第340話 ヤクザと訪問診療 |
投稿:院長 |
普段は診療所の他の医師が診察している80歳代のKさんが、腹痛を訴えているということで、早朝に往診することになりました。 自宅に伺うと、Kさんは苦痛のため、ベット上で喘いでいました。 診察すると、尿閉症状が出たようで、膀胱がパンパンになり、下腹部が張っている状態でした。 すぐさま導尿カテーテルを挿入すると、約600mlの尿が一気に流れ出し、Kさんの苦痛は軽減しました。 Kさんの体をよく見ると、腕や胸には立派な入れ墨があり、手の指は3本詰められて(切断されて)いました。 Kさんの余裕が出たところで話しかけてみました。 私「もしかして、その道(ヤクザ)の人ですか?」 Kさん「はい、昔はそうでしたが、今は足を洗っています」 私「Kさんはとても優しそうなので、その道の人だったようには感じられませんよ」 Kさん「昔は若気の至りでしたが、もうこの歳ですから」 苦痛が取れたKさんとの会話は、穏やかで楽しい時間でした。 患者さんの中には、Kさんのようにヤクザだった人、軽犯罪や殺人(!)で刑務所に収監されていた人、職を失い路上で生活していた人、愛人に捨てられて家を追い出されて車中で生活していた人・・・など波乱万丈の人生を送ってきた方もいますが、訪問診療で接する彼らは、年齢を重ねて一様に穏やかで柔和な表情を見せます。 人生が穏やかに収束していくことの大切さを身にしみて感じています。 ところで、Kさんの自宅を出るとき、Kさんと再開の約束をしたのですが、「指切りげんまん」はやめておきました。 |
2024年4月2日(火) |
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