仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第297話 サッカーと診療所
投稿:院長

サッカーのワールドカップでは、日本代表の活躍が連日報じられましたが、決勝に残ったアルゼンチンとフランスを見ていると、組織力だけではなく、状況を打開することができる個の力がないと勝ち上がれないと感じました。

特に優勝したアルゼンチンは、1986年のマラドーナのチームのように、得点能力に最も優れたメッシの才能をいかんなく生かすために、他の選手をどう組み合わせるか徹底的に考え抜かれたチームでした。

さらに、アルゼンチンにはメッシと長い間代表で戦ってきた仲間に、メッシを見て育ち、メッシに憧れてサッカーを続けてきた若い力が加わり、メッシを中心にチーム内の結束がとても強かったように思います。

つまり、逆に言えば、怪我や病気でメッシを欠いてしまうようなことがあれば、チームとして成り立たなくなってしまったかもしれません。

そして、メッシ自身は自分に求められた役割を理解し、母国の優勝のために全身全霊を捧げる姿がとても感動的でした。世界中のサッカー選手が目標とするほぼすべてのタイトルを獲得してきた彼が、もはや自分の名誉ではなく母国のために情熱を持って戦う・・・ワールドカップのトロフィーを高々と掲げる彼にそんな気持ちを感じることができました。

一方、診療所(病院)の組織はどうかというと、診療所の雰囲気を作るのはやはり良くも悪くも医師(院長)です。院長の志に賛同し、協力し合える仲間がチーム一丸となって地域に貢献することが大切です。そして院長は、自分に求められているものを理解し行動しなければなりません。

その点で、やまと在宅診療所あゆみ仙台に集ってくれた仲間は最高の仲間です。

しかし、心残りなのは、仕事納めとなった12月28日も業務が忙しく、職員一人ひとりときちんと言葉を交わすことができなかったことです。職員に対してこの場を借りて感謝を伝えたいと思います。

そして、やまと在宅診療所あゆみ仙台は、大切な患者さんやご家族、地域の各事業所の多くの方々に支えられてここまで来ることができました。この1年間、ありがとうございました。

来年は新しい医師も入職する予定です。サッカー日本代表がどんなチームになっていくのか重ね合わせながら、やまと在宅診療所あゆみ仙台がどんなチームに発展していくのか楽しみにしているところです。

皆様にとってよい年となりますように。


2022年12月30日(金)

 第296話 夢と現実の力
投稿:院長

当院の在宅医療では、紹介される四分の一の患者さんが進行がんと診断され、在宅緩和ケアを目的として主に仙台市内の総合病院から紹介されてきます。

患者さんの症状は様々で、医療用麻薬をはじめ、いくつかの鎮痛剤を組み合わせて投与しないと苦痛が十分に取り除けない方もいれば、全く鎮痛剤を必要としない方もいます。

そして、症状の程度は、病変の場所やその広がり、それ以外の基礎疾患や年齢、元来の性格や精神状態、信仰、生活環境、周囲との人間関係などいろいろな要因に左右されているように思います。

ある患者さんは、通常ならとても苦痛を感じてもおかしくない病状なのですが、ベッドで休まれている時の表情はとても穏やかで、診察では明るいトーンで話が弾みます。

この患者さんによれば、なんと、今まで悪夢を一度も見たことがなく、毎日見る夢の中に出てくるのは食べ物ばかりで、夢の中でその味を堪能するのだそうです。

この患者さんには、科学を超越した不思議な自己防衛力が働いているかのようです。

さらに特筆すべきは、この患者さんを介護するご主人も、患者さんにも増して明るい気さくな方で、夢の中に出てきた食べ物をすぐに用意して、患者さんに食べさせてあげるのです。

つまり、通常の夫婦愛を超越した家族力で、患者さんの夢はいつも正夢(ひと夢で二度おいしい)になるのです!

