仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】
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 第300話 1枚の写真
投稿:院長

様々な理由で十分な経口摂取ができなくなり、人工栄養が可能な胃ろうを造設される患者さんがいます。

しかし、胃ろう造設された後でも、嚥下機能や食欲が回復し、再び口からの食事が可能になる患者さんは少なくありません。

Nさんも、そんな患者さんの一人です。

初めてNさんのご自宅を訪問した時、Nさんが大勢の方に囲まれて撮影された1枚の写真が目に入りました。

それは、震災で避難所生活を送っていた時のもので、避難所の仲間と一緒に炊き出しをした際に撮影されたものでした。箸を片手に持ち、エプロン姿でこやかな表情を浮かべているNさんの姿がとても印象的でした。

私は「元気になって、いつかこの写真に写っている姿に戻りましょう!」と声をかけました。

それから、みるみる食事量が増え、ついに胃ろうからの栄養が必要なくなったのでした。

そして、ある日の診療で自宅を訪問した時のことです。

部屋に入って私の目に写ったNさんのふっくらとした表情は、あの写真に写っている姿そのものでした。

私は「ついに写真と同じ表情になりましたね!」と声をかけると、介護されている娘さんが「体重が40kgを越えたんです。ところが・・・ね。」と何やら嬉しそうです。

その先の話にじっと耳を傾けてみると、先日、娘さんとついに口げんかしたとのことでした。

私は「食事だけでなく、けんかまで復活したんですね!」と喜びを伝えました。

相手のないけんかはできません。

懐かしい親子げんかの火花は、きっとNさん親子の心を温めてくれたに違いありません。


2023年1月28日(土)

 第299話 旅立ち
投稿:院長

今年に入って、独居の患者さんを立て続けに看取る機会がありました。

進行性の病気を持つ重症患者さんの場合、たった一人で自宅で生活するなんて不可能ではないかと考えられがちですが、けしてそうではありません。

この二人の患者さんに共通していることは、長年、病院で様々な専門治療を受けた結果、根本的な治療方法がなくなり、今まで治療のために失われた自分の時間を取り戻すかのように自宅で自由に生活することを望んでいたこと、自分の希望や意思を自分の言葉で明確に示すことができていたこと、苦痛が最小限に抑えられていたこと、訪問看護や訪問介護により見守り体制ができていたこと、訪問サービスに入る方々との信頼関係が良好だったこと、などが挙げられます。

二人とも、自分から体調不良を訴えるコールはなく、見守りに入った事業所の職員によって意識がなくなっているところを発見され、通報を受けた私達が往診することになりました。

患者さんの自宅に駆けつけてみると、自室にはテレビや暖房、パソコンの電源が入ったままになっており、机の上には飲みかけのコップ、読みかけていた本、自筆のメモが置かれており、つい先程までいつも通りに生活していた痕跡が残されていました。そして、患者さんは室内安らかな表情で亡くなられていました。

たった一人で寂しかっただろうと想像する方がいるかもしれませんが、この二人、残された貴重な時間を自分の思い通りに過ごすことを何よりも望まれており、その安らかな表情から、誰にも邪魔されず最期まで自分らしく生き抜いたことに満足して旅立ったに違いないと思いました。

大勢の中で賑やかに過ごしたいという人もいれば、静かな環境で一人で過ごしたいという人もいます。他の人の助けを借りて生きたいという人もいれば、出来るだけ人の助けを借りずに自立して生きたいという人もいます。

患者さんとの別れはとても残念なのですが、そんな患者さんの思いを汲み取って、少しは患者さんの役に立てたのではないか・・・そんな思いを抱きながら、心を込めて診断書を書きたいと思っています。


2023年1月18日(水)

 第298話 心の故郷
投稿:院長

明けましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

大晦日は、紅白歌合戦を視聴しました。最近の芸能界の話題に無知なため、名前も歌も知らない歌手やグループが増えて毎年戸惑ってしまうのですが、だからこそ、私が若い頃の懐かしい曲を聴くことが楽しみの一つになっています。

今回のそんな紅白歌合戦で特に心を動かされたのが、37年ぶりに特別出演した安全地帯です。

歌唱力は言うまでもなく、とにかく何もかもが圧巻で素晴らしかった。

ボーカルの玉置浩二さんは、若い頃はサングラスを掛けてもっとポーカーフェイスで歌っていたように記憶しているのですが、今はサングラスを外し、人の心を包むように情熱的に歌う姿が一段と円熟味を増していてびっくりしました。初老のおしゃれなおじさんが「I love you」を連呼する姿がとにかくカッコいいのです。

