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 第248話 鬼は外
投稿:院長

日本語には、自分のことを表す一人称代名詞がたくさんあり、私、僕、俺、わし、あたし、うち、わい、おいら、当方、吾輩・・・など数多くが思い浮かびます。


一方、英語やドイツ語の一人称代名詞は、I、Ichの1語だけです。


どうしてなのでしょうか?


その人の生い立ち、地域による違いはあるのですが、論説「日本語 表と裏」(森本哲郎作)によれば、その理由として、日本人というのは、人を一人の実体としてではなく、社会の中の一人として捉え、世間という人間関係の中で常に自分の立場を意識し、話す相手のよって一人称を使い分けてきたからではないかとしています。


日本のことわざで「渡る世間に鬼はなし」と言いますが、世の中、鬼のように無情な人ばかりでなく、親切で情に厚い人が多く、自分はそんな周りの人に支えられているという日本人の思いを表しているのです。


ちなみに、「渡る世間は鬼ばかり」というドラマがありましたが、「渡る世間に鬼はなし」のことわざをもじって、「相手のことを鬼と思うようになったら、自分もすでに鬼になっているのだ」という戒めの意味が込められているようです。


個人的に、多数の一人称の中で特に目を引くのが、日本には、某(それがし)、己(おのれ)、拙者、不肖、愚生、小生、非才、不才など、自分をへりくだった言い方が昔から存在していることです。


これは、人間関係に気を配り、相手に対し敬意を持って接するという姿勢を強く反映したもので、日本人の美徳の一つと言って良いでしょう。


しかし、逆に、日本人は和を尊重しすぎて、自分の意志をはっきりと伝えることが苦手で、周りのために私情を捨てて自分を犠牲にしてしまうことがよくあります。


例えば、在宅医療でよく経験するのが、介護で迷惑をかけたくないという気持ちが強すぎて、家族にさえ最期まで自宅で暮らしたいという自分の本音が伝えられないケースです。


そんな時、患者さんの本当の気持ちを汲み取って、患者さんから自分の思いを家族に伝えてみるように手助けしています。


自分らしく過ごせる場所を選ぶのに、もう自分をへりくだったりする必要はありません。ちょっと自己中心的になって、「俺はここで過ごしたいんだ!」とはっきり伝えてみましょう。


「渡る家族に鬼はなし」


思いやり溢れる家族はきっと手を差し伸べてくれることでしょう。 


2021年10月19日(火)

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