きっとクリスマスの日には、たくさんのクリスマスケーキを味わうに違いありません。

夢と現実の中の両方の力が、今日も患者さんを支えています。


2022年12月17日(土)

 第295話 エール
投稿:院長

在宅医療では、治療や介護の方針を決定する上で、主に介護を行う人と治療方針の決定に一番発言力のある人(キーパーソンと呼んでいます)が誰なのか、確認することがとても大切です。

中でも、男性が女性を介護する場合、患者さんのご主人や息子さんが主介護者でありキーパーソンでもあるということがほとんどで、特に、夫による妻の介護は、妻への愛情に満ち溢れていることが多く、とても温かな雰囲気の中で診療が行われます。

ある男性は、毎日栄養たっぷりな食事を調理し妻に食べさせ続けていたところ、どんどん妻の体重が増え、いつの間にか自分の体重を上回るようになり、移動のため体を持ち上げることが一苦労になってしまいました。

また、別な男性は、食事の介助はもちろん、髪や皮膚のケア、着衣にも気を配り、診察に行くといつもきれいな“自慢の妻”と一緒に迎えてくださいます(私が、“若林区の松坂慶子”と呼んでいる方です)

事実、日本人の高齢者を対象とした研究では、女性の場合、夫に介護を受けると最も長生きするという結果が出ており、今まで自分の人生に寄り添ってくれた妻に感謝し、献身的な介護を積み重ねていくことが大切なのだと教えてくれます。

介護する男性にはそれぞれの介護方法があり、それが多少スタンダードな方法から外れていたとしても、日常生活に支障がなければ、できるだけそれを尊重するようにしています。

しかし、そのような慈愛に満ちた男性は、自分の健康には無頓着ということが少なくありません。

長生きをする妻を支えるために、介護する夫も健康でいる必要があります。介護を頑張っている男性に対して、自分自身の健康も大切にして、ぜひ元気で長生きしてほしいと心からエールを送りたいと思います。


2022年12月8日(木)

 第294話 余命宣告
投稿:院長

在宅医療を受けるがん患者さんの中には、紹介元の医師から余命宣告を受けている方も少なくありません。

Iさんもそのうちの一人で、初めての診察では、残された時間のことが頭から離れず、精神不安で元気がありませんでした。

「病院の先生からあと半年くらいと言われているのですが、本当にそうでしょうか?」

私は、「医者の私が言うのも変なんですが、医者の余命宣告って外れることも多いんですよ。あと数か月と言われて何年も生きた方をたくさん知っています。いつまでも思い悩んでも何一ついいことはありませんので、今を楽しく過ごしませんか?」「生き生きと生活して皆を驚かせてやりましょう!」と伝えたところ、患者さんはそれ以降、別人のように、今を楽しめるにようになりました。

医師による余命宣告は、それぞれの医師の経験や、いくつかの予後予測スコアを参考にして行われていますが、それが数か月単位、年単位の場合は、患者さんに対して短めに伝えられることが多いと思います。

それは、楽観的な予測を伝えて、実際に亡くなるまでの期間がそれよりも大幅に短くなってしまうと、遺族が納得しない場合もあるからです。

さらに、伝える側には、患者さんの心理状態に気を配り、貴重な時間を大切に過ごしてほしいといった配慮が求められますが、自分の余命を他人事のように事務的な雰囲気で伝えられて傷つく患者さんも少なくありません。

未来のことなんて超能力者でない限り、誰も正確に言い当てることなんてできません。

不確かな未来のことを思い悩むよりも、今の自分に何ができるのか、今、どんなことを楽しめるのか、今をポジティブな気持ちで過ごしたいものです。

人として生まれた以上、健康であろうとなかろうと誰もが限りある命。

その限られた時間を大切にするのは皆同じ。

医者の予測なんて大いに外れさせてやりましょう!


2022年11月28日(月)

 第293話 座右の銘
投稿:院長

やまと在宅診療所では、職員一人一人にインタビューをして、それぞれの座右の銘を発表する企画があるのですが、先日、私の出番が回ってきて発表することになりました。

今まで座右の銘など考えたこともなかったので、どんな言葉を選ぶべきなのかしばらく思案することになりました。

まず、他の職員がどんな言葉を選んでいるのか確認してみると、旧連合艦隊司令長官の山本五十六元帥(旧制長岡中学出身で、私の大先輩でもあるのです)の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」の言葉を選んでいる人が複数いたので、とても誇らしい気分になりました。

山本元帥の残した言葉は、リーダーが他人を動かさなくてはならない自分が模範となり、その意義について語り、相手に敬意を払わなければ人は動いてくれないという意味が込められています。

一方、自分が何かに取り組み始めた時、何が自分の行動の原動力になるのか考えたところ、直感的に思い浮かんだのが「初心と情熱」です。

人の行動の結果というのは、良い時もあればそうでない時もあります。順調な時ほど奢らず、そうでない時は常に初心(原点)に立ち返り、やりがいを感じて始めたことに対して情熱をもって取り組むことが大切なのではないかと思います。

