仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】


 第363話 年末びっくり大作戦
投稿:院長

Tさんは70歳代の女性です。


神経難病のため二人暮らしをしているご主人の献身的な介護を受けています。


今年、重症の感染症で入院したことをきっかけに体力が低下し、もともと小柄だった身体はさらに体重が減り、とうとう30kgを切ってしまいました。


そんな折、Tさんを担当するケアマネジャーさんの紹介で、訪問診療を受けることになりました。


初めてお会いしたTさんは、痩せて元気がなかったのですが、ご主人は明るくとても気さくな方で、Tさんが元気を取り戻すように、いろいろな食材を工夫しながら調理して懸命にTさんの食生活を支えていました。


その後、訪問するたびにTさんは元気を取り戻し、12月の最初の診察では頬がふっくらし、話しかけると穏やかで柔らかくて優しそうな微笑みを返して下さいました。


私は、「ご主人はTさんのこの表情に惚れてしまったんだろうな〜」と確信しました。


ご主人は、体重が増えてきたこと、介助すれば家の中を歩けるようになってきたこと、久しぶりに自然に便が出せたことなど、最近のTさんの様子をいつもの明るい表情で嬉しそうに話してくださいました。


そして「東京の娘が年末に帰ってきたら、元気になってびっくりすると思います!」


ご主人は娘さんの帰省がとても待ち遠しそうです。


Tさんとご主人の「年末びっくり大作戦」がどうか大成功となりますように!


2024年12月14日(土)

 第362話 ピアノの達人
投稿:院長

Tさんは、90歳代の女性です。

年齢や病気を重ねて次第に身体が不自由になる中で、Tさんの生きがいの一つがピアノを弾くことです。

Tさんのご両親とも音楽の先生という音楽一家で育ったTさんは、子供の頃からピアノに慣れ親しんでいたそうです。

ある日、診療チームがTさんのご自宅に訪問した時、Tさんは、私のリクエストに応えてピアノを演奏して下さいました。

昔に比べると思うように指を動かせなくなっていますが、それでも鍵盤に魂を込めているかのように、指を精一杯動かし一つ一つの音色を奏でていく様子はとても感動的です。

それでいて、Tさんの温もりが私たちを包み込み、幸せな時が部屋の中を流れているかのようでした。

そして、演奏の最後にお辞儀をする時の懐かしい「ジャーン、ジャーン、ジャーン」の音でその日の音楽会は終了となりました。

翌年の春、診療所にお菓子の詰め合わせが届きました。

いくつもの袋の中には、一人分の3種類のお菓子が丁寧に収められており、袋には「ありがとう」の文字が添えられていました。

それは、節目の誕生日を迎えたTさんが、周りの方々に感謝の気持ちを込めて贈ったものでした。

そして、大きなケーキを前に、ご家族の皆さんと一緒に微笑みを浮かべるTさんが写真に収められていました。

これからもTさんの人生が、平和、感謝、幸福の優しい音色で奏でられますように。

♪♪もしもピアノが弾けたなら、思いのすべてを歌にして、きみに伝えることだろう♪♪


2024年11月30日(土)

