仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】

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 第168話 春を謳歌する
投稿:星野

以前、音読の効用について、このブログに書いたことがありましたが、御年100歳を超えるEさんが音読を実践されていたことを思い出しました。

 

それでは何を音読しているのでしょうか?

 

実は、文藝春秋と週刊文春なのです!

 

100歳を過ぎて雑誌の細かな字が読めるというのもすごいのですが、世の中の話題について常に関心を失わないということが、健康長寿の秘訣なのでしょうね。

 

先日は、自粛期間中に掛けマージャンをして辞職した検事がいらっしゃいましたが、この方は、まんまと「文春砲」と呼ばれるスクープの餌食になってしまったのですね。

 

本来なら清廉潔白なはずの人(医者もそうか・・・)なのに、100歳を超える高齢者が、スキャンダルな自分の記事を声に出してがっかりすることのないよう、襟を正して行動してほしいと思います。

 

しかし、もしかしたらEさんは、スキャンダルまみれの日本の行く末を心配して「まだまだ自分がしっかりしなければ!」という強い気持ちが長寿を支えているのかもしれません。

 

季節は初夏を迎えましたが、Eさんには、まだまだ「春」を謳歌してもらいたいと思います。



2020年6月4日(木)

 第167話 新型コロナウイルスに備えるために−風邪に対する民間療法−
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回は、風邪に対する総合感冒薬について書きましたが、今回は一般的な風邪(新型コロナウイルス感染症ではない)に対する民間療法の有効性について書きたいと思います。

 

風邪の民間療法と聞くと、“まやかし”と考える人も多いかと思いますが、カナダ医学会雑誌や米国家庭医学会雑誌の総説、コクランという世界中の臨床研究を集めて解析する国際団体の総説で、この問題が大まじめに取り上げられているので紹介したいと思います。

 

ここでは、多くの臨床研究を解析する手法で効果があったものを「効果が示されている」と定義し、一部の研究では効果が示されているけど、まだ十分なデータが揃っていなかったり、全体を分析すると効果がはっきりしないものを「まだ効果がはっきりしない」と定義したいと思います。

 

【効果が示されている民間療法】

●ハチミツ

1歳から18歳の小児を対象とし、ハチミツの咳に対する効果を調べた6つの無作為化比較試験RCT)を解析したシステマティックレビューが紹介されています。

 

それによると、ハチミツを1回につき2.510ml25歳は2.5ml611歳は5ml1218歳は10ml)を寝る前に摂取すると、咳の軽減と睡眠の改善に効果を示し、その効果は鎮咳薬であるデキストロメトルファンと同等であったと報告されています。

 

そのメカニズムですが、粘膜の保護作用、保湿作用、鎮静作用によるもの、という論調が一般的ですが、はっきりとしていない点も多いようです。

 

ハチミツは、ほとんど副作用がないことが大きなメリットですが、腸管免疫が十分に発達していない1歳未満の乳児に対しては、ボツリヌス感染症のリスクがあるので勧められません。

 

●亜鉛

17RCTを解析したメタアナリシスが紹介されています。

 

それによると、成人の風邪の患者が、発症から24時間以内に、酢酸亜鉛またはグルコン酸亜鉛のトローチを14.5rから23.7rを2時間おきに服用すると、風邪症状を平均1.65日短縮することが示されていますが、小児に対してははっきりとした効果は示されていません。ただ、トローチ製剤は、錠剤やシロップ製剤に比べて味覚の異常や嘔気などの副作用が多いと報告されています。

 

亜鉛には、免疫細胞の活性化したり、炎症を抑制する働きがあることが報告されていますが、日本人のほとんどは、潜在的に亜鉛欠乏と言われています。日本では、亜鉛サプリが複数販売されていますので、場合によっては、サプリを日頃から有効的に活用してもよいでしょう。しかし、論文にあるように、123.7rを2時間おきに服用すると、1日の摂取量の上限(4045mg)をはるかに超えてしまうので、注意が必要です。

 

【まだ効果がはっきりしない民間療法】

●ヴェポラッブ

日本では、ヴィックスヴェポラップとして販売されています。カンフル、メントール、ユーカリ油が配合されており、首や胸に塗って使用し、その成分を吸入すると、咳や鼻閉を緩和するとされています。

 

2歳から11歳の小児を対象とした1つのRCTでは、1回につき510ml25歳は5ml611歳は10ml)を首や胸に塗ると、何もしない群に比べて、鼻閉(鼻汁を除く)、咳の頻度や強さ、睡眠障害を有意に緩和し、このうち、咳の強さと睡眠障害に対しても、プラセボ(偽薬)群に比べても有意に症状が緩和(睡眠障害は子供だけでなく親も)することが示されていますが、まだ、多くの研究結果を解析するために必要な十分なデータが揃っていません。また、目、鼻、皮膚に対する刺激感が強く、その忍容性には個人差があるようです。

 

●鼻洗浄

上気道炎の6歳から10歳の小児に対して、生理食塩水(3ml9ml)を点鼻して症状の変化を調べたRCTでは、鼻汁、鼻閉、咽頭痛などの症状の緩和、鼻炎薬の減量効果が示されていますが、まだ、多くの研究結果を解析するために必要な十分なデータが揃っていません。

 

●ビタミンC

7つの臨床試験を分析したメタアナリシスでは、ビタミンCの風邪症状に対する有意な治療効果は示されていません。

 

●加湿器

6つのRCTを分析したメタアナリシスでは、加湿器の風邪症状に対する有意な治療効果は示されていません。

 

●中医学(中国)の薬草治療

17RCTを分析したシステマティックレビューでは、中医学の薬草治療の風邪症状に対する有意な治療効果は示されていません。

 

以上、風邪の民間療法を紹介しました。

 

他にも様々な民間療法がありますが(子供の頃は卵酒を飲んだ記憶が・・・)、研究では効果が示されていないけれども、個人としては効果を感じているという方法もあるでしょう。

 

したがって、コストが安く副作用のない方法であれば、それを信じてやってみてもよいのではないかと思っています。

 

今回は、風邪の症状緩和に有効な方法として、ハチミツと亜鉛の摂取を取り上げましたが、私個人としては、研究の対象年齢である18歳に若返ったつもりで、ハチミツを是非試してみたいと思っています。

 

しかし、現在は、様々な感染症予防策を行っているのでまったく風邪を引きません。

 

ということで、18歳に若返るのは一体いつのことになるのでしょうか?


2020年5月31日(日)

 第166話 新型コロナウイルスに備えるために−総合感冒薬は便利な薬?−
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

風邪を引いたとき、総合感冒薬を飲んだことがあるという人が多いと思いますが、一口に総合感冒薬と言っても、薬ごとの成分に違いがあり、必ずしも同じ薬効があるとは言い切れません。

 

そこで、総合感冒薬に含まれる成分を分析し、総合感冒薬はどのような成分の組み合わせの薬なのか見ていきたいと思います。

 

【総合感冒薬に含まれる成分】

●解熱鎮痛薬

代表的な薬剤に、アセトアミノフェン、イブプロフェン、アセチルサリチル酸(アスピリン、バファリン)、エテンザミド、サリチル酸アミド(エテンザミドの活性代謝物)があり、痛みの緩和や解熱を目的として使われます。このうち、イブプロフェン、アスピリン、エテンザミド、サリチル酸アミドは、非ステロイド抗炎症薬(NDAIDs)に分類され、鎮痛作用と抗炎症作用を併せ持った薬剤です。

風邪症状に対するイブブロフェンを含んだNSAIDsの効果を調べた臨床研究では、疼痛に対して効果を示したものの、罹病期間や疼痛以外の症状に対して効果は示されていません。さらに、NSAIDsは、活動性の消化性潰瘍、アスピリン喘息の患者には使用できません。また、インフルエンザや水痘の小児に対しては、インフルエンザ脳症やライ症候群(脳症や肝障害を引き起こす病態)との関連性から、その使用が禁忌とされています。

一方、アセトアミノフェンは、風邪症状に関する臨床研究で解熱と鎮痛効果が確認され、NSAIDsにない安全性から、小児を含めた広い年代に対して汎用されている薬剤です。しかし、高用量で服用した場合、肝障害の危険性があるので注意が必要です。

 

