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 第270話 潜在能力
投稿:院長

当院が担当している患者さんで、腸に問題があり、長い間、満足な食事ができず、点滴による栄養補給を受けていた方がいるのですが、ある総合病院に入院し手術を受けた結果、待望の食事ができるようになり、ついに点滴から開放され、皆で喜びを分かち合いました。

この患者さんにとって、手術は一定の危険性を伴うものですが、再び大好きな食事が出来るようになるという利益を優先させたことが良い結果につながったのです。患者さんの希望や生活の質を尊重し、手術をするという決断をしたドクターに敬意を払いたいと思います。

特定の医療を受けるかどうかは、利益と危険性のバランスの上に成り立っており、治療を受けることで得られる利益がその危険性を上回ると判断されれば、治療に踏み切ることになりますが、その一方で危険性が利益を上回ると判断されれば、治療を差し控えることになります。

在宅医療の対象となる患者さんは、人生の最終段階にある方が多く、できるだけ危険を避けて平穏に生活をすることが優先されることが多いのですが、その例外として、自分の生きがいになっているものを得るためにあえて危険を冒すという判断をすることがあります。

その数少ない例外として、「口から大好きなものを食べる」ということなのです。

例えば、病院で検査を受けた結果、嚥下機能が低下し満足な食事摂取が困難と判断された患者さんが、自宅では誤嚥性肺炎の危険を冒しても食べることを優先した結果、再び食事ができるようになった方が少なくありません。そこには、患者さんの希望だけでなく、大好きな食事を味わってほしいという家族の願いがその原動力になっています。

その一方で、ある患者さんは、食べることが生きがいで、再び食べられるような処置を希望していたのですが、ある病院で診察を受けた結果、断層写真の結果を根拠に消化管が機能していないと判断され、残念ながら処置を受けることができませんでした。

近年、病院での画像検査が発達し、正確な診断ができるようになったのですが、その一方で、特に整形外科領域では、画像検査の結果と症状の程度に全く関連性が見られないという研究結果も少なくありません。

例えば、画像検査の結果がほぼ同じであっても、ひどい症状に悩まされている方もいれば、全く症状がない人もいるのです。

画像検査は、必ずしもその患者さんの潜在能力や症状をすべて反映しているわけではありません。

在宅医療では、使用できる医療機器に限りがあるのですが、だからこそ、検査に頼らない判断を求められることが少なくありません。

私自身、患者さんの表情や仕草から、「この患者さんは、まだできるのではないか、まだやれるのではないか」という感覚を大切にしていきたいと思っています。

医療者が五感をフル稼働させて、患者さんの潜在能力を見出し、その潜在能力を引き出して喜びを分かち合うことが在宅医療の醍醐味の一つではないかと考えています。


2022年4月9日(土)

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