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 第286話 嵐の後の静けさ
投稿:院長

患者さんの中には、気仙沼出身で、元漁師のOさんがいます。

昔は遠洋漁業に携わり、漁船に乗って何ヶ月も太平洋上を航海しながら漁をしたそうです。

漁師さんというと、個人的には「逞しくて少々気が強い性格」の患者さんが多かったという印象を持っていましたが、Oさんはとても穏やかな方です。

傍らの娘さんが懐かしそうに、父の思い出を語り始めました。

「若い頃は、相当お酒を飲んで、親兄弟に迷惑をかけましたが、今はとても穏やかになりました。漁師をしていた頃、船が座礁して何ヶ月も漂流した時も、震災の時もこうやって生きていてくれました」

Oさんがそれに答えるかのように話してくれました。

「赤道直下で船が座礁して、漂流している時にサメに足をかじられたこともあるんですよ」

私は驚いて「えっ、サメですか!?」と聞き返し、今も右足に残るケガの跡を見せてもらいました。

今までたくさんのケガを診てきましたが、飼い犬に噛まれたとか、クマに襲われたというのは経験がありますが、サメにかじられたというのは初めてです。そしてその跡は、Oさんが逞しく生き抜いてきた証でもあるのです。

困難を生き抜いてきたOさんは今、とても静かで落ち着いた生活を送っています。

私は「よくご無事でいらっしゃいました。こうやってOさんとお会いできるのは奇跡なのですね。せっかくここまで生き抜いてこられたんですから、来年の米寿も元気で迎えましょう!」とお伝えしました。

Oさんは、これからも逞しく、そして穏やかに過ごされていくに違いないと確信したのでした。


2022年9月8日(木)

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