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 第278話 嬉しい退院と嬉しくない退院
投稿:院長

現在、仙台市内の病院からいろんな患者さんを紹介されますが、入院している終末期の患者さんで、本人が残り少ない時間を自宅で生活したい、ご家族が患者さんと一緒に生活したい、最期は自宅で看取りたいという意志が強く、退院したら一刻も早く訪問診療に入ってほしいという依頼が少なくありません。

先日、初めて診察した患者さんは、午前中に病院を退院され当日の夜に、ご家族や大勢の親族に囲まれて自宅でお亡くなりになり、あと1日退院が伸びていたら、本人やご家族の希望が叶えられなかったと思うと、その意志に沿うことができて本当に良かったと感じました。

私が病院勤務していた頃は、なかなか退院したがらないお年寄りの患者さんが必ずいて(笑)、どうしたら退院してもらえるか頭を悩ますことが多く、訪問診療に立場を変えた今の状況とは全く異なっていました。

退院したくない患者さんは、退院の話をするといろいろ症状を訴え始めたり大安にしか退院しない(仏滅に退院するなんて絶対にありえない)と主張したり、なかなかこちらが意図したように退院の段取りを進めることができず、手こずることも少なくありませんでした。

ある患者さんは、いびきのうるさい患者さんがたまたま同室に入院した途端に、居心地が悪くなったのか、急に退院の話が進むようになったり、私が地方の古い病院に派遣されていた頃、真夏に病室のクーラーが故障して、看護師さんが「この病院に入院していると熱中症になるから早く退院した方がいいですよ!」と早期の退院を促したこともあったり、今となっては笑い話のような懐かしい思い出です。

また、警察から詐欺の容疑で逮捕状が出ている患者さんが糖尿病で入院した時は、血糖値が安定せずにとても苦労したのですが、退院すると警察に連行されてしまうので、血糖値が安定しないように、実は医療スタッフに隠れて飲食を繰り返していたことが判明したこともありました。このときは、結局、強制退院の手続きをとったため後になって、個人的に恨みを買って報復されたりしないか、しばらく注意して生活しました。

また、やくざの幹部と思しき人が入院した時は、病室に回診すると、個室の入り口にいかつい顔をした子分が睨みをきかせて私の診察を監視しており、親分のために?室内環境にいろいろと細かい注文をつけてきたときはこの先一体どうなる心配したのですが無事に退院が決まった時はとても安心したことを覚えています。

本来、退院はとても喜ばしいことなのに、病院勤務医時代は、退院を望んでいない患者さんを相手にすると、退院できる喜びを一緒になって分かち合えないもどかしさを感じたものですが、訪問診療に関わるようになり、退院して自宅に帰ってきた喜びを一緒に分かち合うことができるようになり(今のところ、また一刻も早く病院に戻りたいという患者さんに出会ったことはありません)、病院勤務医時代に感じていたもどかしさから開放され、やりがいを感じているところです。


2022年6月19日(日)

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