●抗ヒスタミン薬

代表的な薬剤に、クロルフェニラミンマレイン酸、プロメタジンメチレンサリチル酸などがあり、鼻汁、鼻閉、くしゃみの症状に対して使用されます。しかし、多くの臨床研究では、風邪症状に対して単剤で使用しても有意な効果が示されていません。さらに、これらの薬剤は、第一世代抗ヒスタミン薬に分類され、脳内のヒスタミン受容体に結合し、眠気、集中力の低下、判断力の低下、認知機能の低下を引き起こすことがあり、車の運転、高所での作業、精密な作業を行う人、高齢者、小児は使用すべきではありません。さらに、抗コリン作用も併せ持つため、目や口の渇き、尿閉、便秘などの原因になることもあり、特に隅角閉塞性緑内障や前立腺肥大の人には使用すべきではありません。

 

●交感神経刺激薬

代表的な薬剤に、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリンなどがあり、これらの薬剤は交感神経に作用し、「鼻粘膜の血管を収縮させ鼻閉を改善する」、「気管支を拡張し痰の喀出を促す」などの働きがあり、多くの臨床研究でこれらの症状に対する効果が示されています。先ほど、抗ヒスタミン薬単剤では、風邪症状に対して有意な効果が示されていないと書きましたが、抗ヒスタミン薬を交感神経刺激薬と併用すると、鼻閉症状や咳の緩和につながることが示されています。しかし一方で、交感神経の刺激により、心拍数、血圧、血糖値の上昇などをきたすこともあり、心臓病、糖尿病、甲状腺機能亢進症を持つ人は注意が必要です。

 

●鎮咳薬

麻薬成分が含まれるジヒドロコデイン、非麻薬性のデキストロメトルファンなどがあります。コデインは広く使用されていますが、多くの臨床研究で風邪に伴う咳に対して有意な効果が確認されていません。また、その麻薬成分のために、便秘、眠気、嘔気、喘息の悪化などに注意が必要になります。一方、デキストロメトルファンは、咳に対して効果があるとする研究結果もあれば、効果がないという研究結果もあり評価が分かれています。また、海外ではその乱用が問題になっており、高用量で服用した場合、幻覚、頻脈、高血圧、けいれん、意識障害などの症状を引き起こすことが報告されています。

 

●去痰薬

アンブロキソール、カルボシステイン、グアイフェネシン、リゾチームなどがあり、前3者は気道分泌を促進し、リゾチームは粘性の気道分泌物を分解し、痰の切れを改善する働きがあります。風邪症状に関する臨床研究では、はっきりとした効果が示されているわけではありませんが、他の薬剤に比べて副作用が少なく、市販の総合感冒薬の成分の一つとして広く使用されています。しかし、リゾチームは鶏卵アレルギーの人には注意が必要です。

 

●無水カフェイン

ほとんどの総合感冒薬には無水カフェインが入っており、血管を収縮することで、頭痛を緩和します。また、脳の覚醒を促し、眠気や倦怠感を改善する働きがあります。しかし、繰り返し摂取するとカフェイン依存を来すことがあり、大量摂取で動悸、頻脈、不整脈、不眠、不安などの中毒症状が現れることがあります。

 

【各総合感冒薬の成分】

医療機関でよく処方されるぺレックス配合顆粒とPL顆粒の成分を比較してみます。

 

ぺレックス

PL

サリチル酸アミド(解熱鎮痛)

アセトアミノフェン(解熱鎮痛)

無水カフェイン

クロルフェニラミンマレイン酸

(抗ヒスタミン)

 

プロメタジンメチレンサリチル酸

(抗ヒスタミン)

 

これを見ると、ぺレックスもPLもアセトアミノフェンとサリチル酸アミド(NSAIDs)の2種類の解熱鎮痛薬が入って、解熱鎮痛効果を高めているのがわかります。また、それぞれ、無水カフェインと種類の違う抗ヒスタミン薬が入っていますが、交感神経刺激薬や鎮咳薬は含まれていませんので、主に発熱、頭痛、咽頭痛、鼻汁、後鼻漏に伴う咳(鼻汁が喉に刺激を与えて咳が誘発される病態で、気管支で誘発される咳とは機序が異なる)などの症状を緩和することを目的とした薬剤であることが分かります。

 

次に市販されている代表的な総合感冒薬の成分を比較してみます。

 

エスタックイブ

新ルルA

パブロンS

ベンザブロック

アセトアミノフェン

(解熱鎮痛)

 

 

イブプロフェン

(解熱鎮痛)

 

 

クロルフェニラミン

(抗ヒスタミン)

 

 

フマル酸クレマスチン

(抗ヒスタミン)

 

 

メチルエフェドリン

(交感神経刺激)

 

フェニルプロパノールアミン(交感神経刺激)

 

 

 

ジヒドロコデイン

(鎮咳)

ノスカピン

(鎮咳)

 

 

 

塩化リゾチーム

(消炎・去痰)

 

 

塩酸ブロムフェキシン

(去痰)

 

 

 

無水カフェイン

 

これを見ると、市販の総合感冒薬の方が、病院で処方される総合感冒薬に比べていろんな種類の成分が入っていることがわかります。特に、咳や痰などの気管支由来の症状を緩和する交感神経刺激薬や鎮咳剤がほとんどの薬剤に入っているのがわかります。

 

【総合感冒薬は便利?それとも不便?】

以上、総合感冒薬に含まれる各成分の効能や、総合感冒薬に含まれている成分の組み合わせについて見てきました。

確かに総合感冒薬は、いろんな薬効を持つ成分を同時に服用できる点で便利なのですが、私個人としてはその便利さが仇となってきめの細かい治療を妨げているように感じています。以下に、総合感冒薬が「便利でない」と感じる理由を挙げておきます。

 

●風邪の症状にはっきりとした効果が示されていないものが多い

先に書いたように、抗ヒスタミン薬や鎮咳薬など、総合感冒薬の中核を担っている成分は、風邪症状に対する臨床的な効果がはっきりと示されていません。

 

●不要な成分を飲むことがある

例えば、風邪の症状でも人によって痛みが主体の人、咳が主体の人など様々ですが、総合感冒薬の成分をよく吟味しないと、痛みが主体なのに必要のない抗ヒスタミン薬を飲んでしまうことになるのです。

 

●副作用のために服用できる人が限られている

総合感冒薬の主成分となっている解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、交感神経刺激薬、鎮咳薬は、先ほど書いた副作用のために、高齢者、特定の持病を持った人、妊婦、授乳中の女性、小児(特に乳幼児には禁忌!)などには推奨されません。

 

●他の薬剤と成分が重複することがある

たとえば、普段から腰痛や関節痛のために鎮痛薬を服用している人が、風邪を引いて総合感冒薬を飲むことになったら解熱鎮痛剤が重複し、酔い止めと総合感冒薬を一緒に飲むことになったら抗ヒスタミン薬が重複することになります。さらに、普段からコーヒーやエナジードリンクを多飲する人が、風邪を引いて総合感冒薬を飲むことになったらカフェイン中毒になることさえあります。

 

私は、普段から高齢者を診察することが圧倒的に多いのですが、高齢者に対して総合感冒薬を処方することは全くありませんし、家族に対して総合感冒薬を処方したこともありません。私が「風邪」の診療で最優先していることは、風邪以外の病気をしっかり見極めること(高齢者が風邪だと訴えてもそうでないことが非常に多いため)、「風邪薬」によって余計な副作用を生み出さないことです。

 

以上の理由で、私が風邪の患者さんを診察した場合、個別の症状、持病、体質に応じて最も安全な薬を選んで処方していますし、「総合感冒薬を出してくれ!」と懇願されても処方することはないと思います。

 

ということで、総合感冒薬を処方してもらいたい風邪の患者さんは、私の診察を受けるべきではありません(笑)。

 

新型コロナウイルスの対策(マスク、手洗い、換気、消毒etcの徹底)を行うようになってから、風邪にも罹らなくなったという人も多いのではないでしょうか?

 

今後、たとえ新型コロナウイルスが終息に向かったとしても、総合感冒薬のお世話にならない健康的な生活を継続して行きましょう!




