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 第361話 干し柿の達人
投稿:院長

Oさんは、70歳代の女性。

一人暮らしをしていましたが、病気の進行で歩くことが不自由になってきました。

娘さんの自宅に転居するか、施設に入所するか、迷った末に選んだのは、訪問サービスを充実させて自宅で一人暮らしを続けることでした。

自宅という空間は、誰にも気兼ねすることなく、自由に過ごすことができます。

Oさんは優しくて気配りの人。

今まで、他の人に対し遠慮してばかりで、それでいて自分のことに対して無頓着なOさんが、これからは自分のための生きようと下した結論でした。

その後、Oさんの自宅に訪問すると、搬入されたばかり介護用ベットに気持ちよさそうにゆったりと横たわるOさんの表情はとても穏やかです。

Oさんは何か吹っ切れたように、自分だけの空間、自分だけの時間を満喫しているようです。

ある日の診察で、Oさんは私に話しかけてきました。

「先生は干し柿が好きだったでしょ。今朝、干し柿を作ったの」

ベランダを見てみると、夕日に照らされて映える丸々とした干し柿が吊るされていました。

そういえば、昨年、Oさんの干し柿を感激しながら食べたことを思い出しました。

不自由な身体を動かして、きっとつらい思いをして作ったであろうに、他人に対して配慮してばかりのOさんらしさはそのままです。

Oさんが全身全霊のエネルギーと心を込めて作った干し柿。

Oさんのまるやかで味わいのある干し柿を食べた私は、きっと「干し野」になってしまうに違いありません。


2024年11月22日(金)

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