第351話 大往生 |
投稿:院長 |
人にはいろいろな死があり、在宅診療では、様々な年齢、基礎疾患、性格、社会背景、家族背景を持った方をお看取りすることになります。 その中で、大往生と判断できる方も少なくはありません。 往生とは、安らかな死後に極楽浄土へ生まれ変わるという仏教用語に由来するそうですが、中でも大往生とは、「安らかで天寿を全うしたと納得される死」に限って使用できる言葉です。 したがって、本人と関わりのある人の中で、本人の性格や考え方、生き方を一番良く知っている人物が大往生と判断できるのです。 つまり、大往生の条件とは、人生を振り返った時、やり切ったと言えるような人生であること、長寿であること、安らかな死であること、本人を一番支えてきた人物の中でそう判断できること、ということになります。 今月お看取りした、91歳のHさんもそのうちの一人で、Hさんは、50年以上もの長い間いくつもの病気をご家族と苦楽を共にして一緒に乗り越えてきた方です。約半年間の入院生活を経て、6月にご家族の待つご自宅への退院がようやく実現し、退院した時のHさんの喜びに溢れた表情は感動的でした。 それから1か月余り、我が家でとても濃密で貴重な時を過ごされました。 お看取りした時のHさんのとても安らかな表情と、奥さんの悔いなく全てをやり切った表情を見て、Hさんとご家族に対して、「大往生ですね」と声を掛け敬意を表しました(ただし、今までの経緯や雰囲気を察しないで、他人が勝手に大往生と評価することは失礼にあたるので、注意が必要になります)。 大往生だったと言える人生は、悲しみの中でも、残されたご家族が今後の人生を前向きに生きていく原動力になるに違いありません。 本人を極楽浄土へと導き、残されたご家族を次の人生へと導いてくれる人生の節目の言葉。大往生とはそんな響きを持った言葉です。 |
2024年7月31日(水) |
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