2020年5月27日(水)

 第166話 新型コロナウイルスに備えるために−気道感染症における抗生物質の使い方−
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

【抗生物質使用の適正化が必要な理由】

今回は、気道感染症における抗生物質の使い方について書いていきたいと思いますが、その前に、抗生物質の使い過ぎはどんな影響をもたらすのか整理したいと思います。

 

耐性菌の増加・副作用の増加

感染症の重症化・合併症の増加

入院の増加・入院期間の増加

死亡率の増加

医療費の増加

 

抗生物質の使用は腸内細菌のバランスを崩し(ディスバイオーシス)、その結果、個人レベルの健康に様々な形で影響を及ぼしますが、それ以外に、耐性菌の増加による上記のような弊害が問題になってきます。実際、細菌による尿路感染症や気道感染症の患者が抗生物質治療を受けると、治療後、12か月にわたって抗生物質の耐性が持続すると報告されています

 

抗生物質が最も処方される場所は、プライマリ・ケア(かかりつけや一般医療機関の外来)の現場です。ヨーロッパでは、実に80%〜90%の抗生物質は、プライマリ・ケアの現場で処方され、その大部分が気道感染症のために処方されていると報告されています。

 

そして、抗生物質の使用量が増えるにしたがって、個人レベルでも集団でも耐性菌を持つ割合が増えていくのです。

 

【急性気道感染症における抗生物質の使い方】

以上のような流れの中で、外来における抗生物質の適正使用が優先度の高い課題となり、2017年に厚生労働省抗微生物薬適正使用の手引きが発行されています。

 

この手引きでは、肺炎以外の急性気道感染症を「感冒」、「急性咽頭炎」、「急性副鼻腔炎」、「急性気管支炎」に分けて解説しています。

 

ウイルス感染症というのは、様々な場所に症状を引き起こすのが特徴です。上気道炎でいえば、くしゃみ、鼻水、咽頭痛、頭痛、咳、筋肉痛、関節痛、下痢など多彩な症状を引き起こします。インフルエンザウイルスやコロナウイルスでもそうだと思います。

一方で、細菌感染症というのは、一つの場所に集中的に症状を引き起こすのが特徴です。

喉の痛みはあるけど咳が出なかったり、逆に、咳や痰が出るけど咽頭痛はなかったりするわけです。例外として、マイコプラズマやレジオネラによる肺炎や、ウイルス感染症から2次的に細菌感染を合併した場合は、いろんな症状が出る場合もあります。

 

●感冒

感冒とは、咳、鼻汁・鼻閉、咽頭痛がどれも満遍なく存在し、重症感が低い状態で、この場合は、抗生物質が効かないウイルスが主な原因ですので、抗生物質の使用は推奨されていません。

症状は、最初の23日が症状のピークで、7〜10日の間で徐々に改善してくるとされていますが、ライノウイルスが原因の場合、鼻汁や咳は、徐々に良くなりながらも2週間程度は持続すると報告されています。しかし、徐々に軽快してくるという自然経過から外れて悪化傾向を示したり、一旦良くなった症状が再び悪化する場合は、細菌感染症の合併(新型コロナウイルス感染症の場合も一般的なウイルス感染症とは違った経過になります)を考えます。

 

●急性咽頭炎

抗生物質の適応があるのは、A群溶連菌による咽頭炎になります。先に触れたように、ウイルス性咽頭炎の場合は、咽頭痛以外に、くしゃみ、鼻汁、咽頭痛、咳、下痢などいろいろな症状が同時に、また時間差で現れるのが特徴です。

A群溶連菌が原因かどうかは、McIsaacの基準という症状のスコアで判定し、このスコアが3点以上であれば迅速検査や培養検査を行い、検査結果が陽性なら抗生物質を使用します。手引きでは、抗生物質が使えるのは、あくまで迅速抗原や培養検査が陽性の場合のみとしています。

また、伝染性単核球症というEBウイルスやサイトメガロウイルスによる咽頭炎との鑑別が重要になりますが、前頸部以外の頸部リンパ節の腫大、脾腫、白血球のリンパ球の数や異形リンパ球の割合で判断します。

さらに、喉の痛みを引き起こす重篤な病態、例えば、急性喉頭蓋炎(声帯付近を中心とする感染症で窒息の危険あり)、扁桃や咽頭周囲の膿瘍、細菌性血栓性静脈炎、心筋梗塞、動脈解離などをしっかり鑑別する必要があります。

 

McIsaacの基準を示します。

発熱38℃以上                  1

咳がない                     1

圧痛を伴う前頸部のリンパ節腫脹 1

白苔を伴う扁桃腺炎              1

年齢 314                1

年齢1544                 0

年齢45歳〜                 1

A群溶連菌による咽頭炎は、咽頭に集中的に炎症を起こしますので、咳が出なかったり、年齢が高くなると溶連菌による感染症の頻度が少なくなることが点数に反映されています。

 

選択する抗生物質は、A群溶連菌に対して100%感受性のあるアモキシシリン(サワシリン)1500rを12回〜3回内服10日間が第1選択ですが、ペニシリンアレルギーがある場合は、クリンダマイシン(ダラシン)1300mg1310日間か、セファレキシン(ケフレックス)1500r1310日間を選択します(A群溶連菌感染後のリウマチ熱の予防のために10日間という少し長めの服用期間になっています)。以前は、ペニシリンが使えない場合は、マクロライド系抗菌薬が第2選択だったのですが、耐性菌が増えて今は推奨されていません。

 

●急性副鼻腔炎

いわゆる蓄膿症です。鼻の奥にある副鼻腔に感染が起きた状態で、ウイルスと細菌の双方が原因になりえます。ただ、手引きでは、成人の軽症急性副鼻腔炎対して抗生物質の使用は推奨されておらず、中等症または重症の急性副鼻腔炎に対してのみ抗生物質の使用が推奨されています。

 

急性副鼻腔炎の重症度のスコアリングは、以下のように臨床症状と鼻腔所見に分かれています。

鼻漏(頻繁にかむ頻度) 時々鼻をかむ1点、頻繁に鼻をかむ2

顔面痛・前頭部痛    痛みがあるが我慢できる1点、鎮痛剤が必要2

鼻腔所見での鼻汁や後鼻漏 粘膿性少量1点、粘膿性中等量以上2

以上の総得点で、13点が軽症、46点が中等症、78点が重症と判定されます。

 

この他、細菌性の急性副鼻腔炎を疑う症状として、症状が710日以上続く場合、感冒などの上気道炎がいったん軽減してから、膿性鼻汁、鼻閉、顔面や前頭部の自発痛または圧迫感や圧痛が出現した場合です。

 

選択する抗生物質は、主な原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ桿菌(インフルエンザウイルスとは全く違う細菌です)を想定して、ペニシリン系抗菌薬のアモキシシリン(サワシリン・パセトシン)1500rを13回内服5〜7日間が第1選択ですが、ペニシリンに対する耐性菌が想定される場合は、アモキシシリン1250r1357日と、アモキシシリンにクラブラン酸を配合したオーグメンチン配合錠250RS375r)1357日を併用したりします(オーグメンチン&アモキシシリンを略して、バトミントンのペアのように“オグサワ処方”と呼んだりします)。

 

もし、ペニシリン系抗菌薬(βラクタム系)に対してアレルギーがある場合、やむなくフルオロキロノロン系のレボフロキサシン(クラビット)500r1157日、もしくはガレノキサシン(ジェニナック)400r11回5〜7日を使用します。

 

ちなみに、小児(6か月〜12歳)の急性副鼻腔炎、急性中耳炎、溶連菌性咽頭炎の患者30159人に対して、狭域抗菌薬(ペニシリン・アモキシシリン)と広域抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸・セファロスポリン・マクロライド)の効果を比較した無作為化比較試験がありますが、両群とも初期治療に失敗した割合に有意差はなく、広域抗菌薬群においてQOL(生活の質)のわずかな低下や患者報告の副作用が有意に多かったとしています。

 

●急性気管支炎

急性気道感染症のうち、咳を主体とする症状を呈し、副鼻腔炎や肺炎が除外された病状を指します。

手引きでは、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患や合併症のない急性気管支炎に対しては、百日咳を除き抗生物質投与を行わないことを推奨しています。

 

ちなみに、18歳以上の急性気管支炎の患者3108人を対象に、抗生物質(アモキシシリン)を使用した群とプラセボを使用した群に分けてその後の症状の調査を行う無作為化比較試験が実施されていますが、症状の持続期間、重症度とも両群に有意差はなかったと報告されています。しかし、新たな症状の出現や症状が悪化した割合が抗生物質群15.9%、プラセボ群19.3%と、抗生物質群で有意に低かったのですが、その一方で、抗生物質群では、皮疹、嘔気、下痢などの副作用がその利益以上に多く、報告者は急性気管支炎の患者に対して抗生物質の使用は推奨されないとしています。

 

