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 第355話 手芸の達人3
投稿:院長

今回の手芸の達人もSさん(353話、354話とは別な方)です(笑)。

Sさんは97歳の女性で、今はお嫁さんと暮らしています。

普段はベッドで休まれているのですが、体調が良い時には、茶の間の作業台で手芸作業が始まります。

一体何を作られているのでしょうか?

それは子供の手のひらサイズの笠地蔵です。

様々な色合いや模様の生地を組み合わせて作った笠地蔵は、とても上品で優美です。ゆっくりですが、裁縫道具を使いながら集中力を保ちながら一つ一つ丁寧に作業を進めていく様子はまさに職人。

自宅には完成したいくつもの笠地蔵が保管してありますが、身に着けている笠と袈裟は何一つ同じものはありません。それどころか、どれも柔和で穏やかな表情を浮かべているものの、よく見ると意思を持つ生命体のように少しずつ表情が違っているのです。

普段は物静かで多くは語らないSさんですが、Sさんの穏やかな心や豊かな創造力を笠地蔵が物語っているかのようです。

仏教では、お釈迦様が亡くなった後、地上の生命のあるすべてのものを救済するためにこの世に下るとされる弥勒菩薩(みろくぼさつ)が現れるまで、567000万年の時がかかるとされています。

お釈迦様がなくなったのは、今から約2500年前の西暦紀元前486年とされているので気の遠くなるような時間です。

実はお地蔵様とは、この弥勒菩薩が現れるまで、大きな慈悲の心で苦悩する人々を救ってくれる存在と信じられてきました。

先日の診療で、Sさんの作った笠地蔵をお裾分けしてもらって診療所や自宅に飾っています。

小さいけれど、その大きくて温かな慈悲の心で職員や家族を包み込んで救ってくださる存在として大切にしたいと思います。

私たちがSさんを見守っているのではなく、実は笠地蔵を通してSさんが私たちを見守ってくれているのかもしれませんね。


2024年9月17日(火)

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