それは、玉置さんやグループが幾多の苦難を乗り越えてきたからこそ表現できる経験から醸し出されているように感じられました。

また、歌詞の言葉一つ一つが、災害、戦争、コロナ禍の中で、今にも分断されそうな人々の心に染み込んで、人の心を繋ぎ止めてくれるようなそんな温かい力を感じました。

そして、曲の終わりに、メンバーの4人が肩を抱き合って寄り添って演奏する姿が感動的でした。実は、12月17日に、長年ドラマーとしてバンドを支えたメンバー田中裕二さんが65歳の若さで急逝し、この曲が田中さんへの追悼の曲でもあったのです。それは、残された4人のメンバーの絆を確認し合っているかのようでした。

玉置さんは、安全地帯は自分にとって故郷(ふるさと)と表現しているそうです。

世界中のすべての人々が、自分の心の故郷(心の安全地帯)を見つけられるよう祈ってやみません。


2023年1月7日(土)

 第297話 サッカーと診療所
投稿:院長

サッカーのワールドカップでは、日本代表の活躍が連日報じられましたが、決勝に残ったアルゼンチンとフランスを見ていると、組織力だけではなく、状況を打開することができる個の力がないと勝ち上がれないと感じました。

特に優勝したアルゼンチンは、1986年のマラドーナのチームのように、得点能力に最も優れたメッシの才能をいかんなく生かすために、他の選手をどう組み合わせるか徹底的に考え抜かれたチームでした。

さらに、アルゼンチンにはメッシと長い間代表で戦ってきた仲間に、メッシを見て育ち、メッシに憧れてサッカーを続けてきた若い力が加わり、メッシを中心にチーム内の結束がとても強かったように思います。

つまり、逆に言えば、怪我や病気でメッシを欠いてしまうようなことがあれば、チームとして成り立たなくなってしまったかもしれません。

そして、メッシ自身は自分に求められた役割を理解し、母国の優勝のために全身全霊を捧げる姿がとても感動的でした。世界中のサッカー選手が目標とするほぼすべてのタイトルを獲得してきた彼が、もはや自分の名誉ではなく母国のために情熱を持って戦う・・・ワールドカップのトロフィーを高々と掲げる彼にそんな気持ちを感じることができました。

一方、診療所(病院)の組織はどうかというと、診療所の雰囲気を作るのはやはり良くも悪くも医師(院長)です。院長の志に賛同し、協力し合える仲間がチーム一丸となって地域に貢献することが大切です。そして院長は、自分に求められているものを理解し行動しなければなりません。

その点で、やまと在宅診療所あゆみ仙台に集ってくれた仲間は最高の仲間です。

しかし、心残りなのは、仕事納めとなった12月28日も業務が忙しく、職員一人ひとりときちんと言葉を交わすことができなかったことです。職員に対してこの場を借りて感謝を伝えたいと思います。

そして、やまと在宅診療所あゆみ仙台は、大切な患者さんやご家族、地域の各事業所の多くの方々に支えられてここまで来ることができました。この1年間、ありがとうございました。

来年は新しい医師も入職する予定です。サッカー日本代表がどんなチームになっていくのか重ね合わせながら、やまと在宅診療所あゆみ仙台がどんなチームに発展していくのか楽しみにしているところです。

皆様にとってよい年となりますように。


2022年12月30日(金)

 第296話 夢と現実の力
投稿:院長

当院の在宅医療では、紹介される四分の一の患者さんが進行がんと診断され、在宅緩和ケアを目的として主に仙台市内の総合病院から紹介されてきます。

患者さんの症状は様々で、医療用麻薬をはじめ、いくつかの鎮痛剤を組み合わせて投与しないと苦痛が十分に取り除けない方もいれば、全く鎮痛剤を必要としない方もいます。

そして、症状の程度は、病変の場所やその広がり、それ以外の基礎疾患や年齢、元来の性格や精神状態、信仰、生活環境、周囲との人間関係などいろいろな要因に左右されているように思います。

ある患者さんは、通常ならとても苦痛を感じてもおかしくない病状なのですが、ベッドで休まれている時の表情はとても穏やかで、診察では明るいトーンで話が弾みます。

この患者さんによれば、なんと、今まで悪夢を一度も見たことがなく、毎日見る夢の中に出てくるのは食べ物ばかりで、夢の中でその味を堪能するのだそうです。

この患者さんには、科学を超越した不思議な自己防衛力が働いているかのようです。

さらに特筆すべきは、この患者さんを介護するご主人も、患者さんにも増して明るい気さくな方で、夢の中に出てきた食べ物をすぐに用意して、患者さんに食べさせてあげるのです。

つまり、通常の夫婦愛を超越した家族力で、患者さんの夢はいつも正夢(ひと夢で二度おいしい)になるのです!