 第361話 干し柿の達人
投稿:院長

Oさんは、70歳代の女性。

一人暮らしをしていましたが、病気の進行で歩くことが不自由になってきました。

娘さんの自宅に転居するか、施設に入所するか、迷った末に選んだのは、訪問サービスを充実させて自宅で一人暮らしを続けることでした。

自宅という空間は、誰にも気兼ねすることなく、自由に過ごすことができます。

Oさんは優しくて気配りの人。

今まで、他の人に対し遠慮してばかりで、それでいて自分のことに対して無頓着なOさんが、これからは自分のための生きようと下した結論でした。

その後、Oさんの自宅に訪問すると、搬入されたばかり介護用ベットに気持ちよさそうにゆったりと横たわるOさんの表情はとても穏やかです。

Oさんは何か吹っ切れたように、自分だけの空間、自分だけの時間を満喫しているようです。

ある日の診察で、Oさんは私に話しかけてきました。

「先生は干し柿が好きだったでしょ。今朝、干し柿を作ったの」

ベランダを見てみると、夕日に照らされて映える丸々とした干し柿が吊るされていました。

そういえば、昨年、Oさんの干し柿を感激しながら食べたことを思い出しました。

不自由な身体を動かして、きっとつらい思いをして作ったであろうに、他人に対して配慮してばかりのOさんらしさはそのままです。

Oさんが全身全霊のエネルギーと心を込めて作った干し柿。

Oさんのまるやかで味わいのある干し柿を食べた私は、きっと「干し野」になってしまうに違いありません。


2024年11月22日(金)

 第360話 整理整頓の達人
投稿:院長

Hさんは85歳の男性です。

神経疾患の進行のため、歩行が不自由で通院が困難となり、訪問診療を受けることになりました。

Hさんは、ヘルパーや近くに住む娘さんの見守りを受けながら、なんと今でも独居生活を送っています。

Hさんの自宅に訪問するとまず気付くことは、室内が整理整頓されとても清潔なことです!

独居暮らしの男性の場合、室内に物が溢れて混乱していることが多いのですが(私の独身時代?)、Hさんは、体が不自由になった今でも他の人の支援を受けながら掃除を欠かしません。それは床だけでなく、机の上、ベッドの周辺、台所、玄関、衣類ラックに至るまで、ありとあらゆる場所に及んでいます。

Hさんは、もともと寿司職人で、今でも台所で包丁を器用に扱って調理したり、食器洗いを欠かしません。Hさんに手のひらを見せてもらうと、意識が指の先にまで行き届いているためか、まるで若い女性のようなきれいな肌をしています。

寿司職人として、常にお客さんに安全な料理を提供し続けてきた気持ちが手にも表れているのです。人におもてなしをするプロフェッショナルとしての心を持ち続けているのですね。

Hさんは、寿司職人を引退されていますが、今も自分の心を丁寧に握り続け、心の形を整えています。

Hさんが、手に汗を握ることのない穏やかな生活がどこまでも続くように支えていきたいと思います。



2024年11月11日(月)

 第359話 料理の達人
投稿:院長

Hさんは70歳台の男性。

数年前からの体調不良で、仙台市内の総合病院で治療を受けましたが、残念ながら効果が乏しく、在宅緩和ケアを受けるため当院に紹介されました。

当初は食欲がない状態でしたが、いくつかの治療薬が奏功し、徐々に苦痛が軽減し体調が安定してきました。

もともと手が器用なHさん。体調が安定してくると、以前のように自宅で得意の手料理を振るい始めました。

ある日、Hさん宅を訪問した時、夕食のために調理したというリゾット、餃子を見せていただきました。

私「おお〜!すごい」

素人の男性が作ったとは思えない見事な出来栄えに驚嘆することになりました。

Hさんと食事を共にする奥さんは、「とてもおいしいですよ。私は楽をさせてもらっています」とホクホク顔。

私(心の中のつぶやき)「こりゃ〜俺のカミさんよりも上手だわ・・・」

奥さんのこんな幸せそうな顔を見ると、Hさんのモチベーションが益々高まってくるのでしょうね。

Hさんの目標は、来春、友人とのゴルフすることです。

どうやら、今年のゴルフコンペで体調不良になり、最後までプレーできなかったのが心残りだったようです。

シニア世代のゴルファーの目標は、自分の年齢以下のスコアで18ホールを回ること(エイジシュートと言います)。Hさんはベストスコアは76の腕前。

来春のゴルフでは、料理と同様に「マスターズ(達人)」の仲間入りをしてほしいと願わずにはいられません。 


2024年10月31日(木)