ところが、情熱の炎というのは、勢いが強ければ強いほど良いというのではなく、がむしゃらな情熱は、いずれエネルギー切れを起こし、「風前の灯火」になってしまうかもしれません。

たいまつの炎のように、自分の道標なるような明るさで自分を照らし続けたいと思っています。


2022年11月22日(火)

 第292話 至福の時
投稿:院長

先日、初めて患者さんの診察でご自宅を伺った時のことです。

診療中に患者さんの息子さんの話題になりました。

その息子さんは、仕事に出かけており不在だったのですが、その仕事というのはマッサージ師。

ご家族の話では、息子さんは帰宅後、毎晩23時まで患者さんの部屋で患者さんにマッサージを施しながら、患者さんと話し込むのが日課なのだそうです。

しかも、その話というのは、何気ない日常の出来事から政治情勢まで、様々な話題に及ぶのです

患者さんは、とてもしっかりした方で、私に「とても優しい息子です。毎日話をするのが楽しみなんですと嬉しそうな表情で話をしてくれました。

きっとその日の夜は、どんな医者がやってきたのか話題になったに違いありません。

テレビやインターネットが発達し、学校や職場から帰宅した後は、テレビでバラエティ番組を見たり、スマホばかりを見て過ごす人がとても多いと思います。

そんな中、今日の出来事や社会に起きた出来事を、家族同士で楽しく語り合ったり、時には意見や感想を出しあって議論したりすることは、私の理想とする家族の形なのです。

しかも、息子さんからマッサージを受けながら話をするなんて、大好きな母にマッサージをしながら話をするなんて、患者さんと息子さん双方にとって至福の時に違いありません。

自分の培ったスキルを、自分信頼している人、自分が尊敬している人、自分が大切にしている人に還元できるなんて、とても素晴らしいことだと思います

その日の夜、新潟の実家に電話をして、いつもより少しだけ母と長話をすることにしたのでした。


2022年11月8日(火)

 第291話 電話の相手とは?
投稿:院長

高齢になると、足腰の衰えから活動範囲が徐々に狭くなったり、親しい友人が亡くなったりで、家族以外の人と話をする機会が少なくなり、寂しい思いをしながら過ごす方が多くなってきます。

さらに、コロナ感染症の流行が加わり、一日中、自宅にこもったまま過ごす方も少なくありません。

数年前、新潟の実家に住む母にスマートフォンタイプの携帯電話(高齢者向けのらくらくスマートフォン)をプレゼントしたのですが、画面のタッチやスライド操作に手間取り、連日私から電話をして猛練習?したところ、徐々に操作ができるようになり、今では親戚や友人との連絡に使っているそうです。

現在、特に若い世代のスマートフォンの使いすぎによる弊害が指摘されていますが、高齢者の場合、不特定多数の人と交わったり、一日中画面を眺めているような使い方をすることは非常に少なく、適切にスマートフォンを使用することは、友人、家族、親戚とつながっているという安心感や、脳の活性化につながるなど、利益の方がはるかに大きいように思えます。

ある100歳を越えた患者さんは、誕生日のお祝いにお孫さんからスマートフォンタイプの携帯電話を贈られたそうです。それ以降、その操作に四苦八苦されながら、練習を繰り返した結果、ついに、友人と携帯電話を使って会話ができるようになったそうです。

しかも、よく話を聞くと、この友人も100歳を越えているというのでびっくり。しかも、この友人は、写真撮影やラインも楽しまれているというから2度びっくり。

これからは、コロナ感染症ではなく、高齢者の「スマ友」の輪がどんどん広がっていくことを願って止みません。


2022年10月27日(木)

 第290話 蕎麦の味わい
投稿:院長

Nさんは、地元では有名な蕎麦屋の店主をされていましたが、総合病院で進行性の病気と診断され、在宅診療を受けることになりました。

店の2階にある自宅で療養している時も、店のことが頭から離れず、お客さんがきて繁盛しているかモニターで確認する毎日でした。

しかし、Nさんの心配は無用で、Nさんのそば職人としての味を、奥さんや従業員が立派に受け継いでおり、店は常連のお客さんが途絶えることはありませんでした。

Nさんは、「自分の最後の望みは、この家で最期まで過ごすことで他に思い残すことはない」「逝くときは店の営業に差し支えないよう営業時間外に逝きたい」と希望されました。