きっとクリスマスの日には、たくさんのクリスマスケーキを味わうに違いありません。

夢と現実の中の両方の力が、今日も患者さんを支えています。


2022年12月17日(土)

 第295話 エール
投稿:院長

在宅医療では、治療や介護の方針を決定する上で、主に介護を行う人と治療方針の決定に一番発言力のある人(キーパーソンと呼んでいます)が誰なのか、確認することがとても大切です。

中でも、男性が女性を介護する場合、患者さんのご主人や息子さんが主介護者でありキーパーソンでもあるということがほとんどで、特に、夫による妻の介護は、妻への愛情に満ち溢れていることが多く、とても温かな雰囲気の中で診療が行われます。

ある男性は、毎日栄養たっぷりな食事を調理し妻に食べさせ続けていたところ、どんどん妻の体重が増え、いつの間にか自分の体重を上回るようになり、移動のため体を持ち上げることが一苦労になってしまいました。

また、別な男性は、食事の介助はもちろん、髪や皮膚のケア、着衣にも気を配り、診察に行くといつもきれいな“自慢の妻”と一緒に迎えてくださいます(私が、“若林区の松坂慶子”と呼んでいる方です)

事実、日本人の高齢者を対象とした研究では、女性の場合、夫に介護を受けると最も長生きするという結果が出ており、今まで自分の人生に寄り添ってくれた妻に感謝し、献身的な介護を積み重ねていくことが大切なのだと教えてくれます。

介護する男性にはそれぞれの介護方法があり、それが多少スタンダードな方法から外れていたとしても、日常生活に支障がなければ、できるだけそれを尊重するようにしています。

しかし、そのような慈愛に満ちた男性は、自分の健康には無頓着ということが少なくありません。

長生きをする妻を支えるために、介護する夫も健康でいる必要があります。介護を頑張っている男性に対して、自分自身の健康も大切にして、ぜひ元気で長生きしてほしいと心からエールを送りたいと思います。


2022年12月8日(木)

 第294話 余命宣告
投稿:院長

在宅医療を受けるがん患者さんの中には、紹介元の医師から余命宣告を受けている方も少なくありません。

Iさんもそのうちの一人で、初めての診察では、残された時間のことが頭から離れず、精神不安で元気がありませんでした。

「病院の先生からあと半年くらいと言われているのですが、本当にそうでしょうか?」

私は、「医者の私が言うのも変なんですが、医者の余命宣告って外れることも多いんですよ。あと数か月と言われて何年も生きた方をたくさん知っています。いつまでも思い悩んでも何一ついいことはありませんので、今を楽しく過ごしませんか?」「生き生きと生活して皆を驚かせてやりましょう!」と伝えたところ、患者さんはそれ以降、別人のように、今を楽しめるにようになりました。

医師による余命宣告は、それぞれの医師の経験や、いくつかの予後予測スコアを参考にして行われていますが、それが数か月単位、年単位の場合は、患者さんに対して短めに伝えられることが多いと思います。

それは、楽観的な予測を伝えて、実際に亡くなるまでの期間がそれよりも大幅に短くなってしまうと、遺族が納得しない場合もあるからです。

さらに、伝える側には、患者さんの心理状態に気を配り、貴重な時間を大切に過ごしてほしいといった配慮が求められますが、自分の余命を他人事のように事務的な雰囲気で伝えられて傷つく患者さんも少なくありません。

未来のことなんて超能力者でない限り、誰も正確に言い当てることなんてできません。

不確かな未来のことを思い悩むよりも、今の自分に何ができるのか、今、どんなことを楽しめるのか、今をポジティブな気持ちで過ごしたいものです。

人として生まれた以上、健康であろうとなかろうと誰もが限りある命。

その限られた時間を大切にするのは皆同じ。

医者の予測なんて大いに外れさせてやりましょう!


