(いか)ラズ(娘サントハ親子喧嘩スルケド)

イツモ穏ヤカデ優シイ表情デ微笑ンデイルNさん・・・。 


2023年8月31日(木)

 第319話 恵みの雨
投稿:院長

昨夏の高校野球の甲子園大会で仙台育英高校が優勝し、今年の夏の休日は高校野球をテレビ観戦することが増えました。

特に、東北地方や新潟県代表校の戦いには目が話せません。

そんな中、813日は、岩手県代表の花巻東高校と、北北海道代表のクラーク記念国際高校が対戦したのですが、途中で激しい雨が降り出し、試合が1時間以上も中断するというハプニングがありました。

テレビ中継も中断すると思ったのですが、なんとそのまま番組は続けられ、試合が再開するのを待っていました。

そんな中、興味深かったのが、甲子園のグランド整備に当たっている阪神園芸のスタッフの一糸乱れぬグランド整備です。

他の球場だと、雨が止んだとしても、グランドコンディションが悪化し、とても試合どころではないはずなのですが、阪神園芸のスタッフが甲子園のグランドに出て整備を始めると、あれよあれよと言う間に水たまりがなくなり、何事もなかったように無事に試合が再開されました。

私はその模様をテレビで食い入るように見つめていたのですが、ひとりひとりの動きに無駄がなく、連携がとれたスピーディーな整備は見事という他はありませんでした。

甲子園で数々のドラマが生まれてきた背景には、数多くの裏方と言われる人々が支えていることを改めて知る機会になりました。

さらに、アルプススタンドのクラーク記念国際高校応援団の雨の中の即興演奏には球場全体が大きな拍手に包まれ、ラジオで解説を務めた京都・龍谷大平安高校野球部監督・原田英彦さん(指導者としてどのように人を育てるのかという著書のある情熱あふれる方で、皆さんも是非一読ください)による、試合が中断中も途切れない高校野球愛に満ちた濃密なトーク術も大きな話題になり、高校野球の一体感を感じることができました。

こうして、雨によって普段の高校野球では味わえない「神整備」、「神演奏」、「神解説」をいっぺんに楽しむことができ、高校野球ファンにとっては、野球の神様が与えてくれたに違いない“恵みの雨”となりました。 


2023年8月21日(月)

 第318話 長岡花火
投稿:院長

8月2日に夏季休暇を取得して、長岡に帰省し、母と長岡花火を観覧してきました。

チケットがなかなか手に入らないという声もある中、地元のコネをフルに使って信濃川の河畔に浮かぶ屋形船の有料席を確保することができ、チケットを確保できなかった人に対してちょっと罪悪感を感じながら(?)、最前列で観覧してきました。

どの花火もスケールが大きく、今まで見たことのない新しい色合いや構成の花火が打ち上げられ、十分に堪能することができました(頭上で空いっぱいに開く花火を見続けていたので、今は首の痛みが続いています)。

花火は、金属の種類の違いによる化学反応でいろいろな色を出すことができます。

例えば、赤(花火では赤と呼ばずに紅と呼ぶ)はストロンチウム、橙はカルシウム、黄はナトリウム、緑はバリウム、青はハロゲン化銅、藍はセシウム、紫はカリウムやルビシウム、金は鉄、白はアルミニウムなどです。

中には学生のときに習った見慣れた化学式もあり、花火が打ち上がるたびに、この色を出すにはどんな化学反応が起きているのか想像しながら見ることができました。

コロナ禍では、多くの花火大会が中止になり、花火師さんにとっては、大変な時間だったと思います。しかし、幾多の苦難をエネルギーに変えて、のびのびと打ち上がる花火を見ていると、花火師さんの花火に向きあう真摯な姿勢や、さまざまな思いが、その1発1発に込められていることを感じることができます。

そして、これほどの大型の花火を、当たり前にように安全に打ち上げる花火師さんの技術を称賛せずにいられません。

子供のときは、両親に手を繋がれてやって来た長岡花火ですが、今年も足腰の衰えた母の手を繋いで会場を訪れました。そして、私が年老いた時、成人になった子供達に手を繋がれて長岡花火を訪れるのかもしれません。

長岡花火は、花火師さんと観客の織りなす会場の一体感が素晴らしく、長岡市民にとっては、子供の頃から大切な人と観る思い出の歴史になっています。今年も素晴らしい長岡花火を観ることができたという喜びは、私の中で“化学反応”を起こし、明日へのエネルギーになっています。

このホームページの長岡花火の動画を2023年版に更新したので御覧ください。


2023年8月11日(金)

 第317話 復活
投稿:院長

Hさんの自宅で診察していた時のことです。

Hさんの自室に、エンディングノート(自分の終末に際して、周囲に自分の希望などを書き記したノート)を見つけたことをきっかけに、いろいろと話をすることになり、その中でHさんがクリスチャンであることを初めて知りました。

そして、話をしている最中に、ある作家のことがHさんの表情と重なるようにして自分の脳裏に浮かびました。

それは三浦綾子さんです。

三浦綾子さんは、肺結核、脊椎カリエス、直腸癌、パーキンソン病など、度重なる病魔とと向き合いながら、1997年に亡くなるまで100冊以上の小説、自伝、エッセイを発表されました。

私は、大学生の頃に、三浦綾子さんの小説「塩狩峠」を読んで感銘を受け、大学の講義はそっちのけ?で、三浦さんの作品をむさぼるように読んだことを懐かしく思い出しました。

