第299話 旅立ち |
投稿:院長 |
今年に入って、独居の患者さんを立て続けに看取る機会がありました。 進行性の病気を持つ重症患者さんの場合、たった一人で自宅で生活するなんて不可能ではないかと考えられがちですが、けしてそうではありません。 この二人の患者さんに共通していることは、長年、病院で様々な専門治療を受けた結果、根本的な治療方法がなくなり、今まで治療のために失われた自分の時間を取り戻すかのように自宅で自由に生活することを望んでいたこと、自分の希望や意思を自分の言葉で明確に示すことができていたこと、苦痛が最小限に抑えられていたこと、訪問看護や訪問介護により見守り体制ができていたこと、訪問サービスに入る方々との信頼関係が良好だったこと、などが挙げられます。 二人とも、自分から体調不良を訴えるコールはなく、見守りに入った事業所の職員によって意識がなくなっているところを発見され、通報を受けた私達が往診することになりました。 患者さんの自宅に駆けつけてみると、自室にはテレビや暖房、パソコンの電源が入ったままになっており、机の上には飲みかけのコップ、読みかけていた本、自筆のメモが置かれており、つい先程までいつも通りに生活していた痕跡が残されていました。そして、患者さんは室内で安らかな表情で亡くなられていました。 たった一人で寂しかっただろうと想像する方がいるかもしれませんが、この二人は、残された貴重な時間を自分の思い通りに過ごすことを何よりも望まれており、その安らかな表情から、誰にも邪魔されず最期まで自分らしく生き抜いたことに満足して旅立ったに違いないと思いました。 大勢の中で賑やかに過ごしたいという人もいれば、静かな環境で一人で過ごしたいという人もいます。他の人の助けを借りて生きたいという人もいれば、出来るだけ人の助けを借りずに自立して生きたいという人もいます。 患者さんとの別れはとても残念なのですが、そんな患者さんの思いを汲み取って、少しは患者さんの役に立てたのではないか・・・そんな思いを抱きながら、心を込めて診断書を書きたいと思っています。 |
2023年1月18日(水) |
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