急性気管支炎の場合、肺炎との鑑別がとても大切になりますが、38.6℃以上の発熱、脈拍100以上、呼吸数20/分以上、酸素飽和度94%以下の一つでも当てはまれば、肺炎を疑って胸部レントゲン撮影を行うことが推奨されています(聴診器で痰が絡むような呼吸音を聞き取った場合や医師としての直感でレントゲン撮影を行う場合もあるでしょう)。

 

成人の百日咳は、14日以上続く咳に加えて、顔を真っ赤にして激しく発作的に咳こむ場合、最後にヒューと音を立てて息を吸う咳発作がある場合、咳込み後に嘔吐する場合、無呼吸発作がある場合のいずれか一つが当てはまる場合に疑い、鼻腔、咽頭などから検体を採取して病原体を同定する検査、PCR法による遺伝子検査、採血による抗体検査のいずれかを行い、陽性の場合に確定診断となります。

 

抗生物質は、マクロライド系薬剤(クラリスロマイシンやアジスロマイシン)などが第1選択となります。

 

ただ、この流れで抗生物質を投与しても、治療のタイミングが遅すぎて、咳の軽減には有用ではなく、あくまでも除菌をして他人への感染を予防するという意味が大きいという点に注意が必要です。

 

以上、急性気道感染症で抗生物質を使用する場合は、ペニシリン系薬剤の使用が第1選択として推奨されています。

 

新しい抗生物質が次から次へと登場してくるにしたがってペニシリンは過去の薬というイメージが定着してしまったのですが、今も健在なわけです。

 

特にアモキシシリン(サワシリン)は、腸管からの吸収率(生体利用率)が90%以上で、副鼻腔や喀痰への移行性も良好で、もっと見直されても良い抗生物質と言えます。

 

ちなみに手引きでは、広く処方されてきた第3世代セファロスポリンは、耐性菌を増加させたり、生体利用率が低いため、急性気道感染症には原則使用しないとしています。

 

以下に第3世代セファロスポリン各薬剤の生体利用率を紹介します。

セフポドキシムプロキセチル(バナン)50

セフィキシム(セフスパン)31

セフニジル(セフゾン)25

セフジトレンピボキシル(メイアクト)14

セフカペンピボキシル(フロモックス)3040%(尿中排泄率から推測)

セフトラムピボキシル(トミロン)不明

 

せっかく内服したのに、吸収されずに腸を素通りしてうんこになって出ていってしまう薬剤が多いのです。

また、小児に対してピボキシル基を有する抗生物質を使用すると、低カルニチン血症による低血糖、けいれん、脳症を引き起こすことがあるとされています。

 

抗生物質を使う場合は、ついつい浮気してしまったけど、昔の恋人(今の配偶者?)と、もう一度よりを戻すような気持ちが必要のようです。


2020年5月22日(金)

 第165話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−なんでも効いてしまうスーパー抗生物質の使い方−
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

皆さんは、どんな細菌感染症にでも効いてしまうスーパー抗生物質があったら、すごいと思うかもしれません。

 

1942年にペニシリンが実用化されて以来、より広範囲の細菌をカバーできる抗生物質が理想とされ、開発が進められてきました。

 

その中でも、フルオロキノロン系抗菌薬は、肺炎球菌を含めたグラム陽性菌、緑膿菌を含めたグラム陰性菌、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラといった市中の感染症の病原体のほとんどをカバーし、さらに、腸管からの高い吸収率、組織への高い移行性、11回の内服でよいという利便性を兼ね備えた抗生物質として市場でのシェアを拡大してきました。

 

日本では、現在10種類のフルオロキノロン系抗菌薬が使用され、中でもレボフロキサシン(クラビット)はその使用量の半数以上を占め、私が知る限り、肺炎はもちろん、咽頭炎、気管支炎、尿路感染症、胆道感染、腸管感染症、皮膚感染症など、人体のあらゆる部位の感染症に対して、病院やクリニックの外来で広く使われています。

 

しかし、このようなスーパー抗生物質といえど、薬剤耐性の問題を克服することはできず、耐性菌の増加が年々深刻化してきているのです。

 

●日本での多剤耐性菌による死亡者数

2017年の厚生労働省院内感染症対策サーベーランスをみると、大腸菌のフルオロキノロン系抗菌薬の耐性率は40.1%にまで上昇していることが示されています。

 

さらに、2019年に、AMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンターから、日本での薬剤耐性菌の菌血症による死亡数の推定が初めて発表されています。

 

それによると、薬剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症による死亡数は2017年に4224名、フルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数は2017年に3915名と推定されました。

 

そして、年度別の推移をみると、MRSAによる菌血症による死亡者は年々低下傾向なのですが、フルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数は年々増加していることが示されています。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬と耐性菌発生との関係

海外では、フルオロキノロン系抗菌薬が、薬剤耐性菌の発生にどのような影響を及ぼしているのか調べた研究が複数報告されており、以下に紹介します。

 

研究チームは、クロストリジウムディフィシル菌による偽膜性腸炎の入院患者200人に対する観察研究を行った。その結果、60日以内に43人の患者に偽膜性腸炎の再発が認められ、年齢、薬剤、腎機能障害、免疫不全、併存疾患、以前の入院歴など様々な因子を解析した結果、フルオロキノロン系抗菌薬の使用が、唯一再発のリスク因子であった(調整オッズ比2.9)。

 

研究チームは、プライマリ・ケアの現場で使われる抗生物質が、入院患者の多剤耐性グラム陰性菌の発生にどのように影響があるのか症例対照研究を行った。

多変量解析で分析した結果、プライマリ・ケアの現場における第三世代セファロスポリン系抗菌薬(これも広範囲の細菌に効果のある薬剤として汎用されています)とフルオロキノロン系抗菌薬の使用が、入院患者の多剤耐性菌の発生と有意に関連していた(P=0.004)。

 

研究チームは、市中で発生した薬剤耐性(ESBL産生)腸内細菌による血流感染のリスク因子を調べるため、945人の患者群と9390人のコントロール群による症例対照研究を行った。

その結果、過去3か月以内のフルオロキノロン系抗菌薬の使用が、ESBL産生腸内細菌による血流感染と有意に関連していた(調整オッズ比5.52)。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬使用の見直し

以上の流れの中で、日本でもフルオロキノロン系抗菌薬の使用を見直す機運が高まり、2016年にAMR(抗生物質耐性)対策アクションプランが採択され、2020年までにフルオロキノロン系抗菌薬の使用量を50%減らし、大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下とする数値目標が掲げられました。

 

また、2016年に米国食品医薬品局(FDA)から医療従事者向けに、フルオロキノロン系抗菌薬に対する安全情報と勧告が出されています。

 

それによると、フルオロキノロン系抗菌薬は、腱(腱炎、腱断裂)、筋肉(筋肉痛、筋力低下)、関節(関節痛、関節腫脹)、末梢神経(末梢神経障害)、中枢神経(けいれん、めまい、抑うつ、幻覚など)への不可逆的・永続的な副作用のリスクと関連し、急性副鼻腔炎、急性または慢性気管支炎、合併症のない尿路感染症の治療において、利益よりも副作用のリスクが上回るとして、他に治療の選択肢がない場合を除いて、全身投与を行わないように勧告しています。

 

●フルオロキノロン系抗菌薬が第一選択となる病態

ここでは、フルオロキノロン系抗菌薬の代表的な薬剤であるレボフロキサシン(クラビット)とシプロフロキサシン(シプロキサン)について、市中感染症の場面を想定して、考えたいと思います。

まず、レボフロキサシンの使用が第一選択となる場面は、気道感染症の中では、レジオネラ肺炎や、アレルギーなどで他の抗生物質が使用できない場合の細菌性肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌など)など、かなり限られた病態だけになるものと考えられます。咽頭炎、中等症以上の副鼻腔炎、皮膚の感染症に対しては、他の抗生物質が使用されるべきです。また、大腸菌による尿路感染症をはじめとする腸内細菌感染症に対しては、もはや使用を控えるべきと思われます。

 

次に、シプロフロキサシンの使用が第一選択となる場面は、グラム陰性菌の感染症の中でも、外来や他の抗菌薬が使用できない場合の緑膿菌感染症など、かなり限られた病態だけになるものと考えられます。グラム陽性菌による感染症に対しては、他の抗生物質が使用されるべきです。

 

今まで、オールラウンドな作用を持つ抗生物質が理想とされ、フルオロキノロン系抗菌薬はその代表格として、外来診療でも広く活用されてきました。しかし、本来は重症細菌感染症の切り札としての役割を担うべき抗生物質を、軽症のありふれた感染症に対して最初から投与するやり方を変えるべき時が来ています。

