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 第 404話 牛と火災警報器
投稿:院長

80代の男性Kさんは、脊柱管狭窄症、糖尿病の神経障害、抗がん剤の副作用などで、ここ数年、足の痛みに悩まされていました。


痛みのため、椅子に座ったまま身動きができず、毎日、椅子に座りながら夜を明かしていました。


室内で観葉植物の栽培が楽しみの一つでしたが、大好きな趣味からも遠ざかり、奥さんが観葉植物の手入れを引き継いでいました。


足浴、マッサージ、リハビリなど非薬物的な治療や、処方されている薬剤を調整したり、新たに漢方薬を導入してみたもののさっぱりと効果が上がらず、気持ちが沈み込んでネガティブな発言ばかりが目立っていました。


そこで、痛みにとらわれてしまっている状態を、少しでも改善するために抗うつ剤を少量から開始してみることにしました。


そして、そこから2週間ほど経った頃から痛みが和らぎ、自宅で「痛い」と口走ることがなくなり、表情が明るくなってきました。


それから気持ちも前向きになり、ベッド上で寝返りしたり、自力で座ることができるようになり、奥さんの介護負担も軽くなってきました。


そんなある日の夜、マンションで火災警報器の誤作動で警報音が鳴り響き、驚いた奥さんが、玄関に出て周囲の様子をうかがっていたところ、なんと本人が杖を使いながら奥さんの傍まで歩いてきて「どうしたの?大丈夫か?」と話しかけてきたそうです。


「あなた、歩いているじゃないの!」と奥さんが言ったのかどうかわかりませんが、奥さんは、火災警報器が鳴ったことよりも、Kさんが立って歩いていることを驚いたに違いありません。


後日、このエピソードを奥さんから聞いた時、私はアニメ「アルプスの少女ハイジ」の中で、ハイジの親友で足の不自由なクララが立ち上がった時のことを思い出しました。


クララは小屋の近くの木のそばで、クララのおばあさんに本を読んでいましたが、おばあさんは途中で居眠りしてしまいました。そんな時、クララの元に一頭の牛が近づき、おばあさんはクララの悲鳴で目を覚ましました。牛の恐ろしさのあまり、クララは座ったまま後ずさりし、そのまま木に寄りかかりながら立ち上がったではありませんか!おばあさんはこの時、「クララが立った!」と呟きました。


今では、クララがなぜ立てなかったのか、日光不足による「ビタミンD欠乏症くる病」とか精神疾患の「転換性障害」とか、原因としていろいろと考察・推測されているようですが、Kさんの場合、火災警報器が牛の役割を果たしたのは明らかなようです。


2026年2月11日(水)

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