三浦綾子さんは、一つの作品の中で、運命、成長、貧困、差別、信仰、愛、友情、苦悩、葛藤、希望、憎悪、感謝、献身、信頼といった、今にも通じるような様々な人生のテーマを一つ一つ丁寧に深く掘りさげるように執筆されており、どの作品も深く心に沁みわたってくるような感動を覚えたことを今も忘れられません。

「塩狩峠」は、明治時代に自らの命を犠牲にして、鉄道事故で大勢の乗客の命を救った実在の青年をモデルにした長編小説で、青年が信仰を通して、自らの課題と向き合いながら純粋に成長していく姿が描かれています(小学校の国語の授業などでこの作品が取り上げられて、生徒が感動して泣き出してしまったというエピソードがあるくらいです)。

Hさんは、信仰する仲間との読書会で三浦綾子さんの作品を親しまれており、私のように信仰していない立場でも、Hさんがありのままの自分を受け入れて、11日を大切に純粋に生きている理由がわかった気がしました。

Hさんの姿に、ありし日の三浦綾子さんの面影を感じることができ(三浦綾子さんの表情は写真でしか拝見したことはないのですが・・・)、私の中で三浦綾子さんが“復活”したような不思議な感覚を味わうことができた1日でした。 


2023年7月31日(月)

 第316話 楽園
投稿:院長

Tさんは、長い入院を経てようやく自宅へ退院した方です。

自宅が大好きで退院を誰よりも心待ちにしていました。

それもそのはず、ご自分で自宅の建物や庭を設計し、我が家はまさに「ザ・マイホーム」という言葉がぴったりだったのです。

建物は、洋風と和風がバランスよく取り入れられた特徴ある造りとなっており、リビングの大きな窓から自慢の庭が一望できます。

退院してから、四季に富んだ自宅の庭を眺めながら過ごすTさんの表情はとても穏やかです。

ところが、普段はとても温厚なTさんがご家族を怒ってしまうことがあるそうです。その理由とは?

それは、「外に干した洗濯物で庭が見えなくなってしまった時」だそうで、昔の父の姿を彷彿とさせる一面を感じた娘さんが嬉しそうに話をして下さいました。

そして、次の診察では、洗濯物はしっかりと別な場所に移され(笑)、初夏の陽光を浴びた庭には、カラスアゲハが舞い、カッコウの鳴き声が響き渡っていました。

実は仙台市内でアゲハチョウを見るのも、カッコウの鳴き声を聞くのも初めてで驚いてしまいました。Tさんのご自宅は、他の生物にとっても楽園になっていたのです。

こうして、Tさんは毎日、大好きな庭を眺めて、耳を澄まし、心の洗濯を繰り返し、我が家の織りなす空間はTさんの生きる原動力になっています。


2023年7月20日(木)

 第315話 イチジク物語
投稿:院長

いつもお世話になっている訪問看護ステーションからお中元が届き、果物のスムージーの詰め合わせを頂きました。

どれを飲もうか迷ったのですが、私は普段食べたりすることにないイチジク(無花果)のスムージーを選んで飲んでみることにしました。

イチジクといえば、「イチジク浣腸」が日本国中に広く知れ渡っていますが、その名の由来を調べてみると、案の定、イチジクの果実に似ていることから名付けられたとの説が有力だそうです。

その他にも、イチジクは食物繊維を豊富に含んでおり、緩下剤として用いられていたことや、果実が成熟するのが早く、浣腸の即効性を期待していたことも関係があるようです。

しかし、いずれもしてもイチジク浣腸は、便秘で苦しむ人のために大正時代に開発され、今尚使用され続けるロングセラー商品となっています。

ということで、イチジク浣腸を頭の中で連想しながら?どんな味だろうと恐る恐る飲んでみたのですが、さっぱりした甘さが口の中に広がりとても美味しく、その後の便通も快調でした。

酷い便秘で苦しむ人にとって時には「イチジク」をお尻から入れることも必要ですが、イチジクは口から入れてこそ、その価値がとてもよく分かる!と感じることができました。

皆さんも、お尻から・・・ではなく、是非口から味わってみて下さい!


2023年7月10日(月)

 第314話 幸せを運ぶ果物 
投稿:院長

ある患者さんの次回の診察で血液検査を予定していたのですが、ご家族から「次の診察では血液検査を延期してもらえませんか?」と電話で事前に相談がありました。

その理由をお聞きすると、「診察の前日に山形の親戚が果物を持って自宅に来ることになっているのですが、果物を食べたあとに血糖が上がるのではないかと心配なのです」との返事でした。

私はこの要望を受け入れ、採血は延期することにして患者さん宅を訪問しました。

すると患者さんは、親戚に衰えてしまった現在の自分の姿を見られて落ち込んでしまい、果物は食べずにそのままになっているとのことでした。そこで私は、「それなら今日、採血をしましょう!山形で今が旬な果物と言えば、きっとさくらんぼですね?採血したあとは、もう血糖のことは気にしないで、美味しいさくらんぼをお腹いっぱいに召し上がって下さい!」と話したところ、患者さんは、「はい、さくらんぼです。今日から食べてみます」とニコニコと答えて下さり、その場が和やかになりました。

こうして患者さんが笑顔を取り戻し、私はとてもハッピーな気持ちでその日の患者さんの診察を終えることができました。

ところで、翌日判明した患者さんの血糖値はどうだったのでしょうか?

もちろん、「この数値なら、血糖のことはを気にしないで、山形の秋の味覚・ラフランス(西洋梨)食べ放題です!」と患者さんにお伝えしようと思っているところです。


2023年6月30日(金)

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