また、オールラウンドというのは、人体と共生している細菌に対しても無差別に抗菌力を発揮し、病原性の強い耐性菌の発生につながりやすいという危険性を孕んでいます。

したがって、これからは、オールラウンドな抗菌力を持つ抗生物質よりも、狭い範囲の細菌にしか効かないけれど、それが得意とする感染症に対してしっかり効いてくれる職人のような抗生物質を選んで、上手に使いこなしていく時代なのです。

 

新型コロナウイルス感染症が流行している中であっても、私達は、それ以外の様々な感染症と付き合っていくことになります。その中で、私達には、必要とする人にだけ抗生物質を使用し、適切な抗生物質を選択するという姿勢求められています。そして、必要でない人には、抗生物質を使用しないことも将来につながる立派な医療だということを忘れてはいけません。

 

次回は、気道感染症を中心とする抗生物質の選択や治療期間について触れたいと思います。


2020年5月16日(土)

 第164話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−あまり知られていない重い副作用について−
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回は、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響を中心に書きましたが、今回は、抗生物質による副作用についてです。

 

一般的に、よく知られている抗生物質による副作用には、投与直後のアレルギー、薬疹、肝機能障害などがありますが、これ以外にあまり知られていない副作用について挙げてみたいと思います。

 

●抗生物質の使用とアレルギー疾患発症との関係

次に紹介するのは、抗生物質とアレルギー疾患の関連を調査した日本の研究です。

研究チームは、2004年から2006年に生まれた新生児1550人を対象に観察研究を行った。

その結果、2歳までに抗生物質の投与を受けた群では、5歳までに喘息、アトピー性皮膚炎、鼻炎を発症するリスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ1.721.401.65)。

抗生物質の種類別にアレルギー疾患発症との関係をみると、セフェム系抗菌薬が喘息と鼻炎の発症と関連し(調整オッズ比はそれぞれ1.971.82)、マクロライド系抗菌薬がアトピー性皮膚炎の発症と関連していた(調整オッズ比1.58)。

 

以下は、抗生物質と食物アレルギーの関連を調査した研究です。

研究チームは、2007年から2009年に生まれた7499名の乳児を対象として、食物アレルギーについての症例対照研究を行った。

その結果、生後1年以内に抗生物質の処方を受けた子供は、抗生物質の処方を受けない子供に比べて有意に食物アレルギー発症のリスクが高かった(調整オッズ比1.21)。

さらに、生後1年以内に抗生物質の処方機会が増えるほど、食物アレルギー発症のリスクが高まった(3回、4回、5回以上の調整オッズ比はそれぞれ1.311.431.64)。

また、抗生物質の種類別の食物アレルギーの発症リスクは、セフェム系、マクロライド系、ペニシリン系の順に高かった(調整オッズ比はそれぞれ1.501.361.19

 

いずれも、幼少期での抗生物質の使用は、アレルギー疾患の発症と関連していることを示す結果となっています。この理由として、前回のブログで紹介した通り、抗生物質が腸内細菌のバランスに影響を及ぼし(ディスバイオーシス)、その影響が長期に及ぶことが考えられています。

 

●抗菌薬の使用と心血管疾患・死亡との関係

以下は、抗生物質の使用と心血管疾患・死亡との関係を調査した観察研究です。

研究チームは、36000人以上の60歳以上の女性を対象とし、各対象者が若年(20歳から39歳)、中年(40歳から59歳)、高年(60歳以上)の期間中に、どれくらいの期間にわたって抗生物質投与を受けたのかを、投与を受けていない群、1日から15日未満の期間で投与を受けた群、15日から2か月未満の期間で投与を受けた群、2か月以上の投与を受けた群の4つの群に分けて、平均7.6年間観察を行った。

その結果、中年と高年で15日以上の抗生物質の投与を受けると心血管疾患の発症リスクが有意に高かったが、中年の期間中に2か月以上の抗生物質の投与を受けた群と、高年で2か月以上の抗生物質の投与を受けた群では、特に心血管疾患の発症リスクが高かった(調整ハザード比は1.281.32)。

 

また、中年の期間中と高年で2か月以上の抗生物質投与を受けた群は、有意に死亡リスクが高かった(調整ハザード比はそれぞれ1.271.19

 

この研究は観察研究なので、必ずしも因果関係を証明しているわけではありませんが、抗生物質の投与期間が長いほど、女性の心血管疾患や死亡リスクと関連していることが示されています。特に、40歳から59歳の期間中に抗生物質の投与を受けた場合でも、60歳以上になってからの心血管疾患や死亡リスクと関連していることは衝撃的でした。

この理由として、腸内細菌フローラのディスバイオーシスにより、動脈硬化の進行や血小板機能を亢進させる代謝産物が関係している可能性が示唆されています。

 

●抗生物質の使用とがん発症との関係

以下は、抗生物質の使用とがんの発症との関係を調査した観察研究です。

研究チームは、住民登録された300万人以上の30歳から70歳の成人を対象として、1995年から1997年にかけての抗生物質の処方を受けた回数を01回、25回、6回以上の群に分けて、その後、1998年から2004年までの期間中のがんの発症との関連を調査した。

その結果、01回の群に比べると、25回、6回以上の群で有意にがんの発症率が高かった(相対危険度はそれぞれ1.271.37)。また、部位別では、01回の群に比べ、25回の群と6回以上の群での相対危険度はそれぞれ、前立線がん:1.361.39、乳がん:1.161.14、肺がん:1.321.79、結腸がん:1.171.15と有意差を認めた。

 

この研究では、抗生物質の処方を受けてから比較的短い間隔をおいて追跡が始められており、もともと潜在的に存在していたがんに関連する感染症により抗生物質が使用された可能性や、喫煙の影響(特に肺がん)などが無視できず、抗生物質が必ずしもがん発症の原因になっているとは言い切れない点に注意が必要です。しかし、観察開始から少なくとも5年間がんを発症しなかった対象者に絞った分析でも、抗生物質の処方とがんの発症に関連性が認められたことや、喫煙の影響を受けないとされる皮膚がん、甲状腺がんなどでも抗生物質の処方とがんの発症との関連が示されており、抗生物質を含めた様々な因子ががん発症に関連しているものと思われます。

さらに、この論文では、抗生物質ががん発症の誘因となるメカニズムについて、1)抗生物質自体に発がん性があること、2)腸内細菌フローラに影響を及ぼし、発がんに関わる病原菌の増殖やがんの抑制に働くファイトケミカルを減少させること、4)直接的または腸内細菌を介した間接的な経路でがんに対する免疫機能を低下させること、などの可能性を挙げています。

 

●抗生物質の使用と不整脈発症・死亡との関係

以下は、抗生物質の使用と不整脈や死亡との関係を調査した観察研究です。

研究者は、国民健康保険に登録された20歳から99歳までの1000万人以上を対象者として、2001年から2011年にかけてマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシン)、フルオロキノロン系抗菌薬3種類(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)、ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンクラブラン酸)の投与を受け、投与開始7日以内の心臓疾患の発症について調査した。

その結果、アジスロマイシン、モキシフロキサシンの使用群は、アモキシシリンクラブラン酸の使用群に比べて心室細動の発症リスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ4.323.30)。また、アジスロマイシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシンの使用群は、アモキシシリンクラブラン酸の使用群に比べて心血管死のリスクが有意に高かった(調整オッズ比はそれぞれ2.622.311.77)。

 

薬剤による心室細動の発症頻度は稀ですが、マクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬の使用は、心室細動の原因となりうるQT延長症候群の原因となることが知られています。したがって、これらの薬剤を使用する際は、過去の不整脈、心疾患の有無、QT延長の原因となりうる他の薬剤との併用について、詳しい問診が必要になります。

 

以上、頻度は少ないものの、発症するとその後の生活の質や生命に関わるような重い病態について紹介してきました。

 

抗生物質は、新型コロナウイルスの治療薬ではありませんし、発熱と気道症状を訴えて受診した患者さんに対して、十分な根拠のないまま抗生物質の処方が増えることにならないかとても心配しています。

 

それは、個人の健康への影響のみならず、耐性菌の蔓延という社会問題につながるからです。

 

抗生物質の使用は、どのような状況であれ、その利益と不利益のバランスをしっかりと考え、利益が不利益を上回ると考えられる場合にのみ使用すべき薬剤であることは全く変わりません。そのために、医師と患者さん双方で、必要のない抗生物質の使用をお互いに控えていく努力が求められています。

