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 第412話 笑顔の報酬
投稿:院長

訪問診療では、病気の終末期と診断され、在宅緩和治療を目的に診療が始まり、最終的には自宅でお看取りする方がいる一方で、それまで元気だった方と急にお別れすることがあります。


3月にお亡くなりになった90代のSさんもその一人で、年が明けるまではとても元気に過ごされていました。


Sさんは、私のおやじギャグをいつもニコニコと笑って下さる数少ない?明るく優しい方でした。


ある日の診療で、Sさんから「ドライアイなので目薬が欲しい」と言われました。


高齢者だと通常は「目が乾くので」と表現される方が多いのですが、「ドライアイ」と表現された方はSさんが初めてだったので、それ以来、私が逆質問をして、Sさんと合言葉をするようになりました。


私「Sさんに目薬を出したいのですが、Sさんの眼の症状はなんですか?」

Sさん「ドライアイです」


Sさんは、頭がとてもしっかりしていましたが、自分で足の爪切りをすることが困難になっていたので、診察ではSさん専任の「爪師」として爪切りをすることが日課になっていました。


私が小学生の頃、毎月、バリカンで祖父の散髪をしてお小遣いとして700円をもらっていたのですが、Sさんからの報酬は、私の冗談にいつも「あっははは!」と声を立てて笑って下さるとびきりの笑顔でした。


Sさんの笑いは「今日もSさんに笑ってもらって嬉しかったな!」とこちらが元気をもらえるような不思議な力がありました。


今年の1月の下旬、黄疸が出現したと連絡があり往診した時、枕元には大好きな饅頭が置いてあり、「病気があっても饅頭を忘れずにいるなんてさすがSさんです!」と話した時も、病院で診断を受けて最後の日々を自宅で過ごすために退院した時も、いつものように「あっははは!」と声を立てて笑ってくださいました。


亡くなる1週間前は、意識が遠のき、さすがに声を出して笑うことは叶いませんでしたが、Sさんと出会ったことに感謝しながら、精一杯、脚をマッサージさせてもらいました。


診療所のSさんのカルテのトップページには、今でもSさんの微笑む姿を写真で見ることができます。


今、Sさんに声をかけるとしたら、こんな言葉を口にするでしょう。


Sさん、目はドライですが、心は優しさで満ち溢れていますよ!」


Sさんなら、天国で「あっははは!」と笑ってくれるに違いありません。


2026年4月30日(木)

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