第300話 1枚の写真 |
投稿:院長 |
様々な理由で十分な経口摂取ができなくなり、人工栄養が可能な胃ろうを造設される患者さんがいます。 しかし、胃ろう造設された後でも、嚥下機能や食欲が回復し、再び口からの食事が可能になる患者さんは少なくありません。 Nさんも、そんな患者さんの一人です。 初めてNさんのご自宅を訪問した時、Nさんが大勢の方に囲まれて撮影された1枚の写真が目に入りました。 それは、震災で避難所生活を送っていた時のもので、避難所の仲間と一緒に炊き出しをした際に撮影されたものでした。箸を片手に持ち、エプロン姿でこやかな表情を浮かべているNさんの姿がとても印象的でした。 私は「元気になって、いつかこの写真に写っている姿に戻りましょう!」と声をかけました。 それから、みるみる食事量が増え、ついに胃ろうからの栄養が必要なくなったのでした。 そして、ある日の診療で自宅を訪問した時のことです。 部屋に入って私の目に写ったNさんのふっくらとした表情は、あの写真に写っている姿そのものでした。 私は「ついに写真と同じ表情になりましたね!」と声をかけると、介護されている娘さんが「体重が40kgを越えたんです。ところが・・・ね。」と何やら嬉しそうです。 その先の話にじっと耳を傾けてみると、先日、娘さんとついに口げんかしたとのことでした。 私は「食事だけでなく、けんかまで復活したんですね!」と喜びを伝えました。 相手のないけんかはできません。 懐かしい親子げんかの“火花”は、きっとNさん親子の心を温めてくれたに違いありません。 |
2023年1月28日(土) |
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