 

次回は、日本で最も汎用されている抗生物質の一つであるフルオロキノロン系薬剤(特にレボフロキサシン)の使い方を中心に考えていきたいと思います。


2020年5月13日(水)

 第163話 新型コロナウイルスに備えるために−抗生物質を正しく使おう!−腸内細菌への影響−
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

もし、日常診療で5種類の薬だけしか使えないとしたら、抗生物質、ステロイド剤(吸入や軟膏を含めて)、利尿剤、鎮痛薬(アセトアミノフェン)、漢方薬を選択すると思います(あと一つ加えるとしたら便秘の薬?)。とにかく、この5種類の薬剤には、患者さんも治療する私も何度も助けられてきましたし、今後も絶対に欠かせない重要な薬剤です。

 

中でも、抗生物質は、感染症との戦いの長い歴史の中で、人類に大きな恩恵をもたらしてきました。

 

しかし、抗生物質が広く使われるようになるにしたがって、1900年代の後半から、薬剤耐性(AMR)感染症が世界的に拡大し、抗生物質の使い過ぎが問題になってきました。

 

世界協力開発機構OECDのレポートでは、2013年の時点で、AMRに起因する世界の死亡者数は低く見積もって1年間で70万人、何も対策を立てないと2050年にはアジアを中心に、なんと1000万人の死亡が予想されるとしています。

 

また、2013年の資料では、日本の抗生物質の使用状況を他の国と比較すると、日本では、幅広い細菌に対して抗菌作用のある第三世代セファロスポリンやフルオロキノロンといった抗生物質を使用している割合が突出して高いことが明らかになっています。

 

これを受けて国際社会では、薬剤耐性感染症の蔓延を防止することを目標に、AMRに対する行動計画が策定され推進されてきました。具体的には、WHOでは、2015年にAMRに関するグローバルアクションプランが採択され、日本でも2016年から2020年までの5年間で、医療における抗生物質の使用を適正化し、主な微生物における薬剤耐性率を低下させることを数値目標として掲げて取り組みがなされてきました。

 

そして、AMRアクションプランの最終年であった今年、新型コロナウイルス感染症が全世界に広がっています。

 

この状況の中で、私たちは抗生物質をどのように有効利用していけばよいのでしょうか?

 

ご存知の通り、抗生物質はウイルス感染症には効果がありませんが、私の個人的な経験から、ちょっとした風邪症状に対して抗生物質の処方を希望する患者さんは少なくないし、医師も抗生物質を安易に処方してしまうことがたびたびあるのは事実です。

 

しかし、このような患者さんや医師の間で、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響について深く認識したり説明したりすることはほとんどないと言ってよいと思います。

 

そこで、今回は、なぜ抗生物質の適正使用が必要なのか、抗生物質と腸内細菌との関りを中心に書いていきたいと思います。

 

【腸内細菌と腸管の免疫細胞との共生】

免疫細胞は、腸内細菌から様々なシグナルを受けて“教育され”、その機能維持や分化に腸内細菌が重要な役割を果たしていることが分かってきました。以下、腸管における免疫細胞と腸内細菌の相互作用についてまとめてみました。

 

●腸管上皮リンパ球

腸内細菌層に関連した分子パターンを認識し、腸管組織の修復、抗菌ぺプチドの産生、微生物に感染した上皮細胞を自然死させることにより感染の拡大を防ぐ働きがあります。

 

●腸管上皮細胞

腸内細菌の構成成分である糖脂質を感知し、抗菌ペプチドの分泌維持に関わっています。

 

●樹状細胞

抗原提示の役割がありますが、それ以外に、腸内細菌の鞭毛を感知したり、自然リンパ球を介して抗菌ペプチドの分泌維持に関わっています。

 

●免疫グロブリンA産生細胞

IgA抗体を産生し、腸管粘膜の細菌、ウイルス、毒素に結合してこれらを排除することにより粘膜免疫を担っていますが、腸内細菌が免疫グロブリンA産生細胞の分化に重要な役目を果たしています。特にセグメント菌(※)は、免疫グロブリンA産生細胞やIgA抗体を増加させる働きがあります。

 

※セグメント菌とは、分節した特徴的な形態を持ち、クロストリジウムに属すると考えられています。

 

Th17細胞

T細胞に属し、腸管上皮細胞を活性化することにより、抗菌ぺプチドの産生を促進し、腸管粘膜の防御力を高め、病原菌や真菌に対する感染防御の役割を果たしていますが、セグメント菌は、自然リンパ球のTh17細胞への分化を強く誘導することが知られています。

 

●制御性T細胞

Treg(ティーレグ)と呼ばれ、宿主への過剰な免疫応答に対して抑制的に働き、クロストリジウム菌や菌が産生するプロピオン酸や酪酸などの短鎖脂肪酸が制御性T細胞の分化や産生に重要な役割があることが解明されています。特に、アレルギー疾患、炎症性腸疾患、自己免疫疾患でこれらクロストリジウム菌が減少していることが報告されています。

また、制御性T細胞は、IgAの産生を通して腸内細菌のバランスを維持することに働き、逆に、バランスの良い腸内細菌は、制御性T細胞やIgA抗体の産生を通して健全な腸管免疫を維持することに働き、双方向からお互いを制御していることが知られています。

 

B細胞

抗体の産生に関わっていますが、腸内細菌の構成成分ある糖脂質を感知することにより、脾臓におけるB細胞分化が促され、体内を循環する抗体量が維持されています。

その他、腸内細菌は、免疫細胞のシグナルを調整してワクチンの免疫応答に影響を与えています。

 

【抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響】

腸内細菌のバランスが変化し、量的・質的に異常をきたした状態をディスバイオーシスdysbiosisと呼びますが、近年、ディスバイオーシスと炎症性腸疾患、肥満、糖尿病、動脈硬化、関節リウマチ、パーキンソン病、多発性硬化症など様々な疾患との関連が報告されています。

 

ディスバイオーシスの要因には、生活習慣、食事、薬剤など様々なものが挙げられますが、中でも、抗生物質は、ディスバイオーシスに強く関係しています。以下、抗生物質が腸内細菌に及ぼす影響を調べた研究を紹介します。

 

感染症の患者に対して抗生物質を投与し、抗生物質が腸内細菌フローラに与える影響を調べた研究では、フルオロキノロンとβラクタム系抗菌薬を7日間内服すると、投与終了時には、腸内細菌の多様性が25%減少し、主要な29の細菌群が12群に減少した。また、菌の構成の変化では、一般的に悪玉菌に分類されるバクテロイデス群の割合が増え、クロストリジウム菌が属しているファーミティクス群の割合が減少した。

 

ボランティア対して抗生物質を投与し、抗生物質が腸内細菌フローラに与える影響を調べた研究では、クリンダマイシンを10日間投与しDNA解析をした結果、内服1か月後でも21の細菌群の割合の減少が認められ、うち18群がクロストリジウム菌に属していた。また、便の培養を行った結果、投与直後にはビフィズス菌群と乳酸菌群がともに減少し、特にビフィズス菌群は投与12か月後になっても投与前の状態に回復しなかった。

 

シプロキサシンを10日間投与しDNA解析をした結果、内服1か月後でも15の細菌群の割合が減少し、うち8群がクロストリジウムに属していた。また、便の培養を行った結果、投与直後では、大腸菌群とビフィズス菌群の減少が認められた。

 

以上の結果から、抗生物質はビフィズス菌やと乳酸菌といった善玉菌に分類される細菌や、制御性T細胞の分化に重要な役割を果たしているクロストリジウム菌に大きな影響を及ぼしていることがわかります。

 

【抗生物質が腸内細菌を介して免疫システムに及ぼす影響】

抗生物質は、「腸内細菌と腸管の免疫細胞との共生」で記したすべてのプロセスに影響を与えますが、腸内細菌を通した抗生物質の弊害について大きく2つに分けると、1)病原菌に対する防御機能の低下、2)アレルギーをはじめとする免疫の異常を促進することになります。

 

●病原菌に対する防御機能の低下 

抗生物質は、腸管粘膜の粘液、抗菌ぺプチド、IgA抗体、Th17細胞の産生、短鎖脂肪酸の産生を抑制し、腸管の病原菌に対する防御機能を低下させます。

また、特定の細菌は、偽膜性腸炎の原因となるクロストリジウムディフィシル菌、病原性大腸菌、カンジダなどの真菌の増殖を直接的、間接的に抑制していますが、抗生物質は、これらの病原菌に対する腸管の防御機能を低下させます。

