第350話 家族の温もり |
投稿:院長 |
癌の終末期で病院から紹介された女性Sさんが、自宅で選んだ最後の療養場所は子供部屋でした。 今は成人となり、関東に嫁いでいる娘さんの部屋には、今も勉強机や漫画本が残され、娘さんが高校生までこの部屋で暮らしていた痕跡がたくさん残されていました。 Sさんは病院から退院後、この部屋に布団を敷いて過ごされていました。 仰向けになって天井を眺めながら過ごす時間はSさんにとって至福の時。 「帰ってきてよかったです。ここにいると落ち着いた気分でいられます」 そう、嬉しそうに話してくださいました。 きっと、今も残る娘さんの温もりを感じながら、妻として母として幸せいっぱいの生活をしていた時間を懐かしんでいたに違いありません。 Sさんのご主人は、Sさんのその想いを受け止め、Sさんを帰省した娘さんと一緒に最期の瞬間まで懸命に支え続けました。 話が変わりますが、今、暑さが盛りになり、Tシャツ姿の患者さんを診察することが多くなりました。 それも若者が着るようなTシャツです。 ある日の診察でご家族に尋ねました。 私「このTシャツを着ているととても若々しく見えますね。本人用ですか?」 ご家族「いえ、孫が昔着ていたTシャツです。孫からの“お上がり”なんです。」 きっと患者さんは、お孫さんの成長を温かく見守ってきたのでしょう。 そして、今は立派に成長したお孫さんのTシャツを着て、お孫さんの温もりを感じながら過ごされているに違いありません。 自宅には、今は使わなくなったけれど、家族の温もりが感じられるような心の癒しがたくさん眠っています。 そのTシャツ、将来、自分が歳をとった時、“お上がり”として活躍するかもしれません。 あ〜、また古いものが捨てられなくなってしまった・・・。 |
2024年7月24日(水) |
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