第375話 日本人らしさ |
投稿:院長 |
歳を取ると、若い時にはなかったような様々な症状が出てくるようになります。 目がかすむ、関節が痛い、腰が痛い、足がしびれる、眠れない、手が震える、耳が聞こえない、耳鳴りがする、尿が漏れる、夜間に何回もトイレに起きる・・・など数えたらきりがありません。 症状が和らぐように工夫を凝らしますが、なかなか全てを解決することは難しく、上手に付き合っていかなくてはいけない場合が少なくありません。 80代の女性Mさんもそんな一人で、長年自由が利かない自分の身体と付き合ってきましたが、どことなくユーモアのある方です。 ある日の診察で私がMさんに労いの言葉をかけたときのことです。 私「Mさんは、いつも頑張っていらっしゃいますね」 Mさん「私は、これ以上頑張りたくありません」 私(思案しながら)「Mさんは、いつも努力をしていらっしゃいますね」 Mさん「私は、努力は嫌いです」 私(思案しながら)「それでは・・・いろいろ大変なことがあったと思いますが、長い間、日本人らしく自分の体調と謙虚に向き合ってきたんですね。ご苦労様です」 Mさん「どれはどうもありがとう」 私(内心ホッとしながら)「日本人は嫌いと言われなくて良かった〜」 Mさんとのやり取りは、いつもこんな調子で、どんな声掛けをしたら良いのか医者としての技量が試されます。 一般的に、日本人らしさとは、「まじめである」、「勤勉である」「秩序を好む」、「和を重んじる」、「礼儀正しい」、「情を重んじる」、「思いやりがある」、「誠実である」、「謙虚である」、「おもてなしの心がある」などがあげられると思いますが(過去には日本人らしさが失われ、進むべき道を誤った歴史もありますが・・・)、少なくとも私は、両親のもとで日本人に生まれ育ったことを誇りに感じているので、日本人らしいと感じる多くの患者さんには、素直な気持ちで「日本人らしいですね!」と声掛けしてみようかと思っています。 これから時代が変わり日本人らしさの定義も価値観も次第に変化するのかもしれませんが、先人から受け継がれてきた日本人としての美徳が失われたりしないことを祈るばかりです。 ちなみに、あるアンケートで、日本人で良かったと思える理由の1位は、高齢者が「四季の移り変わりがあること」で、若者が「食事がおいしいこと」だそうです。 高齢者は自然を楽しみ、若者は食を楽しむというわけです。 将来、若者が高齢者になる頃には、「日本人らしく食通ですね!」と声掛けすることが多くなるのかもしれませんね。 |
2025年4月12日(土) |
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