 第358話 レクレーションんの達人
投稿:院長

Hさんは、脳卒中の後遺症で介護が必要になり、当院の訪問診療を受けている80代の女性です。

Hさんがどんな方なのか一言で表現すると、とにかく「明るい」です。

2年以上前から診察していますが、いつも笑いが絶えることなく、微笑んでいる姿しか想像できません。

その笑いの源は、デイサービス。

Hさんが通所しているデイサービスはレクレーションが豊富で、Hさんはそこでの生活をこよなく楽しんでいるのです。

Hさんの自宅の部屋には、デイサービスで撮影されたHさんの姿を写真で見ることができます。

どれもこれもHさんの笑顔で溢れており、見る人の心も温めてくれます。

誕生日祝いで贈られた色紙、豪華な首飾りに身を包んでカラオケで熱唱する姿・・・。

その中で私の一番のお気に入りは、数年前の冬に撮影されたという凧揚げの写真です。

風にも負けず、寒さにも負けずに車椅子に乗って懸命に糸を引くHさんの表情がとても楽しそうです。

8月に開催された夏祭りでは、なんとスイカ割りを楽しまれたそうです。

そして9月に開催された敬老会では、美空ひばりさんの「みだれ髪」を熱唱されました。

敬老会を振り返ったHさんの感想は・・・「敬老会は楽しかったです!」でした。

髪のみだれに 手をやれば〜♪

紅い大凧 風に舞う〜♪

楽し嬉しや 憩いの岬〜♪

切っても切れない 絆の糸が〜♪

胸にからんで 笑顔を絞る〜♪

 天国のご主人も、美空ひばりさんも、きっと微笑んでいることでしょう。


2024年10月21日(月)

 第357話 俳句の達人
投稿:院長

達人シリーズの第5回目もSさんです(笑・今までとは別人物です)。

Sさんは、90歳の女性で、身体の不調に悩まされながら、明るく前向きに一生懸命に過ごしていらっしゃいます。

Sさんの趣味は俳句です。

人生には自分の思い通りにいかないことがありますが、Sさんは俳句を詠むことで、自分の心と向き合い、自分の心をリセットし、穏やかな心を保ってきたのでしょう。

Sさんは、自分の句をご家族にパソコンで編集してもらい、句集にしてまとめています。

ある日、この句集を初めて拝見しました。

Sさんが、日々の心の情景を素直な気持ちになって詠んだ俳句は、見る人の心もほっこりとさせ温めてくれるのです。

今日は、この中から、私が気に入った一句を紹介したいと思います。

お亡くなりになったご主人が認知症になった時に詠んだ句です。

「恐妻を 天使に変えた 認知症」

Sさんの俳句は、自分にとって好ましくない出来事があっても、ポジティブな気持ちにさせてくれるユーモアがちりばめられています。

「葛藤を 笑顔に変える 俳句集(排苦集)」


2024年10月5日(土)

 第356話 手芸の達人4
投稿:院長

手芸の達人4回目は、70代の女性Sさんです。

病気のため身体に不自由がありますが、あるものを工作する名人です。

それは、手提げバック。

それもただの手提げバックではありません。

バックの生地には、なんと色鮮やかな大漁旗が使われており、これを見ているだけで楽しくなってきます。

Sさん自身は、体調に波があるので、常に自分の身体や精神状態に耳を傾けて、調子が悪いときには作業を中断し、休み休み製作しています。

Sさんは、ご家族の介助で外出することが大好きで、今年は気仙沼に日帰り旅行し、海鮮料理を楽しまれたそうです。

Sさんが、大漁旗が使われた手提げバックを持って気仙沼に「凱旋」している様子を想像するだけでワクワクしてしまいます。

そして、なんと製作した手提げバックをネット販売しています!