2022年11月28日(月)

 第293話 座右の銘
投稿:院長

やまと在宅診療所では、職員一人一人にインタビューをして、それぞれの座右の銘を発表する企画があるのですが、先日、私の出番が回ってきて発表することになりました。

今まで座右の銘など考えたこともなかったので、どんな言葉を選ぶべきなのかしばらく思案することになりました。

まず、他の職員がどんな言葉を選んでいるのか確認してみると、旧連合艦隊司令長官の山本五十六元帥(旧制長岡中学出身で、私の大先輩でもあるのです)の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」の言葉を選んでいる人が複数いたので、とても誇らしい気分になりました。

山本元帥の残した言葉は、リーダーが他人を動かさなくてはならない自分が模範となり、その意義について語り、相手に敬意を払わなければ人は動いてくれないという意味が込められています。

一方、自分が何かに取り組み始めた時、何が自分の行動の原動力になるのか考えたところ、直感的に思い浮かんだのが「初心と情熱」です。

人の行動の結果というのは、良い時もあればそうでない時もあります。順調な時ほど奢らず、そうでない時は常に初心(原点)に立ち返り、やりがいを感じて始めたことに対して情熱をもって取り組むことが大切なのではないかと思います。

ところが、情熱の炎というのは、勢いが強ければ強いほど良いというのではなく、がむしゃらな情熱は、いずれエネルギー切れを起こし、「風前の灯火」になってしまうかもしれません。

たいまつの炎のように、自分の道標なるような明るさで自分を照らし続けたいと思っています。


2022年11月22日(火)

 第292話 至福の時
投稿:院長

先日、初めて患者さんの診察でご自宅を伺った時のことです。

診療中に患者さんの息子さんの話題になりました。

その息子さんは、仕事に出かけており不在だったのですが、その仕事というのはマッサージ師。

ご家族の話では、息子さんは帰宅後、毎晩23時まで患者さんの部屋で患者さんにマッサージを施しながら、患者さんと話し込むのが日課なのだそうです。

しかも、その話というのは、何気ない日常の出来事から政治情勢まで、様々な話題に及ぶのです

患者さんは、とてもしっかりした方で、私に「とても優しい息子です。毎日話をするのが楽しみなんですと嬉しそうな表情で話をしてくれました。

きっとその日の夜は、どんな医者がやってきたのか話題になったに違いありません。

テレビやインターネットが発達し、学校や職場から帰宅した後は、テレビでバラエティ番組を見たり、スマホばかりを見て過ごす人がとても多いと思います。

そんな中、今日の出来事や社会に起きた出来事を、家族同士で楽しく語り合ったり、時には意見や感想を出しあって議論したりすることは、私の理想とする家族の形なのです。

しかも、息子さんからマッサージを受けながら話をするなんて、大好きな母にマッサージをしながら話をするなんて、患者さんと息子さん双方にとって至福の時に違いありません。

自分の培ったスキルを、自分信頼している人、自分が尊敬している人、自分が大切にしている人に還元できるなんて、とても素晴らしいことだと思います

その日の夜、新潟の実家に電話をして、いつもより少しだけ母と長話をすることにしたのでした。


2022年11月8日(火)

 第291話 電話の相手とは?
投稿:院長

高齢になると、足腰の衰えから活動範囲が徐々に狭くなったり、親しい友人が亡くなったりで、家族以外の人と話をする機会が少なくなり、寂しい思いをしながら過ごす方が多くなってきます。

さらに、コロナ感染症の流行が加わり、一日中、自宅にこもったまま過ごす方も少なくありません。

数年前、新潟の実家に住む母にスマートフォンタイプの携帯電話(高齢者向けのらくらくスマートフォン)をプレゼントしたのですが、画面のタッチやスライド操作に手間取り、連日私から電話をして猛練習?したところ、徐々に操作ができるようになり、今では親戚や友人との連絡に使っているそうです。

現在、特に若い世代のスマートフォンの使いすぎによる弊害が指摘されていますが、高齢者の場合、不特定多数の人と交わったり、一日中画面を眺めているような使い方をすることは非常に少なく、適切にスマートフォンを使用することは、友人、家族、親戚とつながっているという安心感や、脳の活性化につながるなど、利益の方がはるかに大きいように思えます。

ある100歳を越えた患者さんは、誕生日のお祝いにお孫さんからスマートフォンタイプの携帯電話を贈られたそうです。それ以降、その操作に四苦八苦されながら、練習を繰り返した結果、ついに、友人と携帯電話を使って会話ができるようになったそうです。

しかも、よく話を聞くと、この友人も100歳を越えているというのでびっくり。しかも、この友人は、写真撮影やラインも楽しまれているというから2度びっくり。

これからは、コロナ感染症ではなく、高齢者の「スマ友」の輪がどんどん広がっていくことを願って止みません。


2022年10月27日(木)

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