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 第342話 命とは、生とは、人生とは
投稿:院長

私が今まで最も感銘を受けた本の一つは、元和歌山県立医科大学教授・仲野良介先生が執筆された「命とは、生とは、人生とは」です(同文書院)。

この本は、当時医学生だった仲野教授の次男・將(すすむ)さんの生い立ちや悪性腫瘍を発症して21歳の若さで亡くなるまでを、我が子への鎮魂の書として医の倫理や生と死をめぐる問題まで深く掘り下げられて書かれた仲野教授の手記です。

かれこれ30年以上前、私が医学生の頃にアパート近くの書店で買った本で、私と同年代の希望に満ちた医学生が、自分の夢を叶えられないまま人生を終えなくてはならないという過酷な運命を知り、また、医師になる過程で、それを支えてくれる多くの人の想いがそこに詰まっているのだということを知り、身の引き締まるような思いになったことを今も覚えています。

この本の最後の章にこう書かれています。

我が子として將に恵まれたことを大いなる歓びと誇りを感じ、そして彼を育てながら、彼からいろいろと教わり学んで、人間として成長してこられたことに深い感謝の念を覚える。「ありがとう、將。君はすばらしかった。生まれた日から、そして最期の日まで」

そして、今、在宅医療で医師を診察する機会があります。

私よりも医師として大先輩の方々ですが、医師である前に、人として尊敬できる方ばかりです。

今年お亡くなりになったS先生もそのうちの一人です。

S先生は、終末期をご自宅で過ごすことを決断され、病院から退院したばかりの時は、まだ身体が辛そうでしたが、ご家族の献身的なケアが奏功し、次第に平穏な時を過ごされるようになりました。

何気ない日常生活を大切に、そして真剣に生き抜かれました。そして当初の予想を遥かに上回り、10ヶ月の間、最愛のご家族と共に濃密な時を過ごされ、私達に対して夫として、父として、そして人としてあるべき姿を教えて下さいました。

哲学者のルソーはこう述べています。「最も多く生きた人は、最も長く生きた人ではなく、最も多く生を感じた人である」

先生のご遺志は、立派にご家族に受け継がれ、いつまでも生き続けるでしょう。

最後にS先生に感謝の言葉を添えたいと思います。

S先生、ありがとうございました。あなたはすばらしかった。出会った日から最期の日まで。


2024年4月20日(土)

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