 

●制御性T細胞への分化を阻害

抗生物質は、クロストリジウム菌を阻害し、制御性T細胞への分化や組織修復分子を低下させ、腸炎やアレルギーを介した炎症を促進する可能性があります。

 

Th17細胞への分化を阻害

抗生物質は、セグメント菌を阻害し、Th17細胞への分化を低下させ、病原菌に対する免疫応答を低下させる可能性があります。

 

今回は、腸内細菌が、免疫システムとの相互作用の中で重要な役割を果たしていることや、抗生物質が、腸内細菌を介した免疫システムに大きな影響を及ぼしていることを書いてきました。

 

新型コロナウイルスに対しては、感染予防対策と並び、個人の免疫力を高め、それを維持することがとても重要です。そして、個人の免疫力を高める取り組みというのは、感染症に対する予防だけでなく、これからも続く人生をいかに健康的に過ごすか、健康長寿をいかに実現するかという長くて広い視点に立った時に、とても大切な取り組みだと考えています。

 

今回は、専門用語ばかりで難しかったという方も多いかもしれませんが、せっかく自分の腸に住み着いてくれている可愛い細菌(?)に対して、高い賃貸料(代償)を要求することのないよう、赤ちゃんに接するような気持で愛情を持って接していきたいものです。

 

次回は、今回の続きとして、抗生物質の適正使用に関連する臨床試験を中心に書いていきたいと思います。


2020年5月9日(土)

 第162話 新型コロナウイルスに備えるために−高齢者施設での対応と家庭用洗剤の効果
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


新型コロナウイルス感染症の蔓延で、各高齢者施設とも大変なご苦労の中、面会を制限するなど感染防止に努められていると思います。しかしながら、各地の病院や老人施設でクラスターの発生も報告されています。回避できないケースもありますが、中には、休憩室や更衣室での行動や手指衛生など、組織内での注意喚起の不徹底や個人レベルでのちょっとした気の緩みが原因でクラスターを発生させているケースもあります。高齢者施設での感染対策は厚生省などからすでに通知が出されていますが、下記の点について今一度ご確認をお願い致します。

 

【施設内での職員の対策】

●体調不良時の早退、欠勤を許容し、批判しない雰囲気作りを行う

●できる限り窓を開放し自然換気を徹底する(特にミーティングや休憩時の窓の開放)

●食事中や休憩中の会話はできる限り最小限にする

●対面して会話する際は社会的距離(2m)を確保する

●全員でマスク着用を正しく行う(消毒しない状態での使いまわし禁止)

●手で顔を触らない

●一人の入所者を介護するごとに手指消毒を行う

●食事前や入所者へ食事の配膳前に手指消毒を行う

●ペンなど共用物品を最小限にする

●施設内での共用物品(特にパソコンのマウス・キーボード、タブレット、電話の受話器やプッシュボタン、ドアノブ、手すり、トイレの便座や床等)の消毒を行う

●職員だけによるエレベーターの使用を制限する

●エレベーター内での会話を禁止する

●インターホンやボタンは指の関節面でプッシュする

 

尚、アルコールなど消毒液の不足などもあり、その調達に苦労されているかと思います。そのような場合、下記のように、効果が確認された家庭用洗剤を使用する選択肢もあるかと思います。今ある資源を使ってできる限りの対応をお願します。

 

【各家庭用洗剤の効果】

下記は、各家庭用洗剤の新型コロナウイルスに対する不活化効果を調べた実験で、効果が確認された商品です。詳しくは北里研究所「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について」のプレスリリースをご覧ください。

 

●接触時間が1分でウイルスの不活化が確認された手指用・拭き取り用洗剤

かんたんマイペット(原液)、クイックルワイパー立体吸着ウエットシート 香りが 残らないタイプ(絞り液)、クイックルワイパー 立体吸着ウエットシートストロング (絞り液)、クイックル Joan シート(絞り液)、クイックル Joan 除菌スプレー(原液)、食卓クイックルスプレー(原液)、セイフキープ(絞り液)、トイレマジックリン 消 臭・洗浄スプレー ミントの香り(原液)ハンドスキッシュ EX(原液)、ビオレガー ド薬用泡ハンドソープ(原液)、ビオレ u 薬用泡ハンドソープ (3 倍希釈)、ビオレガ ード薬用手指用消毒スプレー(原液)、ビオレガード薬用ジェルハンドソープ (3 倍希 釈)、ビオレu手指の消毒液(原液)、リセッシュ除菌 EX プロテクトガード(原液)

 

●接触時間10分でウイルスの不活化効果が確認された洗濯や器具の洗浄洗剤

アタック高浸透リセットパワー(3.5g/L)、アタック ZERO3000倍希釈液)、クリ ーンキーパー(100 倍希釈)、ワイドハイターEX パワー液体(100 倍希釈液)、ワイ ドハイターEX パワー粉末(5.0g/L)、ワイドマジックリン(10g/L)

 

●接触時間1分で不活化効果が確認されたアルコール濃度

不活化効果あり:50%70%90%エタノール

不活化効果なし:10%、30%エタノール

 

●接触時間10分で不活化効果が確認されたアルコール濃度

不活化効果あり:50%70%90%エタノール

不活化効果なし:10%、30%エタノール

 

従来、ウイルスの不活化には70%のアルコール濃度が必要とされていましたが、この実験では50%の濃度でも効果があったとしています。


2020年5月5日(火)

 第161話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待 パート3
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。

 

前回まで、緑茶に含まれるカテキンが新型コロナウイルスに効果がある可能性と、インフルエンザや上気道炎などのウイルス性感染症の発症を予防する効果について述べました。

 

今回は、細菌感染症に対する効果について触れてみたいと思います。

 

●緑茶の歯周病に対する効果

緑茶の細菌感染症に対する効果の中でも、最も報告が多いものが歯周病に対する効果です。

 

以下は、外国の二重盲検無作為比較対照試験です。

研究チームは、歯周病を持つ3040歳の45人の成人を、緑茶を含んだガムで115分間、12回噛む群(緑茶群)と、緑茶を含まないガムを同じ頻度で噛む群(プラセボ群)に分けて、7日後、21日後の歯肉出血指数(SBI)、プラーク指数(API)について調査した。また、21日後にそれぞれの群で歯周病の炎症に深く関わっているとされるサイトカインIL-1βの唾液中の濃度を測定した。

その結果、緑茶群はプラセボ群に比べて、1〜7日、121日、721日のいずれの期間においても、SBIAPIの両指数で有意に減少幅が大きかった。まだ、唾液中のIL-1βは、緑茶ガム群で21日後に有意な減少を示したが、減少幅は両群で有意な差を認めなかった。

 

以下は、日本の横断研究です。

研究チームは、49歳から59歳までの日本人940人について、1日に緑茶を飲む回数と、検査器具を使った診察で、歯周ポケットの深さ(PD)、臨床的アタッチメントロス(歯肉と歯が接触していない距離:AL)、出血(BOP)の各指標について調査した。その結果、様々な因子を調整しても、緑茶を1杯飲むごとに平均PD0.023o低下、平均AL0.028o低下、平均BOP0.63%低下が認められた。

 

緑茶が歯周病に対して抑制的に働く理由ですが、カテキンが歯周病の主要な細菌であるジンジバリス菌、プレボテラ菌の増殖を阻害すること、ジンジバリス菌の人の頬粘膜上皮細胞への接着や毒素の産生を抑制すること、炎症に関わっているサイトカインを抑制すること、骨芽細胞や骨髄に作用して骨破壊を抑制することなどが考えられています。

 

●緑茶の肺炎に対する予防効果

以下は、日本で行われた大規模な観察研究です。

研究チームは、19079人の男性と21493人の女性に対し(年齢は40歳〜79歳)、1日に緑茶を飲む回数と肺炎による死亡について12年間追跡して調査を行った。

その結果、女性では11杯未満の群に比べて、112杯、134杯、15杯以上の群では、飲む量が増えるほど肺炎による死亡が低下していた(調整ハザード比はそれぞれ0.590.550.53)。しかし、男性では、喫煙を含めた様々な因子を調整しても有意な差が認められなかった。

 