街で大漁旗の手提げバックを持って歩いている人を見かけたら、それはきっとSさんの作品に違いありません。

話は変わりますが、今月、第333話で紹介した宇宙戦艦ヤマト(戦艦大和との合体バージョン)のプラモデルが11か月の歳月を経てようやく完成し、先日、職員にお披露目しました。

この宇宙戦艦ヤマト、実は旗竿に日の丸とともに大漁旗が掲げられています。

Sさんの影響をモロに受けた私が、見る人が元気になるようにとの願いを込めて大漁旗を掲げることにしたのです(後日、このブログでも紹介しようと思っています)。

Sさんの手提げバックは、エネルギーと元気を運んでくれる不思議な力を持つバックなのです。


2024年9月27日(金)

 第355話 手芸の達人3
投稿:院長

今回の手芸の達人もSさん(353話、354話とは別な方)です(笑)。

Sさんは97歳の女性で、今はお嫁さんと暮らしています。

普段はベッドで休まれているのですが、体調が良い時には、茶の間の作業台で手芸作業が始まります。

一体何を作られているのでしょうか?

それは子供の手のひらサイズの笠地蔵です。

様々な色合いや模様の生地を組み合わせて作った笠地蔵は、とても上品で優美です。ゆっくりですが、裁縫道具を使いながら集中力を保ちながら一つ一つ丁寧に作業を進めていく様子はまさに職人。

自宅には完成したいくつもの笠地蔵が保管してありますが、身に着けている笠と袈裟は何一つ同じものはありません。それどころか、どれも柔和で穏やかな表情を浮かべているものの、よく見ると意思を持つ生命体のように少しずつ表情が違っているのです。

普段は物静かで多くは語らないSさんですが、Sさんの穏やかな心や豊かな創造力を笠地蔵が物語っているかのようです。

仏教では、お釈迦様が亡くなった後、地上の生命のあるすべてのものを救済するためにこの世に下るとされる弥勒菩薩(みろくぼさつ)が現れるまで、567000万年の時がかかるとされています。

お釈迦様がなくなったのは、今から約2500年前の西暦紀元前486年とされているので気の遠くなるような時間です。

実はお地蔵様とは、この弥勒菩薩が現れるまで、大きな慈悲の心で苦悩する人々を救ってくれる存在と信じられてきました。

先日の診療で、Sさんの作った笠地蔵をお裾分けしてもらって診療所や自宅に飾っています。

小さいけれど、その大きくて温かな慈悲の心で職員や家族を包み込んで救ってくださる存在として大切にしたいと思います。

私たちがSさんを見守っているのではなく、実は笠地蔵を通してSさんが私たちを見守ってくれているのかもしれませんね。


2024年9月17日(火)

 第354話 手芸の達人2
投稿:院長

今回は、96歳の女性Sさん(第353話と別な方です)を紹介します。

Sさんは、長年、仙台市外で生活されていましたが、高齢のため仙台市内の娘さんと同居されるようになりました。

高齢者は生活環境の変化に適応できない方が少なくないのですが、娘さんの献身的な援助で、今の環境にすっかり馴染んでいます。

と言いますか、Sさんは、生活空間を自分の生活スタイルに合わせて変えてしまったのです。

Sさんの日課は、紙を題材にした手芸です。

自宅にはSさん専用の作業台と椅子が置いてあり、その周りには、数々の折り紙、貼り絵、天井飾りなど、色鮮やかな作品がいっぱいに飾られています。その雰囲気はまさに手芸工房。

この場所で、生き生きと作品作りに励むSさんの姿が想像できるようです

また、玄関に通じる別の壁には、新聞のチラシを切り抜いて作った貼り絵が飾られています。

色とりどりのチラシを、テーマに合わせて組み合わせて貼り絵にしたカラフルな作品をみていると、まさに美術館。

さらに、たくさんの貼り絵に囲まれたスペースには、とってもかわいいひ孫さんの写真が飾られています。

癒し系女子Sさんは、かわいいひ孫さんに癒されていたのですね〜。

Sさんの自宅は、Sさんやご家族の織り成すオーラによって、今や安らぎの空間に作り変えられてしまったのでした。


2024年8月30日(金)

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