仙台市若林区の診療所  やまと在宅診療所あゆみ仙台 【訪問診療・往診・予防接種】
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 第285話 通帳に込められた想い
投稿:院長

訪問診療では、診療費の支払いは、銀行口座の引き落としをさせてもらっていますが、銀行の口座は患者さん自身がまだ管理をされている方もいれば、ご家族にすべての金銭管理を任せている方もいて、患者さんごとに様々です。

あるがん患者Aさんは、病気が進行し、家族の介護が必要になっても、自分の通帳はベッドの枕元に置いて、仲の良い家族にさえも、中身を見せるどころか、触らせたりすることさえなかったそうです。

現役で仕事をしている時から、口座への入金や支出を自分自身で管理することで、一家の大黒柱としての役割を果たしてきたという自負があるのでしょう。この患者さんは、それ以上に、そこに自分の生きがいを見出し、自分の手の届くところに通帳を置いて「自分はまだこの家の主として生きていくんだ」、という強い気持ちを発していたように思えます。

ご家族も、優しくも頑固な患者さんへの配慮から、病状が進行しても、通帳の引き渡したりを求めたり、確認さえしようとせず、そのままにしておいたそうです。

また、別な進行性の病気を持つ患者Bさんも、自ら銀行口座の通帳を管理し、家族からの一切の介護を拒否し、家の中では「自分のことは自分で行う」という責任感の強い方でした。

この患者さんにとって通帳は、自分の人生の総決算を表したものだったでしょう。

診療費の引き落としに対しても、疑問点があればスタッフに質問し、時には診察よりも説明に時間を要することもありました。

そして、病気が進行し、いよいよ自分でトイレに立てなくなった時、患者さんが選んだ道は、住み慣れた自宅での生活ではなく、病院への入院でした。

そこには「自分で自分の責任が取れなくなったら、家族にその負担を負わせない」という強い責任感があったように思えます。

銀行口座の引き落としの申請書の控えには、それぞれの患者さん直筆のサインと捺印が残されています。

不自由な体調の中で、一生懸命に書いたであろうその筆跡に、それぞれの患者さんの想いが込められているように感じられました。


2022年8月22日(月)

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