身体が不自由になっても、しんどいことがあっても、常にユーモアを忘れず、お客さんを大切にしてきた通り、他人に対する思いやりや感謝を欠かしませんでした。

食事が満足に取れなくなっても、自家製の蕎麦湯を味わい、最後となった入浴も気持ちよく入れましたと嬉しそうでした。

そして、ご家族が少し目を離した隙に、Nさんは静かに息を引き取っていました。それは、まさにNさんが望む営業時間外でした。

Nさんが残した蕎麦の味は、これからも蕎麦を味わった人の心の中で生き続けていくでしょう。

そして、「今度、蕎麦を食べに来てください」とNさんと交わした約束を果たすべく、私もそのうちの一人になるつもりでいます。


2022年10月19日(水)

 第289話 くだもの
投稿:院長

在宅医療では、様々な医療器具を使いますが、最も多いものがカテーテルやチューブと言われる管です。

例えば、高カロリーの点滴を必要とする場合は中心静脈カテーテルが、排尿機能が低下している場合は膀胱カテーテルが、食事摂取が困難な場合は経鼻栄養チューブと言われる管が患者さんに留置されることになります。

これらのカテーテルやチューブは、本来、患者さんの苦痛を取り除いたり、生命活動を維持したりすることを目的に使われますが、私の経験上、病院では、膀胱カテーテルを入れておけば、正確に尿量を測定でき、オムツ交換などの介護の手間が省けるなど、使用する側の都合でカテーテルが留置されることがたびたびありました。そして、抜去できるチャンスを失ったまま長時間が過ぎてしまうのです。

しかし、これらカテーテルやチューブの最大の弱点は、閉塞、感染、自己抜去の危険性が常にあるということで、時にその合併症で重症化することさえあります。また、カテーテルを長期間留置することで患者さんに違和感や苦痛を与えることもあるでしょう。

診療所では、挿入されたカテーテルやチューブは、必要がなくなればできるだけ抜去を試みるようにしていますが、特に膀胱カテーテルに関しては、その半分以上は抜去に成功しています。「必要のない管はなるべく挿入しない」、「留置した管でも抜去できないか常に検討する」という姿勢がとても大切です。

ところが先日、ある患者さんから、病状の進行による身体機能の低下からベット上の生活となり、「尿が出なくて腹が張って苦しい」という訴えがあり、往診することにしました。その場で超音波検査をすると大量の尿が膀胱にとどまっていることが確認され、止むなく膀胱カテーテルを挿入することにしました。カテーテルを挿入すると大量の尿が一気に流出してきました。

患者さんは「ああ〜楽になった。ありがとう!」とグータッチを求められたので、「楽になってよかったですね!」と返答し、お互いにグータッチを交わしました。

実は、膀胱カテーテルを挿入してこれだけ感謝されたのは初めてでした。

今回、膀胱カテーテルを入れることになりましたが、患者さんが元気を取り戻し、再び自分でトイレに立つことができるように支援していきたいと思います。

今、果物の美味しい季節になってきましたが、「管物の秋」にならないよう祈るばかりです。


2022年10月9日(日)

 第288話 追いかける
投稿:院長

訪問診療では、デイサービス中の診療は認められていないため、デイサービスの日程と重ならないように定期の診療予定を組みます。

万が一、患者さんがデイサービス中に体調が悪くなった場合、患者さんにデイサービス先から帰宅してもらって往診するか、病院に救急搬送する必要があるのです。

しかし、デイサービス先でも医療処置が可能なサービスがあります。

ある患者さんは、褥瘡が悪化し、自宅に訪問する訪問看護の回数を増やして処置をしていましたが、決められた曜日にデイサービスに通わないと、介護する家族の介護負担が増してしまいます。しかし、デイサービスでは十分は処置ができないため、褥瘡はなかなか良くなりませんでした。

そこでこの患者さんを担当している訪問看護ステーションが、デイサービス先に訪問して直接処置を施したり、処置方法をデイサービス先の看護師さんに指導してくれることになりました。

それ以降、褥瘡はみるみる改善していきました。しかも、デイサービス中には、家族が介護から開放されるので、まさに一石二鳥。

また、ある訪問看護ステーションでは、患者さんが娘さんの結婚式に出席するため、会場まで付き添いをしてくれることになりました。

これは、訪問看護ステーションの情熱の為せる技としか言いようがなく、私は「追っかけ看護」とか「一石二鳥看護」とか「ストーカー看護?」と呼んで敬意を表しています。

「患者のためなら、私たちは付いていくわ!」

そんな訪問看護がこの地域の医療を支えています。


2022年9月26日(月)

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