この研究では、肺炎の原因となった病原体については調査されていないのですが、中高年以上の年齢を対象としているので、おそらく何らかの細菌性肺炎が原因と思われます。また、70歳以上と70歳未満に分けて解析を行っていますが、いずれの年齢層においても緑茶の予防効果が認められています。男性に対する予防効果が認められなかった点は残念ですが、はっきりとした原因は不明でした。

 

●緑茶の尿路感染に対する効果

以下は、外国の二重盲検無作為比較対照試験です。

研究チームは、急性膀胱炎と診断された健康な閉経前女性107人(年齢は18歳から50歳)を、抗菌薬(ST合剤480mgを12回内服)と緑茶成分2000rを含むカプセルを就眠前に併用する群(緑茶群)と抗菌薬と緑茶を含まないカプセルを併用する群(プラセボ群)に分けてその後3日間の膀胱炎症状の有無を調査した。

その結果、1日後の膀胱炎症状は、緑茶群61%、プラセボ群74%、2日後の膀胱炎症状は、緑茶群34%、プラセボ群67%、3日後の膀胱炎症状は、緑茶群2%、プラセボ群63%でそれぞれ認められ、緑茶群で有意に症状の改善が示された。また、6週間後の再発も緑茶群で少なかった。

 

尿中に排泄されるエピガロカテキン(EGC)の90%は飲んでから8時間以内に排泄されるそうで(エピガロカテキンガレート(EGCG)は尿中にほとんど排泄されないようです)、この研究ではトイレの回数が少なく膀胱内に蓄尿しやすい就眠前にカテキンを飲むと効果的ではないかと述べています。

 

緑茶のカテキンは、様々な機序により様々な細菌の増殖抑制作用が示されていますが、以下のように、この作用を利用した抗菌薬との相乗効果が示されています。

細菌細胞膜の合成抑制(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系抗菌薬)

細菌たんぱくの合成抑制(マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系抗菌薬)

細菌核酸合成抑制(キノロン系抗菌薬、メトリニダゾール)

 

以上、緑茶の細菌感染症に対する効果について触れましたが、以前、「口腔ケアの可能性」でも触れた通り、中でも歯周病の予防や治療は、ウイルス感染症の予防や、心臓疾患や脳血管疾患を始めとした慢性疾患の予防につながることを考えると、歯周病対策における口腔ケアの一手段として緑茶を効果的に利用したいものです。

 

今回、緑茶への期待と題して3回に分けて書いてきましたが、印象に残ったのが、お茶の本場である静岡県発の研究が非常に多かったことです。

 

郷土の特産品を、研究を通して日本国内だけでなく世界に向けてアピール(自慢)できるなんて素晴らしいですね。

 

緑茶は日本が誇る超健康食品です。日本人でありながら緑茶には無縁だなんて、なんともったいない気がします。

 

新緑の季節となりましたが、食卓も大いに緑に染めようではありませんか!


2020年5月2日(土)

 第160話 新型コロナウイルスに備えるために−緑茶への期待 パート2
投稿:星野

※ここに記載された内容について、電話による個別の健康相談は行っておりませんので、ご了承下さるようお願い致します。


前回に引き続き、緑茶に含まれるカテキンによる感染症の予防効果についてです。

 

今回は、飲んだカテキンが体内でどのように吸収・代謝されるのかという点と、風邪やインフルエンザに対してどれくらいの予防効果があるのかという点について書いていきます。

 

●飲んだカテキンの吸収・代謝

前回書いた通り、緑茶に含まれるカテキンには、エピガロカテキンガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピカテキン(EC)4種類あり、中でもEGCGは最も主要な、最も生理活性が強いカテキンです。

 

ある実験によると、健常者が緑茶1杯を飲むと、12時間後には血液中の遊離型(活性型)EGCGの濃度が最大になり、その後、速やかに低下し12時間後にはほとんど血中から消失します。

 

おそらく、消化管からのカテキンの吸収量は摂取量の5〜8%で、血中に移行するものは2%程度と見積もられています。

 

胃を含む小腸で吸収されたカテキンは、肝臓で他の物質と結合し安定した形に変化(抱合化と言います)し、最終的には便(胆汁から)や尿として排泄されますが、EGCGは抱合化を受けない遊離型として、生理活性の強い状態で体内に存在できるようで、マウスへの投与実験では全身の幅広い組織に移行することが確認されています(この点に詳しい方がいらしたら教えてください)

 

●緑茶を飲むことと風邪の予防効果

以下は、日本で行われた無作為化比較試験(二重盲検ではない)です。

健常な270人のヘルスケアワーカー(平均約43歳)を、高用量のカテキンを飲む群(57rを13回)、低用量のカテキンを飲む群(57rを11回)、カテキンを飲まない群(プラセボ群)に分けて12週間、上気道炎の罹患について調べた研究では、上気道炎の罹患率は、プラセボ群で26.7%、低用量群28.2%、高用量群13.1%で、高用量群で有意に上気道炎の罹患率が少なかった(プラセボ群に対するハザード比0.46

 

●緑茶を飲むこととインフルエンザ予防効果

日本で行われた観察研究です。

6〜13歳の小学生2050人を対象に、1日何杯(1200ml)の緑茶を飲むのか質問し、緑茶を飲む回数とインフルエンザの罹患率について調査した研究では、113杯未満、35杯飲む群では、11杯未満の群に比べて有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比はそれぞれ0.620.54)。また、1週間に6日以上飲む群は、3日未満の群に比べて有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比は0.60)。

 

日本で行われた二重盲検無作為化比較試験です。

健常なヘルスケアワーカー197人(平均約43歳)を対象に、1日カテキン378r+テアニン210r(テアニンも緑茶に含まれる成分)を飲む群と、飲まない群(プラセボ群)に分けて、5か月間インフルエンザの罹患率について調べた研究では、インフルエンザの罹患率は、プラセボ群13.1%に対しカテキン+テアニン群4.1%で、カテキン+テアニン群で有意にインフルエンザの罹患率が少なかった(調整オッズ比0.25

 

●緑茶をうがいすることとインフルエンザ予防効果

複数の報告がありますが、緑茶のうがいはインフルエンザの予防効果があったとする報告と、予防効果は認められなかったとする報告があり、相反する結果となっています。以下は、それらの研究を統合したメタアナリシスという日本の研究の結果です。

 

緑茶のインフルエンザの予防効果について調べた5つの研究(16歳〜83歳の1890人)を集めて解析すると、緑茶によるうがいはインフルエンザ感染症のリスクを有意に低下させていた(相対危険度0.7)。

 

以上をみていくと、緑茶(カテキン)の風邪やインフルエンザに対する予防効果は、飲む量と回数が増えると(理想的には毎日13杯以上)、高まることが示されています。

 

この理由の一つとして、先に書いた通り、カテキンを単回飲んだだけでは血中に移行する割合が低いことや、血中に移行しても遊離型カテキンの濃度は速やかに低下し、組織に留まる時間が短いことが関係しているように思います。

 

メタアナリシスの結果でも、緑茶のうがいによるインフルエンザの予防効果が示されていますが、その効果は、メタアナリシスに含まれている個々の論文を見ても緑茶を飲むよりも低いという結果でした。また、このメタアナリシスでは、研究や対象者の数がバイアス(研究結果を間違った方向に誘導させるような因子)を否定するためにまだ不十分なようです。

 

カテキンによる感染症の予防効果というのは、口腔内や咽頭粘膜に残った成分による直接的な効果と、消化管から吸収され組織に移行した成分による間接的な効果があるように思えますが、カテキンの感染症以外の多彩な効果(抗酸化作用、抗アレルギー作用、コレステロール低下作用、抗腫瘍作用など)を考えると、うがいをするよりも、こまめに飲んだ方がその多彩な効果を引き出すことができるのではないでしょうか。

 

また、日常生活では、うがいができる場所は限られ、接触感染に注意しながらペットボトルでこまめに緑茶を飲む方が実用的です。

 

今回は、緑茶(カテキン)と風邪やインフルエンザによるウイルス感染症との関係について書きましたが、実験室レベルでは、このほかにも様々なウイルス(B肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、HIVウイルス、デング熱ウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス・・・)対するカテキンの抗ウイルス作用が報告されています。

 

これを書いているうちに、緑茶を飲みたいという欲求がふつふつと沸き上がってきました。

 

最近は、家族にしつこく緑茶を勧めるので、煙たがられてソーシャルディスタンスを維持している私です。

 

次回は、緑茶(カテキン)と細菌感染との関係について取り上げたいと思います。


2020年4月29日(水)

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