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 第305話 遺言
投稿:院長

がんの終末期で在宅緩和ケアを受けていた独居の男性Iさんが、先日、ご自宅でお亡くなりになりました。

Iさんは、訪問診療が始まった頃、「往診なんて頼んだ覚えがない」「ほっといてくれ」と訪問サービスを担当する私達や、看護や介護スタッフに対して拒否的な態度で厳しい言葉を投げかけました。

ところが、まるで家族のように親身になってケアしてくれる訪問看護やヘルパーの方々対して次第に心を開くようになり、徐々に病状が進む中、訪問診療を担当する私達にも感謝の言葉を伝えて下さるようになりました。

「どうもありがとう」

短い言葉ですが、Iさんの発する言葉には不思議な力あり、逆に私達が癒やされることになりました。

そして、看取りの瞬間、その場に立ち会った訪問看護師さんの目から涙があふれていました。

Iさんが亡くなって1週間ほど過ぎたある日、Iさんの息子さんが診療所を訪れて下さいました。

「父を自宅で看取ることができてよかったです。ありがとうございました」

Iさんは、別居している息子さんに対しても、昔から厳しい態度で接してきたようですが、亡くなる直前はかけがえのない父と子供の関係を再確認することができたようです。

そして、「父が、自分が亡くなったらお世話になった人たちに渡すように言われていたものです」と洋菓子の詰め合わせを手渡して下さいました。私は、Iさんの遺志が宿っている心のこもった品に感動しながら有り難く受け取ることにしました。

実はIさんとは余命のことについて一切話をしていなかったのですが、自分に残された時間が短いことを悟り、死後のことについて、息子さんに一切を託していたのでした。Iさんは、立派に成長した息子さんの姿をみて、安心してバトンタッチされたに違いありません。

Iさんの優しさや人としての尊厳は、息子さんにもしっかりと受け継がれています。そして、また次の世代にも受け継がれていくでしょう。

そして、最期の瞬間まで自分らしさを貫いたIさんの姿は、Iさんに関わった人たちの心で生き続けるでしょう。


2023年3月24日(金)

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