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 第353話 手芸の達人1
投稿:院長

在宅診療を受ける患者さんの中には、手先が器用な方が少なくなく、様々な手芸品を見ることができます。

今回から、そんな手芸の達人を紹介しようと思います。

94歳の女性Sさんもその一人で、昔はとても裁縫が得意で、今もたわしの手編みに余念がありません。

そして、そのカラフルで調和のとれたデザインは見る人の目を引いてしまうほどの出来栄えです。しかし、認知症のあるSさんは、自作してもそれをすぐに忘れてしまいます。

私「Sさんが作るたわしの色合いはまさに芸術品ですね」

Sさん「えっ、これを私が?私がこんな綺麗なものを作れるわけがないじゃないね」

もしかして、これって自画自賛?(笑)

ある日、ズボンの裾が緩んできたので、娘さんがSさんの目の前にそっと裁縫の道具を置いて、Sさんがどんな反応をするのか見守っていたそうです。

しばらくして、ズボンと針を持ったSさんはそっと作業を始めました。

Sさんにとって何十年ぶりに行う裁縫でしたが、その技術は今もしっかりと体に染みついており、あっという間に完成させてしまいました。

自宅を訪問した時、私はきれいに裾上げされたズボンをみて、私は再びSさんを称賛することになりました。

それを聞いたSさん曰く、「こんなのは、店に出すものではないからね〜」

これを聞いた私は、Sさんが自分で裾上げしたことを忘れていなくて安堵しました。それどころか、Sさんの裁縫に対するプライドは今も健在でした。

Sさんの裁縫は、幸せだった過去と穏やかな今を縫い合わせて結びつけるものだったんですね〜。

ところで、私が称賛しても絶対に喜ばないSさんをどうしたら喜ばすことができるのか?

今度は私の「技術」が試されそうです。


2024年8月19日(月)

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