仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】
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 第307話 ロジックと情熱
投稿:院長

訪問診療では、度々、患者さんの出血に遭遇します。

ある日、独居の男性患者さんが下血し、連絡を受け往診することになりました。

圧迫して止血できる場所なら私達でも対応できるのですが、消化管からの出血が止まらない場合、治療をするためには消化器専門医のいる病院に搬送するしかありません。

患者さんに病院で治療を受けるよう説得を試みたのですが、患者さんは絶対に病院には行かないという強い意志を示し、その日は説得を断念することになりました。

なかなか出血が治まらず、翌日、県外に住む親族の女性が心配して患者さんのもとに駆けつけ、患者さんの介護にあたることになりました。

この女性は、患者さんをまるで実の父親のように慕っており、患者さん宅に泊まり込み、献身的に介護する様子に心打たれることになりました。そして、患者さんに対する強い愛情が私にもひしひしと伝わってきました。

「どうか元気でいてほしい」

訪問診療では、極力患者さんの希望に沿って診療することが多いのですが、親族の女性のそんな想いを感じ取った私も、連日患者さんを説得することになりました。何より、病院で治療を受ければ十分に回復する見込みがあったのです。

「病院で治療を受けてまた元気になって戻ってきてくれませんか」

「どうか私達の願いを聞いてくれませんか」

そして3日目、貧血が進んだ患者さんをようやく説得することができ、救急車を手配し病院に救急搬送することになりました。

人を説得したり動かしたりする時、ロジック(論理や理屈)だけでなく、情熱や真心を相手に伝え、感情に訴えることが必要だと言われます。これは、国や自治体、会社、病院、診療所などあらゆる組織を運営したり、人と交渉したり、人を教育したりすることにも通じます。

この患者さんの場合、「貧血が進むと命にかかわるので病院で治療を受けましょう」というロジックだけでなく、「あなたのことを大切に想っている人のためにも治療を受けて元気になってほしい」という気持ちを伝えることが何より大切だったのです。

今回の事例を通して、人として自分のことを大切に想っていてくれる人の存在の大きさを改めて感じることができました。


2023年4月18日(火)

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