第289話 くだもの |
投稿:院長 |
在宅医療では、様々な医療器具を使いますが、最も多いものがカテーテルやチューブと言われる管です。 例えば、高カロリーの点滴を必要とする場合は中心静脈カテーテルが、排尿機能が低下している場合は膀胱カテーテルが、食事摂取が困難な場合は経鼻栄養チューブと言われる管が患者さんに留置されることになります。 これらのカテーテルやチューブは、本来、患者さんの苦痛を取り除いたり、生命活動を維持したりすることを目的に使われますが、私の経験上、病院では、膀胱カテーテルを入れておけば、正確に尿量を測定でき、オムツ交換などの介護の手間が省けるなど、使用する側の都合でカテーテルが留置されることがたびたびありました。そして、抜去できるチャンスを失ったまま長時間が過ぎてしまうのです。 しかし、これらカテーテルやチューブの最大の弱点は、閉塞、感染、自己抜去の危険性が常にあるということで、時にその合併症で重症化することさえあります。また、カテーテルを長期間留置することで患者さんに違和感や苦痛を与えることもあるでしょう。 診療所では、挿入されたカテーテルやチューブは、必要がなくなればできるだけ抜去を試みるようにしていますが、特に膀胱カテーテルに関しては、その半分以上は抜去に成功しています。「必要のない管はなるべく挿入しない」、「留置した管でも抜去できないか常に検討する」という姿勢がとても大切です。 ところが先日、ある患者さんから、病状の進行による身体機能の低下からベット上の生活となり、「尿が出なくて腹が張って苦しい」という訴えがあり、往診することにしました。その場で超音波検査をすると大量の尿が膀胱にとどまっていることが確認され、止むなく膀胱カテーテルを挿入することにしました。カテーテルを挿入すると大量の尿が一気に流出してきました。 患者さんは「ああ〜楽になった。ありがとう!」とグータッチを求められたので、「楽になってよかったですね!」と返答し、お互いにグータッチを交わしました。 実は、膀胱カテーテルを挿入してこれだけ感謝されたのは初めてでした。 今回、膀胱カテーテルを入れることになりましたが、患者さんが元気を取り戻し、再び自分でトイレに立つことができるように支援していきたいと思います。 今、果物の美味しい季節になってきましたが、「管物の秋」にならないよう祈るばかりです。 |
2022年10月9日(日) |
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